第2話


「フランス人?」


「そ。フランスじゃさ、男から女にチョコ渡すらしいぜ。んで女の方は、お返しとかもしなくていいの」


「素晴らしいような、残念なような、習慣ッスね」


「まぁなー」


 等閑に答える先輩は、今にも寝そうだ。


「何でこんなに授業サボッてんのに卒業できんだよ、あんたは。それに、大学まで……」


 先輩の額にかかる前髪を、指先で弾いていく。


「やめろ。寝れねぇだろ。俺は、要領も頭も良んだよ。――ついでに顔もな」


「ハッハ。面白い冗談ッスねぇ」


 言いながら、前髪を弾く。


 この人は、知らないんだろうな。


 前髪を弾きたいんじゃない。弾く時に指先に触れる先輩の額の感触が、嬉しいんだって。


 そして本当は、俺は唇でその額に触れたいんだって事に――。


 パシリと不意に、手首を掴まれた。


「…どんなヤツ? お前が好きな娘って」


 気付けば先輩の瞳が、まっすぐと俺を見上げていた。

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