ネット小説デビュー?
皐月鬼
相談
「姫川。相談がある」
「相談? 珍しいですね。普段は全然かっこよくないのに、クールぶって一人で何でもかんでも抱え込んじゃうあの先輩が……別にいいですけど」
「その俺への遠回しでもない愚痴は今回は流すとして……助かる。俺が頼れる相手ってお前ぐらいしかいないから、断られたらどうしようかと思ってたんだ」
「そ、そうですか! そうですね! 先輩にかまってあげる優しい人なんて私ぐらいしかいませんからね!」
「お前はどれだけ俺を傷つけたいんだ……」
後輩の言葉が胸にぐさりと刺さる。事実だから反論の余地がないのが悲しい……。
「じゃあ話す前に一つ頼みたいんだが……絶対に笑わないでくれ」
「フリがフリ過ぎるんですけど。まぁ、努力はします」
「実はこれに参加してみようと思ってて……」
俺はスマホの電源をつけ、画面を見せる。
「えーっと……『カクヨム3周年記念選手権』? 何の大会ですか?」
「……小説」
「小説?」
「そう」
「小説の大会?」
「そう」
「誰が出すんですか?」
「俺が」
「先輩が小説……ぷっ」
「おい今笑っただろ!」
「だって先輩のキャラに合ってないんですもん。こんなの笑わない方が変ですよ。爆笑ものです」
もう完全ににやけ顔の姫川。どうやらもう笑いをこらえる気はないらしい。
「それにしてもどうして急に?」
「俺が本読むのが好きっていうのはお前も知ってるだろ?」
「好きかどうかは知りませんけど、読んでるのはよく見かけますね。特に休み時間とか、先輩の教室の前を通るとたいてい寝てるか本読んでるかですし」
「最近、本を買う金銭的余裕がなくてな。それでネット小説を読み始めたんだ」
「なるほど。それならお金はかかりませんからね。学生にはもってこいという訳ですか」
「そうだ。で、読んでみたらこれが結構面白くてな。中には素人が書いたとは思えないようなすごい作品もあって」
「完全にハマってますね……」
「誰でも書けるんなら俺も書いてみようかなぁーって」
「はぁ……」
わざとらしく姫川はため息をついた。
「『小説をネット上にあげるなんて黒歴史確定だろ』と嘲笑交じりに言いそうな先輩が、そんな軽いノリで……」
「別にいいだろ」
「いや、文句はないんですよ。ないんですけど、なんかがっかりだなって。もっとこう、面白そうな理由があってもよかったのに」
残念ながら、俺にはその面白い理由というものがまったく思い浮かばなかった。
とりあえず、俺と姫川はスマホの画面に視線を戻す。
「へぇー。カクヨムっていうのは小説を投稿するサイトの名前なんですね。そこに投稿するだけで応募が完了すると。締め切りは……って明日じゃないですか!? なんでこんな期限ギリギリのやつに!?」
「それはほら、ここ読んでみろ」
そう言って画面の一部分を指さす。それを見て姫川は納得した。
「あーそういうやつなんですね。お題発表からちょうど二日以内に短編を書き上げろっていう」
「発表されてからずっと考えてるんだが何も思いつかなくて。だからお前に意見を求めようかなと」
「普段本を全く読まないと言っても過言ではない私にアドバイスを求めるんですね。相談は受けると言っちゃったわけですし、可能な限り助言はしますけど」
「それでいい。三人寄れば文殊の知恵というし」
「二人しかいませんけどね……」
頼れるような友達が全然いないからね! ……自虐ネタが辛い。
「お題は……」
切り札はフクロウ。ジャンルは不問で、とりあえず物語のカギとなるものをフクロウにすればいい、という非常に制限のない自由なお題だ。
「一見簡単そうですけど、考えてみると意外と難しいですね」
「だろう?」
確かに縛りがほとんどないから簡単に見える。でもだからこそ——自由だからこそ、逆に苦戦する。選択の幅が広すぎるがゆえに、物語の方向性が決まらないのだ。実際、ジャンルも登場人物も何も決まっていない。
「こういうのって深く考えすぎるよりはサクッと決めちゃった方が良いと思いますけどね」
「サクッと……ね」
サクッと決めろ。難しいことは考えるな。直感で行け。これ以上テーマ決めで時間を使うな……
「……駄目だ。全然思いつかない」
「そうですか。じゃあお題のフクロウから思考を広げていった方がいいかもしれませんね」
そう言って自分のスマホをいじり始める姫川。そしてわざとらしく、
「……あっ。この近くにフクロウカフェなるものがあるみたいですよ? 行ったらもしかしたらいい案が思いつくかも」
と言った。
「ほら行きましょうよ。生き抜きも大事ですし」
「……わかった。行くか」
ネット小説デビュー? 皐月鬼 @satsukioni
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