第34話 不意打ち?! ふぃぃ、うち取ってやったぜ。
ローブ姿の集団が俺達の方を見る。フードの陰になって顔は見えないが、明らかに怯えていた。論より証拠だ。俺は近くに化物がいないことを確認すると、シュトレーセに頼む。
「シュトレーセ。ちょっとだけ、果音のお手伝いお願いできるかな」
「しょうち」
シュトレーセは大きく3回ほどジャンプすると果音が大暴れしているところから少し離れたところに着地する。強靭な前脚でスケルトンをまとめて数体ふっとばした。背後から近づこうとした腐肉をまとった奴は後ろ脚で蹴り飛ばす。
さすがに噛みつきたくはないらしいが、殴り、蹴り、体当たりとその辺りの集団を根こそぎにすると、池にバシャンと入る。手足を動かしていたがブルンと水気を飛ばすと俺の所に戻ってきた。猫は水が嫌いだと思っていたが、どうやら、それ以上にえんがちょなものを落としたいということらしい。
「わがはいもなかなかだろう?」
なおも大暴れする果音を横目にシュトレーセが胸を張る。
「なかなかどころか大活躍だな」
俺は褒めたたえながら、ワンドの先でシュトレーセの肩についていた汚らしい塊を払い、ボロ布で毛をぬぐってやる。
「あとで、ちゃんと綺麗にするから、今はこれで我慢してくれよ」
「これでじゅうぶんだ」
シュトレーセの尻尾が俺の腕に絡まり弄る。
「いやいや。折角の美しい毛並みだからな。きちんと手入れをしよう」
ローブの一団はシュトレーセが味方だということに勇気づけられたのか、少しづつ敵を掃討し前進を始める。その間に果音は、杖と拳で亡者を薙ぎ払っていた。ジョゼさんにもらったグローブはその口上通りの効果を発揮していた。亡者を殴るとその部分がローブ姿の呪文を受けたときと同様にチリになって地面に落ちる。
武器を持って戦っている鎧姿の人物が化物を動かなくするのに一苦労しているのと比べると明らかに効果は抜群だ。
「なんだ。あの女闘士。腕も立つが、武器は魔力強化されたものなのか? 一体何者だ?」
ほどなく、建物前の亡者たちは一掃される。ローブ姿の一人がフードを下ろし顔を見せると頭を下げる。
「私はこの神殿の神官クリス。ご助力に感謝する。もう少し、手を貸してもらえないだろうか? 奥に大神官様がいらっしゃるのだ。助けなくては」
「俺は山田。その大神官様にお願いがあってきたんだ。もちろん助力するぜ」
「ありがたい。これぞ、トルソー様のお導き。では、よろしく頼む」
俺達が薄暗い建物の中に入ろうとすると果音が注意喚起する。
「山田。片目をつぶれ。そして、中に入ったら、開けてる目を変えろ。それで暗さに順応できる」
果音のアドバイスで俺は命拾いした。壁の窪みから飛び出してきた化物が俺の首目掛けて齧りつこうとしてきたのだ。とっさに手にしていたワンドを突き出し、首を庇う。暗がりになれていなかったら喉を噛み切られていたかもしれない。化物に触れるとワンドに刻まれた文字が淡い光を放ち、化物はチリとなった。
「ふぃぃ」
「山田。大丈夫か」
果音の顔色は建物の中の薄暗さのために良く見えないが、声には気遣う気持ちが溢れていた。俺は今起こったことがまだ消化しきれておらず、ガクガクと首を縦に振ることしかできない。ちょっと漏らしたかも。
シュトレーセが前に出ると暗がりに潜む亡者を狩り出す。クリスの案内で進むと大きな部屋に出た。椅子がいくつも並びんでいる。どうやら礼拝室か何からしい。天井が高く、高い所の窓から光が差し込んでいる。前方を見ると演台のようなものの奥に白い鎧を着た一人の男と子供が数人、亡者達に包囲されていた。
男が杖を掲げて何か唱えると明るい光が溢れ、亡者が数体崩れ落ちた。すげえ、どうやらあれが大神官のようだ。どうやら、間に合ったようだ。俺達が殺到すると、亡者たちが俺達を阻むように展開する。そして、その中に混じっていた黒いローブ姿の男が何か叫ぶ。黒い鎧に身を包んだ戦士が杖を構えた男に歩み寄り大剣を振り下ろした。
大剣は杖を叩き折って、男を鎧ごと叩きつぶす。男は口から血を吐いて倒れた。しまった。間に合わなかったか。果音たちが亡者を排除している間に、黒いローブ姿の男が子供達に向かって両手を突き出し何かを叫ぶ。
一塊になって泣いていた子供たちの中から一人の子供が他の子供達を庇うようにすっくと立ちあがって両手を広げる。子供達を黒い靄のようなものが包んだと思うと血しぶきが上がり、子供たちの泣き叫ぶ声があたりに響きわたった。立ち上がっていた子供がゆっくりと倒れる。その子供の体を探り、何かを手にすると黒ローブは黒騎士を連れて横の扉から出て行く。
すぐ横にいたクリスがうめき声をあげる。
「大神官様……。おお、なんということだ……」
「この野郎。待ちやがれ」
果音が叫んで追いかけて行く。
クリスが駆け寄り、先ほど他の子を庇った子供を抱き起す。え? まさか、この子供が? 白い鎧姿の男が口から血を垂らし、苦しそうな表情をしながら、気づかわし気にその姿を見下ろす。俺はそちらに近寄りながら、シュトレーセに再度頼みごとをする。
「果音の援護を頼む。あの黒いのイヤな予感がする」
シュトレーセが走り去る方向を見ていた俺にクリスの絶望的な声が聞こえる。
「くそっ。血が止まらない。これでは、大神官様が……」
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