第48話 王城で退屈するお嬢さん
ジャレーに着いた翌日、俺達はティルミット様のお供をして王城に出かけた。カハッド大神官は見た目によらず偉い人だったようで、第三城壁と王城の門を通るときの誰何は形式的なもので済む。城に入って長い通路をあっちへ行ったり、階段を上ったりしてたどり着いた部屋で俺達は退屈していた。
ティルミット様に大人しく待っておれ、と言われて俺達は3人で待機中。部屋は豪華な調度品が置かれていて、座っているソファのクッションも快適そのもの。しばらくは出されたお茶とお菓子で雑談をしていたが、すぐに飽きてしまった。お茶が無くなるとすぐに代わりが運ばれてきたことから考えてもこの部屋は監視されているに違いない。なので、立ち入った話もできないのだ。
「ティルミット様遅いね」
「そうだな」
「何やってんのかしら?」
「難しい話だろ」
こんなやり取りを数回しているうちに果音は筋トレを始めた。すぐにシュトレーセも一緒になって筋トレをしている。お互いの体を負荷として使うトレーニングらしい。俺は他にすることも無いので二人のことを眺めていた。別に果音の脚がチラリと見えたりするのをガン見してたわけじゃないぞ。他に見るものがなかっただけだ。
しばらく観賞していると、部屋の扉がノックされる。どうぞ、と返事をすると若い上品な感じの青年が入ってきた。部屋の隅で力んでいる女性二人に驚いた顔をするがすぐに表情を改めて会釈をする。
「大神官ティルミット様からのご伝言です。まだ、しばらくかかる故しばらくその部屋にて待つように、とのことでした」
「ええと、私は山田と申しますが……」
「これは申し遅れました。私はバデッド・イーワルと申します。若輩者ですがお見知りおきを」
この物腰、使用人って感じじゃねえな。単なる使い走りとも思えないし。
「失礼ながら、イーワル殿はどのようなお立場でいらっしゃいますか?」
感じの良い笑みを浮かべると青年は答える。
「近衛騎士としてお仕えしています。爵位は男爵です」
やべえ。貴族様だったよ。気軽に口聞いちゃまずかったか?
慌てる俺を見て、イーワル男爵は言葉を続ける。
「ああ。お気になさらず。ヤマダ殿は大切な客人と伺っています。色々と活躍されているとか。私はまだ若いですし、そのように畏まられると私が困ります」
いやあ、イーワル男爵は出来た人で良かった。無礼者とかやられたらどうしようかと思ったぜ。ん? なんか聞き覚えのある名前のような。
予定のトレーニングが終わったのか果音がテーブルに近寄って来る。
「あのさ。あなたは貴族で領地を持ってるんだよね?」
「はい。陛下より拝領した土地がありますが」
果音の不躾な質問に丁寧に答える青年。俺は立ち上がって果音を制止しようとするが果音はやめない。
「領地の中にウコ鳥の産地があるよね?」
「はい。良くご存じですね」
あ。思い出した。税金が払えないと嘆いていたフォセットさんの所の領主の名前がイーワル男爵だった。
これはマズい。俺はシュトレーセに叫ぶ。
「シュトレーセ。山崎を取り押さえろ」
間一髪でシュトレーセは果音を後ろから羽交締めにすることに成功する。果音の目が怒りに燃えていた。
「あんたさあ。いくら領主でも、若い娘を税金に差し出せっていうのはどうなのさ?」
「山崎。落ち着けって」
ガルガルしている果音の前に回り俺は必死に宥めようとする。
「山田。邪魔するな。シュトレーセも放せ。一発ぶん殴ってやるんだから」
「だから、やめろって。シュトレーセ、絶対放すなよ」
「だって、絶対におかしいだろ。税金を払えないから代わりに娘を差し出せってのはさ」
「ここはそういう世界なんだよ。いつもお前が言ってるじゃないか。ここは日本じゃないって」
「それでもやっぱり許されないだろ」
「そうですね。私もおかしいと思います」
静かな声が響いて俺と果音は振り返る。柔らかな微笑みを浮かべた青年が困ったような表情をしていた。
「娘を差し出せというのは行き過ぎですね。ですが、それが私とどのような関係が?」
「とぼけるなよ。さっき、ウコ鳥の産地が領内にあるって認めたじゃないか」
「ええ。その通りです。以前からウコ鳥で税を納めていた村があります。他の村より税が少ないのを既得権益にしていましてね。なので、他の村と同様の方式で税を納めるようにしないか提案はしていましたが、娘を出せとは一言も言ってません」
真面目な顔をして語る青年は嘘を言っているようには見えなかった。
「そういえば、村の1軒がなぜか最後のはずのウコ鳥を納めてきたという話を聞きました。税が上がるのが嫌で他の品での納税を頑なに拒否していた家でしたね。私のところの部下が裏で勝手に何かしている可能性もありますが、どうやら何か誤解があるようです」
「なあ、山崎。よく聞けよ。弱者が常に正しい事を言うとは限らないんだ。意図的に嘘をつくことだってある。意図を汲み間違えることだってあるんだ」
「それじゃ、あの一家が嘘をついたってのか?」
「そうとは言ってない。片方だけの言い分を鵜呑みにするなってだけさ。とりあえず落ち着け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます