これを書いたやつは少なくとも伝統法犯罪者

ちびまるフォイ

伝統法犯罪者の一斉摘発

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警告


あなたの「伝統法違反」が検知されました。


罰金10億円もしくは死刑に処される場合があります。


どちらかコインで決めるので至急出頭してください。

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俺が警察署にかけこんだときの走る速度は、

一瞬だがオリンピック陸上選手を上回ったらしい(本人談)。


「どういうことですか!! なんですか、伝統法って!!」


「あんた知らないんですか。

 伝統法が決まってから新しいものを作るのは犯罪なんですよ」


「新しいものなんて何も作ってないですよ!」


「嘘おっしゃい。あんたは先日小説投稿サイトで小説を書いていたでしょう?」


「え、ええ」


「新しいものを生み出してるじゃないですか」


「これが犯罪!?」


「新しいものを作り続ければどうなると思いますか?

 伝統が忘れ去られ、人の心もどんどん離れていってしまいます。

 そのための伝統法なんじゃないですか」


「それじゃ、発展もなにもないでしょう!?」


「あ、既存のものの改良とかはOKですよ?

 テレビが高画質になったり、スマホが便利になったり、

 古いゲームがHDリマスターされたり、昔の映画がリメイクされたり」


「新しく小説を書くのは?」


「極刑」


「んな無茶苦茶な!」


「まあ、あなたは初犯というのもありますし、まだ若い。

 これまでにあなたが書いた小説をすべて消して、

 これ以上もう新しいものを作らないと約束すれば許してあげます」


「そんな……」

「じゃ、死にますか?」

「極端すぎるよ!!」


それでも命にはかえがたいと、俺はなくなく小説をすべて消した。

誰にも評価なんてされていなかったとしても、大切な思い出が消えるようで寂しかった。


「もう小説はかけないな……」


「ああ、伝統法を誤解しないでください。

 なにも小説をすべて禁止しているわけじゃないんですよ」


「え?」


「新しいものでなければ大丈夫です。

 桃太郎をアレンジしたものを書いてみればいいんじゃないですか?」


「桃太郎が異世界転生とか?」


「それは創作なんでNG」


「境界線がわからない!!」


伝統法により俺の創作はあっという間に萎縮してしまった。


「創作の単純所持」というものでもアウトなので、

投稿はしなくても新作小説を書こうものならたちまち捕まってしまう。


『伝統法は悪しき文化だーー!』

『伝統法をこわせーー!』

『自由な創作活動をーー!!』


街では過激派のアンチ伝統法の人と、

騒ぎを聞きつけたSNSユーザーが集まってデモを行っていた。


しかし、巨神兵を呼び寄せた政治家はひとこと。


「焼き払え!!」


伝統法に反対する人たちのデモ行為も創作に当たるとし消し炭にされた。

そのショッキングな事件がお茶の間に届けられると、もう誰も反対しなくなった。


「おっ、またリメイク出てる」


それからしばらくしてゲームサイトを見ていると、

大好きなゲームの「HDリマスターリメイク~コンプリートエディション~完全版G」が販売されていた。


伝統法で新作が作れなくなったのは残念だが、

変に冒険した新作でがっかりするよりも、実績のある過去の名作をリメイクしたほうが安心できる。

失敗はない。


それに、新しいアレンジも細かく加えられていて楽しめる。


「あ、すごい。今度は敵側の視点でも楽しめるんだ」


人間の工夫能力というものはすさまじいもので、

伝統法で創作が禁じられたとしても、そのルールの中で楽しませる方法を見つける。


伝統法がはじまってからも、様々な作品には必ずクレジットが出るようになった。



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本作のアレンジについては、


『伝統法遵守委員会』の許可をいただいています。

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「これがないと、創作物の単純所持で捕まりそうだもんなぁ。安心するよ」


かつては様々な創作で賑わう小説サイトも童話などのリメイクや、

過去の出版作品を自分書き手で書いたような作品ばかりになった。


といっても、前は前で「異世界転生」というものをアレンジしていただけだから

あまり状況が変わっていないといえばそうなのかもしれない。


しかし――


「書きたいなぁ」


頭の中にある新しいアイデアはとどまること知らず、

それどころか、毎日緻密さと濃さを増していくばかりだった。


絶えきれなくなって、一度書いたものを伝統法遵守委員会に提出した。


「あの、ここに許可をいただければ創作してもいいと聞いています。

 どうでしょうか。舞台は現代なので新しいものはないですし……」


「却下」

「ひどいっ」


「舞台が現代だからどうだと言うんです? 新しい発想は害悪です。

 あなたの創造した小説を読んで影響された人が人を殺したらどうするんですか。

 あなた責任取れるんですか?」


「いやそれは……」


「伝統法を守ってください。

 我々はいついかなる相手でも、必ず伝統法を遵守します。それが――」


「「「 伝統法遵守委員会!! 」」」


紙吹雪が舞った。



「やっぱダメだったかぁ」


ダメ元とはいえ、俺の最高傑作を読んでもらえれば心を動かして

「これは世界の宝だ!」などと優良創作認定されるかもと考えていた。


でもそれはお祭りのくじ引きであたりがあることを信じているくらい甘かった。


もう創作は諦めるしか無い。


俺は自分の小説をそっと燃やした。


のちにボヤ騒ぎで補導された。



それからしばらくすると、伝統法の影響がじわじわ広がってきた。


「あれ? 閉店!?」


近くの映画館が閉店していたので驚いた。

仲の良かった店主は頭をかかえていた。


「まいったよ。あのクソ伝統法とかいうやつのおかげさ。

 同じような作品しか流せないから客足も遠のいちまって、店じまいさ」


「でも……毎回ちがうアレンジで映画は新作として出てるじゃないですか」


「あんたは毎日パンに塗るものを変えたからって、

 毎日パンだけを食べて生活できるのかい?」


「それは……たまにごはんは食べたくなりますけど」


「それに奴らときたら、ポップコーンの新しい味を作っただけでも

 伝統法違反だなんだと言ってくるんだよ。

 料理も今ある味以外は創作として認定されちまうんだ」


「それはひどい……なんのポップコーンを作ったんです?」


「梨味」


「出す前に潰してもらってよかったですね。

 出して苦情言われるよりは傷がつかなかったですし」


「これでも美味しいんだぞ!?」


影響が出たのは映画館だけじゃなかった。

本屋さんもつぶれ、お菓子屋さんもつぶれ、料理教室もつぶれ……。


新しい家や店を建てるにしても、既存と同じものから選ばなくては行けないので

新しく作ったとしても印象に残らないまま消えてしまう。


「ああ、どうかこの商店街を救ってくれ!」

「過去のものだけでやっていくなんて限界だ!」

「このままじゃ生活できないよ」



「……俺に考えがあります!」


俺はついに立ち上がった。


しかしデモなどやればたちまち汚物として消し炭にされてしまう。

そこで、SNSを通じて情報を発信していった。


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〇〇と△△をあわせた小説とかあれば

きっと面白いのになぁ~~

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新しく××ができる家電があれば

きっとみんな幸せになれると思う

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□□を題材にした映画やドラマがあれば

ぜったい俺は見ちゃうな

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などなど。


投稿にはたくさんの人の共感してくれた。

それに追随するようにたくさんの着想が寄せられた。


もちろん、創作はしていない。作ってはいないのだから。



活動をはじめてすぐに警察側から呼び出された。


「どうして呼び出されたかわかっているな?」


「いや……」


「これだよ、これ!! 貴様、どういうつもりだ!!」


警察は俺の投稿を印刷した紙を鼻先につきつけた。


「ええ、知っていますよ。ですが伝統法は守っています。

 だってほら、創作はしていないでしょう?」


「へりくつを言うな!」


「だったら、俺はなんの罪で逮捕されるんですか?

 俺はただ自分の考えを書いただけでしょう?」


警察はくくくと含み笑いをしはじめた。


「お前、今自分が法律の穴をついた賢いやつだと思っているだろう?」


「どういうことですか?」

「開いた穴は塞ぐに限るってことさ」


警察はテレビをつけるとちょうど新しい法律が決まったときだった。



『これより、創作想像禁止法を制定します!!』



「アハハハハ!! この法律を知ってるか!?

 今度は創作物を作らなくても逮捕できるんだよ!

 うまく立ち回ったつもりだったが残念だったな!!」


「そんな……そんなに重い罪なんですか……!?」


「ククク、そんなわけないだろう。

 せいぜい5万の罰金ってところだな。

 だが、お前は間違いなく違反している。言い逃れはできないぞ」


「そうですね、諦めます……。最後に一言だけいいですか?」


俺は罰金を机に置くと、そっとテレビに映る偉い人たちを指さした。




「新しい法律を"創造"した人たちは、これからどうなるんでしょうね?」

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