第4話つり橋(4)
「到着!」
やってきましたバカマンモス大学中央図書館。
通称、宇宙要塞。
この図書館は学外の使用者も多く、テレビなんかでも特集されるほど有名だ。
有名な理由としては、国会図書館に次ぐ蔵書量、東京ドーム3個分の敷地面積、館内に20個も喫茶店がある、世界中全てのジャーナルの論文が読める、など様々あるが、一番の理由はその見た目である。
増築を何十回も繰り替えして大きくなったその姿は、まるで歪な宇宙要塞のようだと言われていて、写真を取るために世界中から観光客が押し寄せるほど面白い外観に仕上がっている。
「早速調べよっか」
「そうだな」
とはいえ、俺達の目的はサークル探しだ。
見た目を楽しんでいる暇はない。
ということで、パシャパシャと写真を撮っている観光客達を尻目に、図書館の中へと入ることにした。
中に入ると、ずらりと横に並ぶ受付が俺たちを出迎えてくれた。
司書さんが30人近く並んでおり、館内の案内や検本作業に性を出している。
そして受付の近くには、パソコンがずらりと並んでいる。
恐らく大男の言っていたパソコンってのは、これのことだろう。
近づいて画面を覗き込んだ。
「新入生の皆様へってあるね」
明日香が画面の前に顔をずいっと出して、そんな事を言ってくる。
おかげで、後頭部で俺の視界が塞がれて画面が見えない。
「多分それだな。とりあえずクリックしてみてくれ」
まぁ見えなくても問題ない。ここは明日香に任せよう。
ってことで、丸投げした。
「おっけ〜!」
明日香はそう言うと、マウスを操作してパソコンを操りはじめた。
少し横にずれて画面を見てみると、新入生サークル案内と書いてあるページが表示されていた。
どうやら、もう目的のページにたどり着いたようだ。
「さて、じゃあ早速探しちゃおっか。まずは【純文学研究会】で検索かけてみるね」
「頼んだ」
再度丸投げ。
明日香はブラインドタッチで軽快に入力し、エンターボタンを押した。
すると検索結果は、って
「おいおい」
なんと0件。
マジか!千個以上もサークルがあって、純文学研究会が無いのか?
「そのものズバリは無いみたいだね。でも、類似検索結果に文芸部とか小説執筆サークル、漫画サークル、同人同好会なんかが出てきたよ。100件以上あるね。どれか見てみる?」
「その中だと・・・文芸部を見てみたいな」
「おっけ〜」
明日香の操作で、画面には文芸部の案内が表示される。
トップページには、オリジナルキャラクターっぽい本の妖精がいて、吹き出しでこんな事を言っている。
【本好きの方なら大歓迎!推理小説でも新書でもラノベでもなんでもOK。皆で本を読んで感想を言い合いましょう!】
「こりゃ駄目だな」
「え、なんで?」
明日香が振り返ってツッコミを入れてきた。
はー、分かっちゃおらんな。
「俺は純文学だけを読む同志が欲しいんだよ。純文学を熱く語れる奴と会いたいんだよ。本なら何でも良いとか言うサークルに入る気はない!」
「めんどくさっ!」
明日香が顔を軽く引きながら、そんなことを言ってきた。
全く、失礼なリアクションだ。
俺の純文学への思いを、めんどくさいなどと。
「とりあえず、文芸部は駄目だな。他のやつをクリックしてみてくれ」
「はいはい」
それから、同人同好会やら小説執筆サークル、読書同好会などを調べてみたが、どれも多くのジャンルを扱ったもので、俺が求めている純文学中心のサークルはなかった。
ラノベ専門のサークルとか、推理小説専門のサークルとかならあったんだがな。
どうやら、この大学でも純文学は人気がないらしい。
「どうするの?」
少し疲れた様子の明日香が、こちらを振り向いて聞いてきた。
ふむ、目的のサークルが無いと判明してしまった。
ということは、やはり新設しか無いな。
「純文学研究会を立ち上げよう!俺が、俺達が純文学だ!」
俺は民衆を前にした大統領のように、力強く握りこぶしを作って研究会の設立を宣言した。
大統領も俺も、やることは違えど決意の大きさは同じ。
国を背負う大統領の気持ちが、今ちょっと分かった気がするぜ。
「俺達って・・・それ私も入ってるの?」
「そうだが?」
現状、明日香が居ないと俺一人になってしまうからな。
ソロでは研究会を名乗れないだろう。
「私、そこまで純文学を熱く語れないんだけど」
「大丈夫だ!純文学を愛する心があれば良い。明日香は純文学しか読まないだろう?その心構えがあれば問題ない」
「純文学しか読まないっていうか、本自体ほとんど読まないんだけど。年に1、2冊くらい、純一が勧めてきた本を読むだけで」
「ということは純文学だけを読んでいるということだ!問題ない!」
「うーん、まぁ純一がそれでいいなら良いけど」
よしっ、押し切った!
これで一人目の会員を獲得できたぜ!
前途洋々だ。
明日香が呆れたような目つきでこちらを見て居るが問題ない。
気にしたら負けである。
「そいえば、サークルって何人から設立できるのかな?」
明日香が鋭い質問を投げかけてきてくれた。
良い質問ですねぇ。
「俺もそれが気になっていたところだ。どこかに情報載ってないか?」
「えーっと、あった!」
俺の願いが通じたのか、明日香がすぐに発見してくれた。
「なになに、サークルや同好会を新設するには・・・え?」
そこには意外な内容が書いてあった。
要約するとこんな感じだ。
・当大学にある学生団体である【部活動、研究会、サークル、同好会】は当大学の学生しか在籍出来ない。
・1人2つまで、上記団体に加入することが出来る。
・部として団体を設立するには、100人の学生が必要となる。ただし、研究会は50人、サークルは10人、同好会は3人で設立が可能である。
・運営費は部が一番多く配分され、その次に研究会、サークル、同好会と続く。部室の大きさもこれに準ずる。
学生団体の分類がやたらややこしかったり、1人2つしか入れなかったりと新情報が満載だ。
しかし重要なのはそこではない。
研究会を名乗るにはある程度人数が必要だということ。つまり、純文学研究会を作るには、50人もの学生を集める必要があるという所だ。
「難易度高えな!」
3人集めるのも厳しいかと思っていたところに、50人て。
無茶だろ。
「別に研究会にこだわる必要ないんじゃない?同好会ならあと一人で設立出来るし」
「いや、半年以上前から純文学研究会を設立すると決めていたんだ。そこは譲れん」
ここで同好会に名前変えちゃうと、なんか負けた気がするし。
「そんな事言ってると、高校の二の舞になるよ。高校の時だって、けっきょく私と純一しか集まらなかったんだし」
「言うなそれを」
気にしてるんだから。
高校の時はそもそもの生徒数が少なくて断念したが、このバカマンモス大学の学生数はあの時の数百倍だ。
50人集められる可能性もゼロではない。
・・・だがしかし、いきなり研究会を設立するのが無謀なのも事実だ。
「まぁ、まずは同好会を設立し、その後サークルにランクアップ。最後には研究会を発足するというのが、一番スマートな流れになるだろうな」
「お、日和った?」
「日和ってはいない」
現実を見つめて、目標を下方修正しただけだ。
名だたる大企業も、決算時期によくやってるじゃあないか。
あれだよあれ。
「じゃ、設立する時はこれ使ってね。このPCから申請できるみたいだけど、その時に学籍番号とパスワード入力しなきゃいけないみたいだから」
そう言うと、明日香は学籍番号とパスワードを紙に書いて渡してきた。(学籍番号19194040、パスワード:♡私の誕生日♡と書いてある。キャバ嬢かよ)
これで、同好会メンバーを二人確保できたということになる。ってことは、あと一人同志を見つけてここに連れてくれば良いわけだな?
こう言うと、結構楽に達成できそうな気がしてきた。
「おーけー任せろ!今日中に設立してみせる!」
俺は大きな決意を胸に抱いて、明日香に向かって宣言した。
「はいはい、期待せずに待ってるよ〜」
しかし明日香からはそんな気の抜けた返事が返ってきた。
いや、もっとなんかこう・・・うん、まぁ研究会に入ってくれるだけありがたいな。
あとは自分で自分を鼓舞して頑張るか!
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