吾輩はフクロウである
水谷一志
第1話 吾輩はフクロウである
一
吾輩はフクロウである。名前も…フクロウだ。
ただ、ここで言っておくが吾輩、いや私はいわゆる動物のフクロウではない。世間の人たちは私のことを「防犯カメラ」と呼ぶ。
私はいわゆる知的障がい者の入所する福祉施設の「防犯カメラ」だ。最近は過去に他の施設である重大な事件があったこともあり、どこの福祉施設にも防犯カメラがつけられている…らしい。
それはさておき、私はこの施設に設置されてから今まで様々な利用者、つまりこの施設に入所する知的障がい者のいろんな顔を見てきた。それはとても微笑ましいもので、利用者は本当に素直で愛おしいものだということを私は認識させられた。
しかし、私の仕事は単なる「優しさ」だけでは務まらない。私は以前そう思わせられるできごとに遭遇したことがある。それは…そう、私の施設の利用者が脱走した時だ。
その時はその施設の職員は大慌てであった。
「○○さん、いたら返事してください!」
そう職員は施設内を大声で声かけして回るが一向にその利用者は見つからない。そして最終的にその施設職員は私が脱走劇の一部始終を見ているであろうと思ったのか、私を頼ることになった。
「私はその利用者をずっと見ていました。おそらくこの施設を出て△△まで行ったと思われます。」
もし私に口がついていたならそう声を出していただろう。…いや、なぜか私は実際にそう言ったような気もする…そんなことはありえないのだが。
とにかく、私を頼った施設職員はその利用者が外部へ出たことを確信し公用車で利用者を探しにいく。そして私が考えたその場所に利用者はいた。
「良かった…○○さん、帰りますよ。」
そして、その事件は無事解決した。
…まあここの施設での務めはさっきの事件のように大変なことも多いがやはりやりがいも多い。例えば、さっきのように施設職員が私を頼ってくれる時。もし何かが起こったら、その一部始終を見ている可能性が高い私を職員たちは頼る。そして、
「良かった。やっぱり頼りになりますね~。」
と職員は言う。
…ん?防犯カメラに対して敬語?と私は思わなくもないが。
また知的障がい者である利用者の人たちも、私を慕ってくれる人がいる。例えばであるが、私はある男性利用者にとても慕われている。ただその利用者は私をよくベタベタと触ってくるので一度問題になって職員会議にかけられたこともある。
…ん?別に防犯カメラを触るくらい、構わないのではないだろうか?まあ私が壊れれば大変なことにはなるが…。
私はそうやってこの施設の利用者と関わり自分の務めを果たしていく…私はそんな生活がずっと続くと思っていた。
そんな中、ある小さな事件が起こる。
二
『…あれ?何も見えない。』
それは、よく晴れた朝のこと。私は急に視界を遮られ、私の目の前は真っ暗になった。
『これは…前に障害物があるわけではない。と、いうことは…、
私は故障した!?』
そう思い当たるまで、時間はそんなにかからなかった。
『だとしたら早く直してもらわないと困る。私は…うちの施設に必要とされているんだ!』
そう考えているうちに、なぜか私が運ばれていく感触を私は感じる。
『これは…、修理に出してくれるのだろうか?』
…いや待てよ!?
『私はフクロウ。この施設になくてはならない防犯カメラだ。でも…。
その務めは私以外の防犯カメラにも務まるのではないだろうか?
私は…修理されることなくこのままスクラップにされるのだろうか?』
そんなのは嫌だ!私は心の中でそう叫ぶ。私は…うちの施設の利用者が好きだ!私はもっと利用者を見ていたい。もっと利用者と接したい。もっと利用者と関わりたい。そう、私は…。
このままスクラップにされるわけにはいかない!
私はそう強く念じた。すると…、
「大丈夫ですよ。あなたはもうすぐ回復します。」
不思議な声が聞こえてきた。
三
「良かった…。」
そこに響くのは、とある知的障がい者の施設の職員の声。
「どうやら意識は回復されたみたいです。
先日の『交通事故』は大きなものでしたが、一命をとりとめられたようですね。
ここで、簡単な質問に答えて頂き認識の確認をしたいと思います。」
そう『医師』が告げ、その医師の横でさっきまで眠っていた『女性』に声をかける。
「まず、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
そして、その女性は答える。
「私は…、フクロウ。」
その答えを聞いた周りの施設職員たちは安堵の表情を浮かべて笑う。
「本当に回復したみたいですね。
ただ、今はニックネームではなく本名を答える時ですよ。
私たちの施設の『おフクロさん。』」 (終)
吾輩はフクロウである 水谷一志 @baker_km
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