俺はフクロウに憧れている

ソーヘー

俺はフクロウになりたい

好きな鳥は?と聞かれたら皆さんはどう答えるだろうか。イケてる奴らは大抵、鷹や鷲といった王道を好む。俺はそういう奴らが大っ嫌いだ。


「相変わらずひねくれてるなーwwwお前」


「うるさい。瞬」


このうるさいパリピは今田瞬、俺とは幼稚園からの腐れ縁だ。俺は今、夏休みの最後の課題に苦戦を強いられていた。


「瞬、お前終わらせたか?」


「俺っち?いや、まだやってないよん。というか萎えるわー、野鳥の観察なんて」


そう、俺は自由研究のテーマの野鳥の観察に苦戦していた。野鳥の様子の変化を日記にして提出するというものだ。俺は小学生の頃は自由研究というものが好きだった。クラスの同級生が夏休みにプールや海に遊びに行っている中俺は一日中、いや夏休み中アサガオの観察をする程に自由研究というものが好きだった。だが、俺は今回のテーマに憎悪を抱いている...何故なら野鳥の観察をするには森に行かなければいけない。森には俺を狙う毒虫がうじゃうじゃ生息しているからだ。


「俺っち、虫だけは超ムリなんよ」


「気が合うな、俺もだ」


「あのダンゴムシとかキショくないwww超ウケる」


「そうか?俺はダンゴムシは好きだぞ、ダンゴムシの生き方は実に合理的だ。主食は落ち葉だから食糧には困らないし、石に隠れてるから見つかることもない。それに、いざとなったら丸まれば捕食もされない。完璧じゃないか」


「うわぁーそれ超引くわ」


俺は話題を野鳥の観察に戻すべく、不本意ながら自ら瞬に話しかけた。


「虫のことはともかく、野鳥の観察はどうする?」


「うーん...あっ‼︎そういえば近藤のバイト先の喫茶店にフクロウがいた気がするし、それでよくね?」


「お前にしてはなかなかの名案だな。外にはあまり出たくはないが...まぁ仕方ないか」


こうして俺たちは喫茶店のフクロウを観察することにした。まさか、あのパリピの口から喫茶店という単語がでるとはな...喫茶店は悪くはない。中学の頃はよく通っていたものだ。だけど俺は喫茶店で待ち合わせしているカップルに殺意を抱くからしばらく行ってなかったが、まさかこんな形で通うことになるとはな。


喫茶店に到着した俺たちは案内された席へと座った。


「ご注文はお決まりですか?」


「あ、えっと珈琲で」


「俺っちこの新作パフェで‼︎」


「かしこまりました」


俺は店員のお姉さんの後ろ姿を見ながら反省している。まさかこんなところでコミュ障を発揮するとはな...俺もまだまだだな。


「おい‼︎あそこ見ろよ‼︎あれが噂のフクロウじゃね⁉︎」


「騒々しいぞ、そんなに騒がなくてもただのフクロウだ...ろ...」


俺は言葉を失った...目の前にいるその鳥は俺に似ている。いや、あれは俺じゃないのか⁉︎あの死んだ魚の目のようなつぶらな瞳に、あの気怠そうなオーラはまさに俺と言っても過言ではない‼︎


「なんかあのフクロウお前に似てねwww超ウケるわ」


「瞬...俺は感動したぞ、これは運命の出会いというやつだ。俺はあのフクロウに一目惚れしてしまったようだ」


「嘘⁉︎マジ⁉︎ないわーあんなダサい鳥、俺に似合わなくね?俺っちは別の鳥にするわ」


フクロウ、図鑑でしか見たことがなかったがまさか実物はこんなに愛くるしいやつだったのか...


「ご注文の珈琲とチョコレートパフェでございます。ごゆっくりどうぞ」


「あ、待ってくれ店員さん‼︎」


俺はとっさに店員を呼び止めてしまった。俺の頭の中はもうあいつのことしか考えられなくなっている。これが恋というやつなのか‼︎


「あのフクロウに触ってもいい...ですか?」


店員はキョトンとした表情で俺を見ている。

アホか俺はぁぁぁぁ‼︎いきなりフクロウに触りたいなんて言ったらまるで変態じゃないか⁉︎えっと...まずはフクロウさんとお近づきになってだなぁ...


「いいですよ、それじゃあごゆっくり」


よっしゃぁぁぁぁぁ‼︎これであのフクロウに触ってもいいのか?やばい、胸の高鳴りが抑えきれない。


俺がフクロウに触ろうとしたその時、横から別の手がフクロウに触れた。


「うわぁ‼︎何この感覚‼︎超うけるwww」


「おい、そこ代われパリピ」


何勝手に触ってんだこいつ...許可取ったのは俺だぞ。コミュ障の俺が多分、人生で一番勇気を振り絞ったんだぞ。それにお前さっき違う鳥を観察するとか言ってたよな⁉︎いいから俺と代わってくれ‼︎


俺は目の前でフクロウを撫でる手に羨望の眼差しを向けていた。そんな俺にやっと気づいたのか、瞬は撫でていた手で俺の腕を掴んだ。


「いいからお前も触れよ‼︎


「おい、待て、まだ心の準備がっ...」


俺の手はフクロウへと伸びた。フクロウの羽根に手が触れた瞬間、体に衝撃が走った。


「柔らかくも、硬くもない...独特な感触だ。

けどなんだろ...ずっと触っていられる」


それから俺は数時間くらいフクロウに触っていたと思う。気がつけば日は暮れていて、瞬も帰っていた。静かな喫茶店の中で時を忘れるようにフクロウを観察していると、喫茶店のマスターが話しかけてきた。


「そのフクロウ気に入ったのか?顔はあんまり可愛くないだろ。あれ?よく見ると君とそっくりだな」


「それ俺の顔のことディスってません?」


「ハハ、そんなことはないさ。それに可愛さだけで人の価値は決まらないだろ?」


「そうですね。可愛い女子は大抵、性格が悪い」


「ひねくれてるね君、でもそういうことさフクロウだって他の鳥と比べるとパッとしないし、顔も可愛いとは言えない。だからこそ、僕はフクロウに愛嬌を感じるんだ」


そうか、ようやくわかった気がする。俺がなんでフクロウに魅力を感じたのか?それは俺とこいつが似ているから?いや、違う。俺はずっと周りを気にして生きてきた。けれどもこいつは違う。他人の目なんて気にせずに堂々と、怠けている。人間だったら批判されるそれもフクロウであれば愛嬌になる。俺はそんなフクロウに憧れたのかもしれない。


やがて俺はマスターに向き直り、正式に頼んだ。


「このフクロウを観察させてください‼︎」


すると、マスターは微笑んでフクロウを俺に差し出してくれた。


「好きなだけ観察しなさい」



それから俺は、この喫茶店に夏休み中は毎日通った。雨の日も、風の日も、雪の日?はなかったが、とにかくフクロウの観察を続けていた。いつしか俺はコミュ障を克服して普通に人と話せるようになっていた。こうして俺の長かった夏休みは終わりを迎え、登校日の日がやってきた。


俺はいつも通りに一人で通学路を歩いていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おっはよ‼︎久しぶりだな!最後に会ったのは喫茶店だっけ?あれから観察は続けたの?俺さぁ結局、決まらなくてやらなかったわ」


「俺は続けたよ、フクロウの観察」


「フクロウとかダサくね、やっぱないわー」


たしかにフクロウはダサい、俺みたいにな。けれど、俺はそこがいいと思った。俺は夏休みを通じて、この観察日記の意図がわかった気がする。今だからわかる。フクロウはこの観察日記にとっての...


「俺の観察日記の切り札はフクロウだよ」


「お前変わったな、なんか目が死んでない。とても活き活きしてるよ」



俺はこの夏休みで周りからよく変わったと言われるようになった。俺も自覚がない訳じゃない。夏休みでフクロウを観察してなかったら多分、今の俺の夢はなかっただろう。



俺はフクロウになりたい




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俺はフクロウに憧れている ソーヘー @soheisousou

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