The treasure hunter 〜世界を揺るがす伝説の宝〜

@Wisyujinkousaikyou

Part1 若き夢追い

 もしこの世に伝説の宝が存在するといわれたら誰しもがロマンを感じ宝を手に入れたいと考えるだろう。

 ここは第二世界。時は竜生歴二百十年。

 世界中の人間がロマンを胸に大冒険へと道を切り開き始めた。

 世界を変えるという伝説の宝『竜の魂』を手に入れるために……。

 そしてここ、スクエイル山の中腹を通る大所帯の中の一人、【ルイ・ウィリアムス】も夢追いトレジャーハンターの一人だ。

 十五の時に今のチームに加入。それから世界を転々とすること早二年。

 まだ何もつかめていない旅路に嫌気がさし始める。

「ちぇ、なんでこんな山道を行かなくちゃいけねぇんだよ」

 まだ白いスクエイルの地面を軽くける。

「おいルイ! つべこべ言わずに隊に着いて来い。さもなくば貴様をここから放り落とすぞ!」

 愚痴を言い続けるルイにしびれを切らした隊長が怒鳴り声をあげる。

「っせぇな。だったらさっさと宝の在処くらい探してみろよ」

「なんだと!?」

 隊長がルイに近づき胸ぐらを掴む。

「貴様! いい加減にしろよ? 宝ってのはな、そう簡単に見つかるものではない!」

 隊長が彼に説教をする。

 隊長の言っていることは正しい。そのようなことルイは分かっていた。

 しかし

「じゃあ隊長さん、一つ聞かせてください。今まであなたは『竜の魂』のために何をしましたか?」

「そんなの言うまでも無かろう。我々は世界中を旅して探してきただろうが!」

「では、竜の魂はどこにあるのですか? 簡単に地面に置いてあるんですか? それとも祠にあるのですか?」

「それは……」

 そう、この隊は今までにいろいろと回ってきているが、考古学者など博識のある人間がいないため文献を読んだり古代文字を解読したりはしたことがないのだ。

「俺ならもっとましな仲間を集めますね。行き当たりばったりのこんな隊じゃ今すぐにでも崩壊しちゃいますよ」

「なんだと!? きさ……!」

「隊長! 前から雪崩が!」

 隊員の一人が声をあげて危険を知らせる。

「なに!?」

 隊長は前方を振り返る。

 段々と近づいてくる激しい音と地響き。白い煙を上げ地面の雪を蹴散らし巻き込んで迫ってくる。

『わー! 退避! 退避ー!』

 隊員が必死で逃げようとするも虚しく雪に飲み込まれていく。

 ルイと隊長にも黒い影が迫りくる。

「わー!」

 二人は声をそろえて飲まれていった。

 真っ黒な視界に遠のく意識。体全体が冷たい。身動きが取れない。俺死ぬのかな……。

 ルイの脳内をたくさんの走馬燈と後悔の言葉が流れていく。

 そしてついに彼の意識は闇夜へと消えていった。

「ここは……?」

 何もない白い世界。あるものは己の体。ただそれだけ。

「これが死後の世界なのかな? うん。きっとそうに違いない」

 ルイは何もない世界でただ一人体育座りをしていた。

「いやー、でももう少し面白い世界を見たかったな……」

 ぼそっと言葉を発した瞬間だった。

 白い世界が彼を後ろから押し出すような勢いで後退していった。

「わわわわ!」

 ルイは彼の後ろにある『何か』に押し付けられるように移動し、人ひとりやっと入れるかというような場所にたどり着く。

「……止まったのか?」

 彼は恐る恐る立ち上がり後ろの何かに触ろうとした。

 しかし、そこには何も存在しておらず、ルイを押してきたものなど一つもなかった。

「なんだったんだ……?」

 そう言いながら次は前方に現れた穴をのぞき込む。

「この先は続いているのか?」

 ルイは闇の中へ勢いよく踏み込んだ。

 が、彼の足を受け止めるものは何もなかった。

 ルイはバランスを崩し、闇の奈落へと又落ちていった。

「わーー!」

 落ちる彼が目にしたものは下一面に広がる謎の針群。

「オワァ!」

 地面に着く直前、彼は別の場所で目を覚ました。

 髪の毛を伝い滴る冷や汗が彼の下に敷かれた布団を濡らす。

「あら、あなた、目を覚ましたのね!」

 ルイの目の前に現れたのは茶髪でしっかりとした表情、クリっとした目、かわいらしい口元。体つきがよい、少し小さめの女の子が視界に飛び込んでくる。

「……ここは?」

 見た感じ大部屋一つの一戸建て。形は円柱で他の部屋がある感じはない。

「私の家よ。あなた雪崩に巻き込まれたのでしょう?」

 察しも良い様だ。

 ルイは無言で頷き起き上がろうとした。

「いて!」

「まだ動いちゃだめよ。あなた雪崩に巻き込まれたのよ? 命があっただけよかったと思いなさい」

 よく見ると全身が綺麗に包帯がまかれていた。

「すまない……。助かった……。ありがとう……」

 彼の言葉に彼女は頷き

「そうだ! お腹減ったでしょ! ご飯作ってあげるね!」

「……はは、俺は別に大丈夫だよ」

「はぁ、けが人はおとなしくしなさい。大体ね、あなたあの雪崩の日からもうすぐ一週間がたつのよ?」

 ルイは自分の寝ていた期間に驚いた。

「で、でもほら、初対面の人にご飯だなんてそんな……」

「任せなさい! 私の料理の腕は一級品よ! あ、でもその前に買い物行ってくるから待っててね!」

 そう言って彼女は服の袖をめくり、部屋の外へ出ていった。

 しばらくして彼女が帰って来る。

「たっだいまー!」

 彼女は買物袋の中身を一気にシンク上に出し、乱雑に並べた。

「さて、早速始めますか」

 女の子はジャージャーと水を出し野菜を洗い始める。

「大丈夫かな……」

 彼女の動きに少しぎこちなさを感じたルイは不安そうな表情で見つめる。

 しかし、彼の予想に反し数分後には部屋中がおいしそうな良い匂いで満たされる。

「でーきた!」

 女の子はお皿に料理をよそい、こちらに運んでくる。

 お皿の上には輝く黄金の米と上に乗る沢山の魚介類。

「はーい、私特製のパエリアよ!」

 ぐーとルイのお腹が反応する。

「ふふふ、ちょっと待ってね、今仕上げのマジックソルトを……あれ、どこ置いたかな?」

 ルイの枕元に座ったまま探し始める。

 彼女は首を左へ十度、五十度、九十度、百八十度、二百四十度、そして、三百六十度……。

 その状況に彼は言葉を失った。

「おかしーわねー……ん?」

 女の子に向けられたルイの視線は恐怖そのものだった。

「あ、そ、そういえばまだ自己紹介してなかったわね」

 と首のねじりを戻し、

「私はメイ・オウル。メイって呼んでね! んで、私は獣人のモデルフクロウ。あなたが助かったのはこれのおかげよ!」

 メイは服の袖を肩まであげ、腕を全体出す。

 すると腕にふわっと羽が現れる。

「えっと、ルイ・ウィリアムスです……って、君今獣人って言ったかい?」

「え、ええ……?」

 彼女は少し困惑しながら答えた。

「獣人ってことはここは幻の獣人国なのか!?」

「えぇ、まぁそうね」

 ルイの質問の趣旨を捉えたメイはペースを取り戻す。

 獣人国。昔獣人国は誰もが知るような世界有数の大国であった。

 しかし、地盤変動などにより国、土地もろとも消失。

 危険を早く察知し逃げ出した獣人がまだどこかに生き残ってるのやら残ってないのやら、真相は闇の中だった。

 その結果、伝説の生き物となった獣人は世界中から捜索されることになったのだ。

「……ねぇルイ、あなたトレジャーハンターなのよね?」

「まぁな、仲間もいないが」

 メイは一度大きく息を吸い込み

「私を連れて行ってくれませんか?」

 と頭を下げる。

 予想外な言葉にルイも動揺する。

「獣人は良くも悪くも注目を集める存在なのはあなたも知っているはず。私はもう嫌なのよ。存在が見つかってはいけないなんてつまらない! 私は外の世界が見てみたい! こんな深い森の中何も変わらない景色の中消えていきたくはないの!」

 メイは本気だった。

「いやしかしだな、君にも家族がいたり友人がいたりするのだろう? 俺と旅に出るには……」

「安心して……。もう私たちはここを出なくちゃいけない。ルイのけがはあと一日あれば完治する」

「でなくちゃいけない? なんでまた……」

「新獣人国掟第三条 我が国家に獣人以外の者を連れ込みし者は永久追放とする」

 彼女はルイから目を逸らしながら言った。

「……明後日だ。二人で出発しよう。とにかくここを出るのが優先だ。次着いた村で作戦会議だ。あと、ここから出たら二人だけの空間以外獣人の能力は出さないこと」

 メイの表情がパッと明るくなった。

 次の日、二人は準備を始めた。

「そういえばメイは何か特技とかはあるのか?」

「ん? 特技? そうだな……。あ、夜でもしっかり見えるよ!」

 メイは少し考えたのち、勢いよく答えた。

「なるほど……、他は?」

 ルイは彼女の特技を知り、作戦に使おうと考えているのだ。

「そうだなぁ……あ! 索敵能力は優れてるわよ!」

 彼女は胸を張った。

「それは役に立ちそうだな!」

 ルイは少し嬉しそうに答えた。

「あと、あまり大した事じゃないけど、古代文字が読めたり、料理ができたり」

「なるほど、必要な能力ではない……ん? ちょっと待ってな? 今古代文字が読めると言ったか!?」

 彼は立ち上がりメイに近寄る。

「え、えぇ……」

 ルイの勢いに圧倒されながらも答えた。

「それは助かる!!」

 彼はメイの手を取り大はしゃぎ。

「あはは……」

 はしゃぐルイに引き気味のメイであった。

 そんなこんなで出発予定日。

「メイ、もう帰ってこれないかもしれないけど……覚悟はできてるな?」

 二人はメイの家の前に立って覚悟を問う。

「えぇ!」

 意気込んだメイの目は美しく透き通っていた。

「よし」

 二人は深い森に別れを告げた。








 Part1 終

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