ゲームから始まった恋

シュート

第1話 恋の予感の予感

  それってズルくない…

 俺って、彼女の仕掛けた恋愛ゲームにまんまと嵌っちゃったのかもしれないけれど…、いつかかってくるかわからない彼女の電話の虜になっていた。


 「私、なんか大野君のこと好きになっちゃったかもって言ったらどうする?」

 毎年開かれる同期会も今年で3回目。大卒ばかりの同期は、全員今年で25歳になる。それぞれ次第に仕事が忙しくなっているせいだろうか、今年の参加者は12名だった。その二次会の席で、偶然隣に座った立花梨華に突然耳元で囁かれ、大野純一は戸惑った。

 同期といっても25人いるので、全員と深く付き合っているわけではない。立花梨華について純一が知っているのは、新入社員研修の際、講師役の人事部長に結構鋭い質問をしていたり、グループ研修の際もリーダー役を自ら買って出ている姿だった。なので、きっとやる気が高い子なんだろうなという感想は持っていた。でも、純一にとってはそれ以上でも、それ以下でもなかった。

 それなのに、酔いに任せて(?)、本気とも、そうじゃないともとれる発言を突然耳元に向けられたことで、純一はとたんに立花梨華を一人の異性として意識してしまったのだ。

『そんなのあり?』

「どうするって言われても、突然だし、それに立花さん相当酔っているしね」

 梨華の目はすでにトロンとしていて、今放った言葉だって、きっと明日には忘れてる。だから、うかつに乗ってはいけないのだ。

「ふ~ん。確かにアタシは今酔っぱらっています。でも…」

 そこまで言ったかと思ったら急に声を詰まらせて泣き出した。

『泣き上戸かよ』

 すると周りが騒ぎ出した。

「大野君、立花さんを泣かせてるぜ。何をしたんだよ」

 斜め前に座っていた増田紀夫が言う。

「梨華ってさあ、こう見えて繊細なんだから無神経なこと言ったらダメなんだからね」

 梨華の横に座っていた持田早苗が泣いている梨華の肩を抱きかかえるようにしながら純一を睨みつけて言う。純一は自分がすっかり悪者扱いされていることに憤慨する。

「ちょっと待ってよ。俺は何も悪いことしてないから」

「じゃあ、なんで梨華が泣いてるのよ」

「そんなの知らないよ」

 濡れ衣を着せられた純一は席を立ち、他の席へと移動した。

 翌日の昼休み、案の定、梨華から予想通りのメールが届いた。

「昨日はごめんなさい。私、全然覚えていないの。ひょっとしたらおかしなこと言ったかも知れないけど、忘れてね」

 今度は『忘れてくれ』だと。なんか納得できない。

 企画開発部に所属する純一と、営業部に所属する梨華は同じフロアーで働いている。当然ながら、その後も通路などですれ違うこともあり、その際お互い目礼くらいは交わしていたが会話をすることはなかった。というか、梨華はむしろ純一に冷たい目を向けているような気がしてならなかった。

 純一は今回の梨華に限らず、酔った時に言った言葉は本音だと思っている。なので、梨華の放ったあの言葉も本音ではないかと、心のどこかで思っている。だからこそ、あの時自分の心は揺れたのだ。そんな、なんともモヤモヤした気持ちを持て余しながら日々を過ごしていた。

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