第108話 両想いへの外野の感情の量重い
「それじゃあ、やっぱり」
「だから疑ってはおらぬというておるじゃろう。ちなみにその話は誰にもしておらん。お主が疑われると思ってな」
「それじゃあ、この地には敵方ボス勢ぞろいじゃないか」
「まあ、そういうことになるかの」
「そういう情報はきちんと流さないとマズいんじゃないか」
「ゾンデルスとカタリーナだけではドロイゼン砦は落ちん。誰か他の者がいたことは共有の認識としてある」
「でも相手がどんな技を使うか分かってるのと分かってないのでは……」
「違わんよ。そなたの技だって防ぎようはないじゃろう? この世の物を直接改変する能力じゃからな。まあ、幸いに一度に多くの事はできぬようじゃな。力の限界もあるようじゃしのう」
「なぜ、そんなことが言えるんだ?」
「そうじゃなきゃ、とっくに我らが敗北しておる」
「そりゃそうだ」
と納得したところでシュトレーセがサーティスに声をかける。
「ねえ。サーティス。どうしちゃったの?」
「あは。あはは。ヤマダはこの世界の存在じゃないんだ。別の世界の人間でこの世界のことを変えられちゃう……」
ぶつぶつ言っていたサーティスが顔を上げた。目に力強い決意が宿っている。
「ねえ。ヤマダさん! ヤマダさんはこの世界の物を改変できるって本当ですか?」
「うーん。すごいことはできねえよ。犬を消したり、とか剣を抜け無くしたりとかだな」
「お願いがあります!」
「あまり期待されても困るんだけど」
「ヤマダさん、女になってください」
「なんでだよ?」
「だってそうしたら堂々と僕のものにできるじゃないですか」
「悪いな。俺に効果を及ぼすことはできないみたいなんだ。前に身体強化しようとして無理だった」
「そういやアタシに見事に倒されたよな」
「ということなんだ」
サーティスは唇を噛みしめる。諦めるかと思ったらそう簡単には引き下がらなかった。
「じゃあ、僕を女にしてください」
「ほへ?」
「とりあえず、女になれば障害は一つ減ります」
「お前、世継ぎだろ? それでいいのか?」
「妹たちのどちらかが婿を取ればいい話です」
「いや、そんなことになったら、アンワールさんの恨みをかって、せっかくの友好関係が……」
「父は説得します。そこはご心配なく」
「おい。サーティス。アタシの話を聞いてたか?」
「聞いてますよ。でも、ズルいじゃないですか。恋人でもないのに相手を拘束するなんて。だいたい、どんな関係だって、僕はヤマダさんを失ったら辛いですよ。恋人じゃ無いからっていうのは欺瞞です」
果音とサーティスが一触即発の雰囲気になって俺は冷や汗を流す。
「なあ、サーティス……」
果音が低い声を出した。
「いい事言うじゃないか。そうだな。確かにお前の言う通りだ。ということで、山田。今日からお前はアタシの彼氏な。人前で果音と呼ぶのも許す」
軽い。
「ど、ど、どういうことだ?」
「どうもこうもそういうことさ。アタシの気持ちの整理がついたってこと。そういう意味じゃサーティス、感謝してるぜ。あ、でも、さっきの話は別だからな」
「なんか急に僕に言われたからって」
「いいや。前から考えちゃいたんだ。なあ、山田。ここの件が決着したら真剣に日本への帰り方探そうぜ」
「いいのか? ここの生活が合ってるみたいだけど」
「実際、アタシもお前がいなけりゃ死にかけたこともあるしさ。少々刺激的過ぎるよな。それに……」
果音が俺の頭の上から足先までを目線で一撫でする。
「ここじゃあ、お前の価値を理解する奴が多いだろ。お前は流されやすいしな。ましてや、伯爵さまだ。四六時中、お前がアタシ以外の誰かに襲われないか監視するのも面倒だし」
「襲われはしないと思うけど」
「ま、今は魔法がかかってるだけかもしれないけどな。魔法が解けるまでは山田と一緒にいることにする。いつ解けるかはお前次第だ。いずれにせよ。ガーファの町を開放したらの話さ」
俺は右のほっぺをつねった。痛い。どうやら夢ではないらしい。その姿を見ていた果音がすっと右手を伸ばして俺の左の頬をつねった。痛い痛い。
「目が覚めたら全部夢でしたってわけじゃないぜ」
「なんか朝から濃厚なものを見せつけられたのう」
「それでも僕は……」
「すきなだけその思いを燻ぶらせるんじゃな。まあ、この二人の間に割り込むのは大変じゃぞ」
ティルミットとサーティスが会話する横でシュトレーセがニコニコしていた。
「良かったわねえ。ヤマダ」
「ああ。ありがとう。シュトレーセ」
「中途半端な関係をいつまで続けるのかやきもきしちゃった」
「知ってたのか?」
「そりゃあ。私は鼻がいいもの。ね?」
そういって、シュトレーセは果音の側で鼻を鳴らしてみせる。ほら、ヤマダの匂いがする。表情がそう言っていた。
「なんか、ヤマダって私のバカ息子に似ていて心配だったのよね。そこが可愛いところでもあるんだけど」
「え? 息子?」
「そうよ。どこをほっつき歩いてるのか全然連絡してこないけどね」
「シュトレーセって子供を産んでたのか?」
「そうよ。なんかヤマダが自分の子供のような気がしていたから、素敵なお嫁さんが来た気分ね」
そう言って果音をぎゅっと抱きしめた。
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