幸福をもたらす守護動物

あまやよも

幸福をもたらす守護動物


おめでとうございます!本日をもって貴方は5896517番目の勇者です!!


近年の勇者ブームにより、人口の9割が勇者という職業に就く。


火付け役となったのは政府だ。勇者登録を受けることによって、政府から支給品を1つ頂ける法令が下ったのだ。支給品は様々で金になったり、それこそ旅の便利グッズだったり、魔法具だったりだ。


しかしながら、勇者登録者数は予想を大きく上回り支給品が、粗品になってきた。


そういう頃合に、俺、カリュ・オリバーは勇者になった。


勇者登録窓口に座るお姉さんは、鳥籠を出した。


「こちら、政府からの支給品です。」


笑顔で、そして無言で押し付けられる。


「え、あの。」

「以上で手続きは終了です!歴史はあなたと共に!」

「ちょっとまって!」


業務作業を終わらせようとしていたところ悪いが、俺は止めるしか無かった。


なんでしょうか、とスっと真顔になったお姉さんが、面倒くさそうに問いかける。こわい。


「あの、これは?」

そう言いながら、支給品を指さす。

お姉さんはチラッと視線を支給品に寄越し、こちらを見た。


「勇者登録による支給品です。幸福をもたらす守護動物です」

「守護動物?これが??どうみてもそこら辺のフクロウだろ!!」


そう、政府からの支給品はフクロウだった――――

しかもそこらへんにいそうな。


見た目は木菟、サイズは5センチの円錐。

片目は怪我をしているせいか、いかつい。


しばしフクロウと見つめあっていると、「では」というお姉さんの声とともに窓口にカーテンがかかった。

15時。なるほど、窓口対応終了の時間だ。



1人片手にフクロウが入った鳥籠を持ち役所から出る。


「粗品になってるって噂は聞いていたけれど、ここまでとは。せめてフクロウにそれらしい装飾つければいいのに…」


ため息をこぼしながら、鳥籠の中にいるフクロウを一目見る。

本当にどこにでもいそうなフクロウだ。足と鳥籠を繋いですらいないから鳥籠を開けたら逃げそうだ。


「お前も大変だな、こんな為に捕えられて――逃がしてやるから、もう二度と捕まるなよ」


そっと地面に鳥籠を下ろし扉を開ける。

籠の中のフクロウは、直ぐに飛び立っていった。


「ちっさいのに、すげースピードで飛ぶんだな」


フクロウが飛び立つ姿を見届けて、鳥籠を手に取る。


「さて帰るかね」


フクロウの元気を祈って、そして今日から始まる俺の勇者生活に乾杯する為に居酒屋へ向かおうとした。


バサッという羽音が頭上から聞こえる。

それも1回ではなく、どうも頭上で旋回しているようだ。

不審に思い、見上げると―――


「おま、え?フクロウじゃん」


先程のフクロウがいた。しかも、くちばしに何か袋を加えている。

訳が分からず、見上げていると、後方から足音が聞こえる。


「兄貴ー!泥棒フクロウいやしたぜ!」

「やい、テメーの羽根全部もぎ取ってやろうか!!」


振り返るとゴロツキが3人。っていうか、え?泥棒フクロウ??

次第に距離が近くなり、ゴロツキが俺を見た。


「あ?テメー何見ていやがる……ってそれ!」

ゴロツキが指さしたのは鳥籠だった。



待ってくれ



ゴロツキは、理由は知らんがこのフクロウを追っている。

フクロウは俺の頭上で旋回している。

俺は鳥籠を手にしている。



「テメーのフクロウか?」


待て待て待て待てまて!!


「いやいや、そんな訳ないですよ〜」

「じゃあその鳥籠はなんだ」

「これは、その、そう!拾った!落ちていたので拾ったんすよ!質屋にでも持っていこうかなーって」


こんな所でゴロツキとやりやったらたまったもんじゃない。必死に笑顔を顔に貼り付け、ゴロツキへ対応する。


「それに鳥類って獲物を狙う時、狙いを定めてタイミングを見計らう為に旋回するって言うじゃないっすか!俺も狙われてて困ってたんすよ〜」


鳥類のことなんぞ、これっぽっちも知らないが、これで頭上を旋回している件については大丈夫だろう。騙されてくれ!!


弱者アピールをし、ゴロツキ等に視線を送る。

すると、先程まで口を聞かなかったリーダーらしき人が口を開いた。


「そうか」


納得してくださったー!!心の中でファンファーレが鳴る。今宵は宴だ―――



「じゃあ手伝え」


―――ん?


「え、あの。」

「お前がここにいれば、そのフクロウは飛んでいかない。捕まえるまで突っ立ってろ」

「かしこまりました」


ギロリと睨まれちゃあ、しょうがねえ。従うしかなかった。

ゴロツキがフクロウ確保のために話し合いを行っている間、フクロウを見上げた。


――捕まるなよって言ったのにな


こいつ何やってんだと思いながら見つめると、フクロウは羽ばたき俺の肩に止まった。


「え」


こいつマジでなにしてんの。

肩に止まったままのフクロウは頬ずりをし始めた。


「あ!兄貴!あれっ!!!!」


ゴロツキ、兄貴への報告少し待ってくれ。

その願い虚しく、都合よく俺に背を向けていたリーダー……、兄貴が振り向く。


「よお、随分懐いてるじゃねーか」

「これは、ちがくて、その」


兄貴はゆっくりと俺に近づいてくる。


「まあ、そのフクロウがテメーのだろうが、そうでなかろうが興味ねぇ。テメーごとフクロウぶった斬ってやるよ」


血の気が引く感覚がした。やばい、逃げろ!


その瞬間、足を動かす。街から森の方角へ逃げる――


「幸福をもたらす守護動物です」


お姉さんの声が脳裏によぎる。


「幸福!?絶対もたらさねーだろ!!!」


俺の叫びは、森に響き渡った。

勇者生活1日目、街から逃げ出しました。


      ※


あれから数週間、それはもう凄まじかった。

何かって、フクロウがもたらすものだよ。


飛び立ったと思えば、連れ帰ってくるのはゴロツキを始め、盗賊団、猛獣、そしてモンスターまで。


そして、俺の目の前にいる魔王である。


「戯れにフクロウを追いかけてみれば、勇者とはな。おもしろい」


戯れで城を出るなよ…。例によって俺の頭上を旋回していたフクロウは俺の肩に止まった。


「よかろう、ここで一戦交えようではないか」


そう言って魔王は、杖をかまえた。

正直に言うと、勝率はない。猛獣やモンスターだって辛うじて倒してきたんだ。

しかし、逃げると魔王に間違いなくやられる。

俺の選択肢はひとつ、戦って散ることだ。


――――本当に、幸福ひとつも寄こさなかったな。


ぽつりと肩に乗るフクロウを貶す。


「でも、まあ、一人で旅するよりかは楽しかったよ。ありがとな」


言い終わると同時に、魔王へ駆け出す。俺の武器は先日盗賊団から拝借した大剣のみ。大きく踏み込み、剣をふるう―――――が、その刃先は魔王に届くことなくはじかれた。


―――まあ、普通に防御魔法張ってるよな。


吹き飛ばされながら、のんびり考える。ここは森だ、後ろには大木がある。

恐らくそこに追突するだろう。そこで絶えるか、かすかな命を魔王に奪われるだけだ。受け身のとり方なんて知らないし、本当にあっけない勇者人生だったな。


そう思い、目をつぶった時


「やっと力を発揮できた」


誰かの声と、強烈な光、そして首根っこを掴まれたことで目を開く。

そこには、一回りも二回りも成長したフクロウがいた。

くちばしで俺の首根っこをくわえていた様で、地におろされる。


「え、ってかしゃべっ…た?」


頭が状況を理解できない。とりあえず、フクロウに指をさしながら質問する。


「よお、最初にあった時から守護動物だって言ってんのに聞く耳もたねーでよ。お前、今までよくも我のことを野生だの、そこらへんにいるだの言いやがったな」

「え、まじ。本当に守護動物だったんだ」

「そうだって言ってるだろ。守護動物だから、守護する瞬間が来ないと能力解放できないんだよ。だがら色々な輩を使ってお前を襲わせていたのに、のらりくらり生きやがって」


とてもひどい言われようである。


「なにやら愉快な話をしているようだが、話を戻してもよいだろうか」

「あ、そうだ。俺今戦ってるんだった」


急いで魔王に視線を送る。


「まさか、フクロウ、お前守護するだけとか言わないよな」

「愚問だな」


再び強烈な光と共に、俺の剣が光りだす。


「ふむ、ここからが本領発揮ということか、勇者よ」

「さあ?どうだろうな、でも―――」


言葉を切り、魔王を見る


「さっきの俺と、今の俺が違うことは確かだ!」


言い終わると同時に、魔王へ駆け出す。俺の武器は先日盗賊団から拝借した大剣のみ。大きく踏み込み、剣をふるう―――――








      ※




歴史的ブームを魅せた勇者職業は、魔王討伐とともに廃れていった。

今は、けがや病を治療することが出来る薬剤師と―――――


「おめでとうございます!本日をもって貴方は1453387番目の白魔法使いです」


白魔法使いが人気の職業だ。


「こちら、政府からの支給品です」


相変わらず笑顔で押し付けるそれは、鳥籠だ。


「――――これは?」


支給品を指さしながら、お姉さんに問いかける。


「白魔法使い登録による、支給品です。幸福をもたらす守護動物です」


鳥籠に入っているのは、


「よろしくな、フクロウ」


そこらへんにいそうなフクロウだった。

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