第6話 セーラー服ならJKだろJK
翌朝目覚めると頭痛はすっかり収まっていた。やはり睡眠は大切。さて、今現在の俺にできることを考えよう。
・召喚術(蜜柑限定) ⇒×(アルミ缶渡しちゃったから無理)
・消滅術(犬限定) ⇒〇(ただし、体にダメージの危険)
駆け出しの魔術師としてはいい感じかも。ケルベロス退治のクエストとかあったらいいな。頭の整理ができたので、木の実を食べて水を飲み、そろりそろりと下に降りた。よし、昨日のヤバイ犬の気配はない。が、ガチャガチャという音と人の話し声が聞こえてきた。さて、どうすっかと考え、とっさに近くの茂みの中に潜り込む。
潜り込んだかどうかというタイミングで、あまりガラの良くなさそーなのが20人近く俺のいた木の下に集まっていた。葉を透かして見ていると野太い声で何か言っているが、何を言っているのかはさっぱり分からない。
腹ばいのまま、そっと袋から緑色の帽子を出して頭に乗せる。
「くそ。遅えな。なにやってやがんだ」
「親分。サッジが戻ってきやした」
似たような風体の奴が息を切らせて駆け込んでくる。
「おい。どうだった?」
「へい。もうすぐここにやってきます」
「よし、野郎ども抜かるなよ」
ガラの良くない感じの奴らはパッと散って、木の陰に隠れた。どうやら誰かを待ち伏せしているらしい。男たちは剣を持っているのがほとんどだが、斧や弩を持っているのもいる。しばらくするとガラガラという音が聞こえてきた。俺のいる場所は葉が生い茂っているので見つかりにくいのだが、その分視界も悪かった。
「賊だっ!」
その声と共に、その辺りにいた男たちが武器を手に喚きかかった。
「やっちまえ!」
金属同士が激しく打ち合わされる音が響く。
その場に隠れていればいいものをついつい好奇心に負け、茂みから這い出ようとして帽子が引っかかる。大事な帽子だ。それを袋にしまって木の陰から覗いて見た。馬車が2台止まっており、その周りの数人の人間がガラの悪い連中と対峙している。囲まれている側には背の低いのが混じっていた。どうやら子供らしい。
どうみても山賊の類が旅人を襲っているの図だ。旅人側は山賊の人数より少ないし、旅人側には女性も子供もいる。ちなみに女性は割と整った顔立ちをしていた。そういう所に目が行くのは悲しい性だ。勇ましいことに女性は槍のような物を握っている。小学生ぐらいの男の子も手に布を折ったようなものを持っており、地面から石を拾い上げると布に挟み手を大きく振る。
ビュンという音と共に石が飛び、切りかかろうとしていた山賊の一人の肩に直撃した。がっという音がして山賊は倒れる。大声で喚き散らしながら立ち上がったその男は男の子に切りかかろうとして女性の槍に阻まれた。旅人側は善戦していたが、押され気味だ。ここはカッコよく旅人に加勢すべきなのだろうが……。
俺は杖を握りしめ固唾を飲んでその様子を伺っていたが、ついつい身を乗り出し過ぎたらしい。男の子が俺のことを指さして何かを叫ぶ。山賊たちの2人が振り返り俺を発見した。おい。余計な事をすんじゃねえ。その山賊たちは剣を振りかざしながら俺の方に向かってきた。
心情的には旅人を応援していたものの、実際にそちら側に加勢することになり、俺は狼狽する。俺が2人を引き付けたことで一時的に旅人側は息をつけるかもしれないが、俺が2人も山賊の相手をするなんて無理。陽光を浴びてギラリと光る刀身を見ただけで足がすくみ、小便をちびりそうだった。
不意を突かれた山賊たちだったが、相手がザコだということに気づいたらしい。ゲハゲハ笑いながらやってきた。何か叫んでいる。きっとヒャッハーとか殺ってやるぜえ、と言っているのだろう。
全くついてない。不幸の連続だ。昨日は野犬、今日は山賊。世界は脅威に満ちている。危険な世界で生き抜く自信はない。俺に武器を持った人間を倒す術はないだろう。へっぴり腰で杖を構えているが絶対にすぐに切り殺される。下を見ると石ころが落ちていた。こぶし大でごつごつしている。そうだ。
俺は片手で杖を持ち、右手で石を持つと近づいてくる山賊の一人に向かって投げつけた。確かサッジと呼ばれてた奴だ。サッジは横に飛びのき、石は空しく体を掠めていった。万事休す。思わぬ反撃を受けてサッジは顔を真っ赤にしている。くそ。山賊、山賊。山賊は三足くつを履いていた。ダメだ。意味がない。折角レベル1.2の魔術師ぐらいにはなれたのに、俺の冒険はここで……。
俺に向かってきたサッジの顔に横合いから茶色い物が伸びてヒットした。ドガシャ。鼻が曲がり男が吹っ飛ぶ。そこにはいい色に日焼けしている女の子がいた。黒いスカートに特徴的な襟のシャツ。なぜかセーラー服姿の女の子がハイキックを決めている。
彼女は武闘家なのかもしれない。この世界ではあれが武闘家の由緒正しい正装なのだ。そんなわけはない。セーラー服といったら
もう一人の山賊は剣を構えて女子高生に切りかかっていった。バックステップをして距離を置くと女子高生は俺に向かって走ってきて叫んだ。
「おっさん。ぼーっとしてんじゃねえ。突っ立ってるだけなら杖を貸せ」
そう言って俺の手から杖を奪い取り、山賊に対峙する。後姿がほれぼれするほどカッコよかった。
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