第49話 実は税が払えるんだぜい

 とりあえず俺は全力で果音の無礼な態度を謝罪した。平謝りに謝った。イワール男爵はあっけに取られていたが、すぐにこう提案してきた。

「ここでの用事が終わったら、一緒に私の屋敷に行き確認しましょう。私も部下が不正をしているのだとしたら困ります。それでどうでしょうか?」


「そんな手間をおかけしなくても」

「いいえ。誤解されたままでは私の命が危なそうですからね。20人の山賊を瞬殺する腕前だ。私が娘を差し出せと命じていない証明は難しいですが、納税方法を変えようとしていたことや、あの村の税が安すぎたことは明らかにできると思いますよ。では、会議が終わりましたら、また参ります」


 イワール男爵が扉の向こうに消えるのを見届けると、俺はシュトレーセに果音を離してもいいと合図を送った。果音は機嫌が悪そうだったが、それでも俺に対してはこう言った。

「暴れて悪かったよ。山田」


「まあ、山崎らしいと言えばそうだけど、寿命が縮まったぜ」

「山田はあいつを信用するんだな?」

「というかさ。ちょっと変だなとは思ってたんだ」

「何がだよ」


「だって、フォセットさんの家は結構立派だっただろ。俺達への歓待も量はふんだんにあったし、酒も出た。生活に困窮しているようには見えなかったんだよな」

「まあ、確かに……」

「いくら高級な鳥って言ったって2羽ってのも安いだろ。名古屋コーチンとかだってグラム千円も出せば買えるはずだ」


 果音は黙ってしまっている。

「これは俺の想像なんだが、現場で売り言葉に買い言葉の応酬があったんじゃないかと思う。今まで鳥での納税に拘ってたのにそれが難しくなってさ、『だったら、他の方法でもいいんだぜ』ってね。それを誤解したとかいうのが真相じゃないかな」


「なあ、山田。ダジャレ以外にも頭が働くんだな。お前、実は頭いいんじゃないか。意外だけど」

 果音は首を振り振り感心している。随分と失礼なことを言われている気がするが、俺は果音が落ち着いたのが何よりだ。


「まあ、全部俺の推測だけどな。やっぱりイーワル男爵が曲者って可能性も無くはないぜ。ただ、山崎の正義感は立派だと思うけど、取り返しがつかないことはやめてくれな。もし、間違いだったら、貴族をぶん殴ってタダじゃ済まないんだから」

「ああ。分かったよ。アタシも頭に血が上りすぎだった」


「とは言っても山崎も少し逡巡したんだろ」

「なんでだよ」

「だって、シュトレーセが止めれたじゃないか。本気なら止めるのなんて無理だろ」

「まあ、物腰が丁寧だったし、なんとなくね」


「ねえ、私は話に置き去りなんだけど、事情を説明してもらっていいかしら?」

 シュトレーセに事情を説明してやる。ちなみに、シュトレーセはいつもの10倍ぐらい布地の多い服を身に着けていた。いつもの格好ではあまりに煽情的過ぎるらしい。


「へえ、ヤマダが助けてあげたんだ」

「まあ、今思えば余計なことをしたのかもしれないけどな」

「穏便かつ賢い解決策だと思うわよ」

「ふん。どうせ、アタシは過激でガサツですよーだ」


「別にそんなこと言ってないじゃない。山崎は山崎で真っすぐで素敵だと思うわ」

「そうかな?」

「人それぞれってだけ。その人らしさが魅力でしょ。山崎はそういうところがいいんじゃない。戦い方も迷いが無くて綺麗だって山田も褒めてたわ」


「ええっ? 山田がいつ、そんなこと言ったんだ?」

「えーとね。あなたが毒で意識を失っているとき」

 果音はえへへ、と少し照れている。

「いやあ、なんかそんな風に言われると照れるな。そうか、そうか。発言者が山田だという点を割り引いても悪くはないな」


 果音が機嫌を直してからは大人しく他愛もない話をして過ごした。折角だから王様ってのに会って見たかっただの、この後は何がしたいかだの、わいわい話をする。途中、軽食の提供があって、うつらうつらしていると扉が開き、ティルミット様が入ってきた。


「待たせて悪いの。まあ、途中で何回も中断するのでなかなかに話が進まぬでな。悪いがもうちょっと待っててくれ。で、ヤマダ殿、そなたには会議に参加してほしいのじゃがいいか?」

「え? 俺がですか?」


「そうじゃ。魔法学院の長も来ておってな。そなたに興味があるというのじゃ。我を助けたときの話を信用せん頑固者なのでな。そなたからも話してくれぬか?」

「では、全員で」


「いや。悪いが人払いをしておる。そこへ何人も部外者を入れるわけにはいかぬのでな。まあ、そなたが実演すれば話も進むと思っておる。皆もあまり待たせずにすむじゃろう。うまくすれば、そなたの問題に手を貸してくれるかもしれんぞ」

 そうか。魔法学院の長を訪ねれば、日本への帰り方が分かるかもしれないんだ。


「なんだよ。山田だけ。いいなあ。早く戻って来いよ」

 そういう声に送り出されて、ティルミット様と歩き出す。部屋の外で待っていた兵士二人が俺達を先導するように歩く。廊下を進み、曲がって階段を下り、進んだ先で曲がり、また廊下を進んでさらに曲がり、また、階段を降り始めた。


「会議をしている部屋は遠いのですか? 随分と大きなお城で……」

 そう言いかけた俺の口を兵士の一人が塞ぎ、もう一人の兵士が俺を身動きできなくする。そのまま、また階段を下りて、薄暗い廊下を進んだ先にある鉄格子の中に俺は放り込まれた。


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