冷凍人間2019

仁後律人

Netflix:私立探偵ダーク・ジェントリーで『やったね!』

 ナンセンスSFの巨匠ダグラス・アダムズの「ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所」の実写化作品。

 マニアっぽく言ってみた割には、アダムズ先生の作品は同作と銀河ヒッチハイク・ガイドぐらいしか読んだことないんだけど。

 とにかく洋ドラで、ネトフリの無料体験に加入するか1000円払えば見れるやつ。


 すごいのは、ファーストエピソードがそんなには面白くないこと。

 いや俺的には超面白いんだけど、それは全部に意味があると思っているからで、じゃなきゃ一見無用なストレスと、意味のわからない出来事の乱発にしか見えない。

 だけどそれは全部巧みに張られた伏線なんです。

 何しろ全体論的探偵いわく、「すべてのことは、つながっている」んだから。


 端的に言えば、第一話の半分は主人公・トッド=ブロッツマンの最悪の一日だ。

 家賃はちゃんと払ったはずなのに、金を要求してくるイカレた大家。

 職場であるホテルのペントハウスに呼ばれてみれば、そこでは宿泊しているはずの富豪が死体になっていた。

 しかも最上階であるはずなのに、現場の歯形から推定される凶器はなんとサメ。

 奇怪極まりない事件の発見者になったばかりに警察に目をつけられたトッドはクビになる。

 失意の退勤に通勤時に必ず見かける迷い犬(コーギー)。


 何がなんだかわからない、最悪の一日だ。

 だけどトッドの災難はそれだけでは終わらなかった。

 極めつけに、怪しい謎のイギリス人……全体論的探偵を自称する怪しい謎のイギリス人(二度言うほど怪しい)、ダーク=ジェントリーが現れたから。

 初対面にも関わらずトッドを助手に任命し、彼を取り巻く状況を聞いたダークは自信満々でこう告げる。「すべてのことは、つながっている」と。

 無常な現実に生きる俺たちがそうするように、トッドはもちろん否定する。そんな都合のいい話はない。この世はカオスで意味なんてない。いちいち真面目に取り合っていたら身がもたない。


 だけどちょっとだけ考えてみてほしい。自分の人生を取り巻くすべてのことにちゃんと意味があったなら、それは素敵なことじゃないだろうか。

 すべてに意味があると信じられていた子供のころ、あるいは子供じみた大人だったころ。

 自分の目から見えるこの世界は今よりも面白いものではなかったろうか。

 ちょっとでも「そうかも」と思ってもらえるなら、まずはネトフリを開いてみて、騙されたと思って視聴してみてもらえるとうれしいです。


 上記のあらすじはネタバレなんだけど、あえてこうして書いたことには理由がふたつ。


 ひとつはこのすべてが伏線でしかないってこと。

 もうひとつはこの伏線たちが、さらなる面白くてイカれた、予想もしない伏線への伏線でしかないってこと。

 さらにひとつはこの物語における伏線の総量は三倍、いや十倍くらいあって、そのすべてが想像もできないほどにクレイジーでユーモラスな形で、過不足なく回収されてしまうってこと。

 ふたつと言っといてみっつになってしまったけど、劇中には荒くれ三人組とか言っといて四人いるような連中も出てくるんだからまあいいや。


 何にせよ、すべてがおさまるべきところにおさまることで得られるじんわりとした満足感はこの作品特有で、なかなか味わえるものじゃないんです。


 エッセイの意味が何かもわかってない奴が書いたこの文章よりは、検索したら出てくるゲムスパの記事の方がよっぽど的を射てて面白いんだけど、

 それを調べて見に行けるような行動力のあるあなたなら、是非ともネトフリと契約してこの番組を視聴してみてほしい。

 以上、ちょっとしたオススメでした。

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