第四話 ダンジョン異常の発生


 閉じられたゲートとは逆の方。フィールドの中央から聞いたこともないような咆哮が三つ同時に上がる。


 ハッと後ろを振り向くと、大きな翼をはやした四足歩行の紛れもないグリフォンが三体。白仙だけに視線を合わせている。


「んな!ぐ、グリフォン!?よく、元の世界のラノベというのには出ておったが・・・!これがさす異世・・・というやつなのかの?」


 そんなことを考える白仙をよそに、現れたグリフォン三体は同時に羽ばたき、高き天井を有意義に使いながら上空で停滞する。


「・・・グリフォン単体はレベル七十九。それぞれが同等の動きができると仮定するならば、単純な和ではないようじゃな。積か乗算かの?」


 積で行けば四十九万レベル。しかし、これは同等かつ連携が取れた場合の話。もしくはそれ以上である場合である。


 紫雲と青雲の両方を鞘から抜き、スキル二刀流を発動させる。そして天界一、二刀流において深く狭く頒布させた最強と呼ばれた構え。『白仙流びゃくせんりゅう神碌しんりょく』の姿勢をとる。


 深く狭くというのも師範が白仙なのに対し、直接的な弟子は桃の一人だけで、天界内で孤立気味であったためである。が、深いというのは嘘なく。先手も取れ、守りにも転向が利く。


 深さは天界随一である。


 その構えは、両手にある刀を下に下げ、角度二十五度くらいに広げて直立する。


「式術。炎竜」


 神様が学ぶ基礎的な力の一つである式術。その過去最高実力者であった白仙にとって、刀に式術の力で炎を纏わせるのも、容易いことである。


 炎を纏った紫雲と青雲の刃には赤き龍が右往左往し、神々しさを出し、燃え盛っていた。


「さて。いくかの?レベル差を感じさせぬ骨のある輩であっておれっ!」


 地を蹴り、神速のスキルにより勢いよく加速する。空中のグリフォンとの間合いを詰め、十メートルほどになったところで、右足を深く曲げ、大きく飛ぶ。


「スキル。回転斬り」


 飛び込んだ先にいる、横一列になった三体のうち中央にいるグリフォンへ、スキル空中動作によって、前回転の力をつけ、グリフォンの顔面に遠心力を加えた炎の刃を計四回の二周して、フィールドに着地する。


 中央にいたグリフォンは顔面を縦に切られ、声を上げることもできず、絶命。飛ぶ力も無くなり重力に従って白仙の何十倍にも及ぶ巨体をフィールドの上に地響きを伴って落ちた。


「一体目。やはり張り合いがないの。手もだせんのかや」


 落ちたグリフォンの腹を踏み、力を込めてまだ生きている残りのグリフォンと同じ高度へ飛びあがる。


 仲間の瞬間的な死にグリフォンの残りも、気を引き締めるよう咆哮を出しはするが、攻撃する間もなく白仙の刀がまだ身体を横に向けたままであったグリフォンの一体の首めがけて、二本の刀を叩き落す。


 首の直系に満たなかった刃の長さにより、千切れかかるようになってしまったグリフォンの首はグロテスク以前に、無残さが出ていた。


 しかし、グリフォンも個体差があるようで首の千切れかかったグリフォンはまだ生命は絶えず、体を地に足をつけた白仙へ向け、勢いよく突撃してくる。


「骨ではなく首はある。と?誰がうまいこといえと。無駄な行動よ。知能が足りんせん」


 向かってくるグリフォンをぎりぎりまで寄せ付け、紙一重で神速によって体を翻し、避ける。


 そして。この戦いが白仙の一方的勝利を決める音がフィールドに鳴り響いた。


 グリフォンという巨大な質量が一点へ突撃し、その先にまた同じ点へ突撃するグリフォンがいたらだおうなるだろうか。それは両方ともが砕け散る運命である。


 頭から突撃していった二匹のグリフォンは、千切れかかっていた方は頭が衝撃で千切れ、フィールドの壁に当たって転がり、無傷であったグリフォンは頭から千切れかかっていたグリフォンの首の断面へ刺さり、グロテスクにも、無残にも千切れかかっていたグリフォンの首から胴体までをブチブチと裂き、ついには肋骨や背骨が顔に突き刺さり、どろどろと流血し、浮いてしまった後ろ脚の片方がぴくぴくと痙攣していた。


 その様子に、白仙はただ無表情に式術を解き、刀についてしまった赤黒い液体を払って刀を鞘へと戻した。


 魔石などに興味がわかない白仙はグリフォン三体の朽ち始めた胴体の心臓部に浮き上がるクリスタルを拾わず、ゲートを出た。


 それと同時に、ミニステータス画面のスキル欄にある不運は黒文字へと戻っていた。


「ほんとうに、張り合いがなかったの・・・これなら桃とやっていた時の方が高揚感があったというものじゃな」


 鞘に今一度手を当て、すぐに抜刀できるように構えておく。

 しかしながら、グリフォンとの戦闘中。白仙は大事な和服についてしまった血をどうするべきかと考えていた。


 そう。白仙にとってグリフォンとの戦いなど一切難しいなどと感じず、そのあとのことを考えていたのだった。


 巫女服をモチーフにした白と青色が特徴な和服には赤い色を超えた赤黒い色が着いてしまっていた。


 これがまた、自分の血を一切含んでいないことには白仙としては自分がほかのものに染められている気がしてならなかった。


 ため息を一つつき、あとでさざなみとつながったときにでも着替えの一つや二つぐらい用意してもらおうと決心しつつ、ダンジョンの最奥へと向かう。




 そして、同時刻。


「いいか。初級だからといって侮るな。最近、ここいらでダンジョンの難易度が急変するという事故が発生している。気を引き締めていくぞ」


 赤色がよく似合う整った顔立ちの固い鎧に身を包んだ、大剣を持つ男。彼の名はアルギ。この世界において三つの大国の一か国バルトスの自警団団長である。


 今は、新人教育の一環として最近冒険者の中で話題に出ている、難易度の急変問題について任務に来ていた。


「どうかしたんですか?アルギ隊長」


 ダンジョンに入って第六階層目にして、アルギが足を止めた。


「いや。さっきから、モンスターの量が絶対に一度全滅させられている。こんなに少なくない」

「言われてみると。一度いなくなった後のような量しかいませんね」


 アルギの後ろから同調声をかけるのは、副団長の座に就く剣技において右に出るものはいない実力を持つ蒼剣の騎士こと青髪のミユウ。


「もしかしたら、先に入った冒険者がいるのでしょうか」

「可能性は十分にあるな。総員。先客がいるようだ。もし冒険者ならばあの問題に遭遇していたら危険な状況だ。少し速度を上げて進行する」

「「はっ!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る