第十四話 脱走とダンジョン


 月明かりのみがフィールドを照らす夜の道。

 バルトスの城から約十数キロ。とある自然ポップしたダンジョンに白仙は来ていた。

 こんな時間にもなるとダンジョン前に人はおらず、中へ入っても聞こえてくるのはモンスターのうめき声のみ。


「三階まで降りれればいいほうかの」


 入るとともに紫雲を鞘から抜き出す。

 ダンジョンにある松明の光が紫雲の刃を銀色に輝かせる。


「まずはゴブリン三匹っ!」


 神速で一気に距離を縮め、右手にある紫雲で右下から左上に切り上げ。

 からの体を左に捻って遠心力を付け、二体目を横一閃。上下で切り離し、上半身を右足で横蹴り。

 蹴られた胴体は血を周囲へ飛ばしながら仲間の降り下げられたこん棒でダンジョンの地面に叩きつけられる。

 最後となったゴブリン。

 そのゴブリンの脳内は焦りに焦りが重なっていた。

 仲間がほんの数瞬で殺され、今自分が振り下ろした攻撃も死んだ仲間に追い打ちをかけるかの如く思いっきり叩き下ろしてしまった。

 地面に叩きつけられた仲間の打撃部分は変色したうえで見るも無残に拉げ潰れていた。

 顔を上げるとそこには悪魔。とも見える謎の冒険者の姿。

 ゴブリンには再度攻撃する気すら起きず、瞬きを一つ。




「ほんとにゴブリンの肉は斬りやすいが脂が多くて参る…。切れ味が落ちてはかなわんからの」


 懐に入れてあった手入れ用の布で紫雲の刃を優しく血と油の汚れをふき取る。

 たった三秒。

 ゴブリン三体との戦闘に所要した時間にしては異様なタイムといえる。

 それからというもののダンジョンは至って平和であった。白仙にとっては。

 モンスター側からすれば突然の地獄に等しい。ましてや時間も時間。最も気を抜いていてもおかしくない時間に悪魔の到来である。

 前に出れば一秒も経たずに体が二つにされる。


 恐怖


 その思いがダンジョン一帯に広がり続けていた。

 白仙が目標の三階層を粗かた片し、一息つくとともに大きなあくびが一つでる。


「ふやぁ~」


 紐なしバンジーをしてから十数時間。気絶していたとはいえ、体に疲れがたまっていたようで大きなあくびが出るとともに疲れも共に押し寄せてくる。

 紫雲を鞘へ仕舞いダンジョンの壁を背に体を預ける。


「ふー。なにやらめんどくさい仕事を請け負ってしもうた気がするのー」


 吐いた息はダンジョン特有の冷たさで白くなり、空気へと溶け込む。

 その息が白くなるのを見て白仙は狐火を二つほど体のそばに作り出す。

 ふよふよと上下左右に揺れる青い狐火をじっと見ているうちに白仙はゆっくりと目を閉じる。


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