ある病室で
賀野田 乾
第1話
桜の木の枝に蕾が目立ち始めている。屋上近くの病室から春の近づき見える。
一日ごとに病室の窓ガラス一枚が隔てる、外の世界と内の世界。
ずっと入院している僕の世界を隔てるガラスが2枚ある。
別に、ガラスのハートがそのうちの一枚だって言うほど中二病拗らせてるわけじゃないつもりだけど。
いや。中二病気味ってのは否定しないけど。だけど、考えてもみろよ。ずっと入院を続けていて、
世界を隔てるガラスの一枚が病室の窓ガラスになっている僕もある楽しみと言えば、時々親が差し入れてくれる
本とゲームの他には、せいぜいネットくらいなんだから。
え?病室の桜が咲きそうじゃないかって?そうだね、窓からは桜の枝に蕾がついているのが見えるね。
おっと、僕がなぜ、急に気にしだしたかを説明するんだった。
一言で言えば、気になる相手ができたから。
好きな相手なのかって?そうだね。
好きな相手だったかもしれない。
ずっと入院生活が続いていて、親以外はリアルで話す相手が看護師さんと
回診に来る先生くらいしかいなかった僕がある時話しかけてみたら話が合って
(恥ずかしいけど、実はアニメの話からだった)、それから少しずつ好きなゲームや本の話、
将来なりたい事とか(もしなれたら、の話だったけど)をしてね。
それは恋愛感情かって?それはわからない。
恋愛かどうかがわからないんじゃない。男が女かわからない。
さっき、僕がなぜ病院でリアルで話す相手に大事なものが抜け落ちてるのか気付かなかった?
そうですよ。同じ病室で話す入院患者です。
最初の一年目以降、入院生活で僕と同じ病室にいる人はいない。
僕の病状がそれだけ特別に隔離されて治療を受けないといけないほど重いものだから。
今日も休憩室からは急いで駆けつけてきたけど、僕の病状からしたらかなりの無理がある行動でした。
僕が気になっていた相手ってのは、ここまで言えばわかるでしょう?ネットの相手だったんですよ。
ネットで知り合ったあの人、気さくな人のようで僕の病状を知ってからは、それでドン引きするでもなく、
色々と励まして、それどころか色々と治すための知識までどこで調べたのか教えてくれた。
それで随分と救われたし、うん。きっと僕はその人をネット越し好きになったんでしょう。
相手も実は僕を好きになってくれてたって、うん、唐突だけどそう知ったときはこれほど口で言えない感情があるって思いませんでした。
けど、その好きって感情は報われる事はないんです。
僕はもう、それまでの存在でいられない。この病室で過ごす時も終わりを告げる時が近そうですからね。
相手にも、それを告げたら何も言わずに受け入れてくれました。
それで、僕たち約束したんです。桜の気が咲く頃にお互いの存在を一緒に消そうって。
ここまで言えば、わかりますよね?先生。
なぜ、この病院に来たばかりの先生が敷地内の病室からしかわからないような桜の木の事をすぐにわかったのか?
僕が、こんなに重い病気で駆けつけるなんて言葉浸かっても、それ自体を先生が心配しなかったのか。
だって、僕???もう、この存在は消すって一緒に約束しましたよね?先生?
私は車椅子だって先生が知っていたから意外に理由がないじゃないですか。
ねえ、先生。私、こうして先生を同じ病院で出会う事になってから、それまでキャラを一緒に消してリアルで先生の治療を受けられるって聞いて、
本当に嬉しいんですから。先生もそう思ってるでしょ?返事はいりませんから。
必ず治しますからね。
ある病室で 賀野田 乾 @inuitaku
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