第九話 国竜防衛戦?国竜討伐戦です


 近くの民家の屋根へ白仙は飛び降りる。


「そこの塊は・・・どうやらあそこにアルギがおるようじゃな」


 南西側。住宅街の一角にある広場に鎧を着けた大勢の兵士の群が見えた。


 屋根伝いに広場へ向かう。


 カーゴンの方に目をやると隊列を組み、城の城壁をもう超えていた。


 乗り込んでくるその様子はさながら大戦時代。赤い空の背景が度を増させ、昔白仙が見た第一次、第二次世界大戦の様子を脳裏に浮かびださせる。


「アルギ!」


 広場のすぐ近くで屋根を下り、歩いて向かう。


 屋根を伝っているうちに会議だったらしい兵士の群は無くなり、数名の指揮を執っているらしい人間のみが広場にいた。


 その中から白仙がアルギの姿を見つけて声をかけると、アルギが駆け寄ってくる。


「白仙! なぜお前がここに。部屋の入口には兵士を立たせていたはずだが?」

「・・・窓を割った」

「は? あの窓を割ったのか? あれは全部術式が書かれていて割れるには爆発魔法のステージⅢぐらいでひびが入る程度なんだぞ?」

「え。すまぬ。肘で割ったぞ」

「・・・ま、まあそれはおいおい考えよう。なぜここに来た?」


 アルギは少し頭を抱えるが、向き直って優先順位を変更し、ここへ来た理由を白仙へ訪ねる。


「なぜ? 理由などなか。恩人への返しとでも思っておれ。あの黒い竜が敵のものなんであろう? 三体は片づけてやる」

「はあ!? 三体だと? 白仙。悪いことは言わん。この戦いばかりは参加させるわけにいかない」

「我は冒険者じゃ。アルギ、お主の部隊には入っておらぬ。気分で旅するような放浪人である。然りて我の気分であの竜を落とすだけじゃ」

「・・・勝手にしろ。悪いが、こっちはこっちの戦い方がある。邪魔になれば命は保証しない。一より百がモットーだからな」


 そう言い残してアルギは部隊員の元へ駆け寄り、指示を出し広場から市街地の中へと消えていく。


「ふん」


 白仙は自身の感情がいまいち把握しきれていなかった。


 なぜ今、アルギの残した言葉で不快感を覚え、嫉妬と似通った思いが募っているのか。天界では一度も感じなかったものにこの世界では多く感じさせられる。


 気持ちを落ち着かせ、距離を縮めてきている竜を見据える。


「いくかの。神速っ!」

 

 ミニステータス画面の神速の文字が黄色く表示される。


 広場を滑走路に速度を上げ、民家の屋根に飛び乗る。


 紫雲、青雲を鞘から抜き、二刀流の構えをとり城壁を超えた竜六匹のうち先頭にいる竜に目をつける。


「お前じゃ」


 ぐんっと体を前に倒し、屋根を駆け飛び上がり屋根を伝い続け、ものの十数秒で竜との距離は百メートル程。


 国一の民家の密集地帯に降り立ち、作戦を頭の中で組み立てる。


「式術。炎竜」


 ミニステータス画面の式術のスキルが黄色く表示される。


 紫雲と青雲にグリフォンと争ったときのように赤く燃え盛る竜が刃を覆いつくす。


「はっ!」


 屋根を蹴り、高度を上げる。


 目と鼻の先となった竜の顔面。白仙はにやっと不敵な笑みを浮かべる。


 ミニステータス画面の空中動作の文字が黄色く表示された瞬間に白仙は体を捻って空中で回転をつけ、回避動作に移ろうと巨躯な体を動かす竜へ回転斬りを一発見舞う。


 綺麗に切られた線から血が噴き出し始め、切り口には火傷のように焦げた跡がある。


 熱されたカッターで皮膚を。ましてや顔面。想像を絶するような痛みが竜を襲う。


「一体目・・・!」

 

 地面に降り立ち、顔を上げれば大きく体を空中でばたつかせる黒きカーゴンがいる。


 その様子は形容しがたき地獄。神とは思えぬ所業であった。


「! ・・・」


 言葉を発そうと口を開いた瞬間、残りの五匹のカーゴンが大きく口を開け、中にはあの火竜の時のような魔法陣が現れているに気付き咄嗟に後ろへ飛びのく。


 瞬間。白仙いた地点は業火に焼かれ、地面が黒く成り果てていた。


 火力が高い。直感的に白仙は思った。そして、五匹すべてがそれなりに統制の取れているものであるということも。


 カーゴンはとめどなく、魔法陣をまた編み出し中心部が赤く燃え盛り始める。


「!?」


 声にならない驚愕が背中から伝わる。


 後退するあまり、後ろには民家の壁。


 壁を突き破って下がるわけにもいかない。横に避けようにも時すでに遅く五匹から繰り出される炎の広さから考えて無傷ではいかないだろう。


「ちっ。賭けるしかないの」


 左手にある青雲を静かに鞘にしまう。


 目の前の竜は魔法陣をまた編み出し、編み切った瞬間に炎を出そうと五匹すべてが共鳴しあうようにうめき声が聞こえ続ける。

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