調理開始

「あっ、エレーナさ……エレーナ。使っていい食材はどれかな?」


「ありものならなんでもいいよ! 後ろの棚に……って言っても今はあんまりないけど」


 直己は早速、背後にあった棚を物色する。


 黒パン、全粒粉の山型食パン、玉ねぎ、キャベツ、トマト、アスパラガス、ニンジン、さやえんどう、卵、ソーセージ、レモン。


(確かに食材は少ないけど、これは……)


 虫に食われていたり、形も決して良くはない野菜。


 それらを見た直己は、ピンときた。


「あの、もしかしてこの野菜って無農薬で有機栽培?」


「うん! 私が裏の畑で育てたんだよ! あ、レモンは買ったものだから違うけど……」


(やっぱり、無農薬オーガニックか。しかも自家栽培とか凄いな)


 見てくれこそ悪いが、野菜はどれも実がしっかりとしていて、とてもみずみずしい。


「凄いや……。どれもおいしそうだ」


「んふふ。ありがと!」


「あ、あとそっちの瓶は?」


「その瓶にはお米が入ってるよ!」


 直己は床に置かれた瓶の蓋を開ける。


(……玄米か。うん、これもおいしそうだ)


「おいしそうでしょ? 田んぼから作ったんだよ!」


「田んぼから!?」


 直己は耳を疑ったが、エレーナに嘘をついている様子も、冗談を言っているような様子もない。


(マジかよ……。この子、野生のT●KIOだ……。いや、むしろT●KIOが野生化している可能性が!? ……って、そんなこと今はどうでもいいか)


 ここで直己はもしやと思い、訊いた。


「じゃあ、もしかしてそっちの卵も……」


「うん! とれたてだよ! 裏で飼ってるんだよ! それに豚肉の薫製もね、私が育てた豚を河原屋さんっていう近くのお肉屋さんで解体して貰って作ったんだ!」


 自分とほとんど歳の変わらないエレーナの、徹底した自活ぶりに直己は驚かされる。


「本当に凄いね……」


 だが、驚いてばかりもいられない。


(次に驚かすのは僕の番だ! さあ、何を作ろう……)


 食材とにらめっこし、しばし悩んだ末、彼は何を作るのかを決定する。


(よし、アレにするか……。きっとアレなら、この子だって気に入るはずだ!)


「さ、じゃあ料理に取り掛かろうかな!」


「じゃあ私は竈に火をいれておくね! 二つとも使う?」


「うん、二つともお願い。ありがとう」


 直己はまず玄米を研ぐと、エレーナが用意してくれた竈に釜を乗せた。


 それが炊けるまでの間に、トマトの皮を剥くなど野菜の下処理を済ませ、まな板に乗せる。


 玉ねぎはみじん切りに、トマトは大まかに、アスパラガスとニンジン、ソーセージは小さめの角切りに。


 それらを素早い手付きで終えると、まずはトマトを最初にフライパンへ投入した。


 そして木べらで形が無くなり、ドロドロになるまでかき混ぜながら煮込んだ。


 そこへ玉ねぎとソーセージを投入したところで、直己は訊ねた。


「あの、エレーナ。塩はどこ?」


「はい!」


「ありがとう」


 渡された塩をトマトソースに二摘み振りかけ、味見をする。


「……うん」


(後でもう少し味を整えるとして、とりあえずトマトソースはこれでいいか)


 トマトソースの入ったフライパンを一度退けて、もう一つのフライパンを火にかけた

 そのタイミングで直己はあるものを探し、台所をキョロキョロウロウロするもどこにも見当たらない。


 痺れを切らして訊ねる。


「あっ、エレーナ。油取ってもらっていいかな?」


「えっ」


「えっ」


(……どうかしたのか?)


 直己が不思議に思っていると、彼女はこう言った。


「照明用の豚脂とか鯨油なら一応あるけど、多分劣化もしてるし料理には使えないよ?」


「……えっと、じゃあ他に食用油は無いのかな? 植物性でもなんでもいいんだけど……」


「食用油なんて贅沢だから、このうちには無いよ? まして植物性なんてすぐ酸化しちゃうし……」

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