人生を変えた出会い

二輪ほむら

キング・クリムゾン、その衝撃

 私がキング・クリムゾンというバンドを知ったのは、中学校三年の二月だった。

その時は、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」に興味があり、作中に登場する超能力「スタンド」の元ネタとなった洋楽のバンドや曲をユーチューブのアーティスト公式チャンネルで探して聴いていた。初めて聴いた曲は、クイーンの「地獄へ道連れ」だった。クイーン以外ではハードロックバンドを好んでいた。

その頃、キング・クリムゾンも試しに聴いてみたが、当時はまだポップスやアニソンの方をよく聴いていたこともあって、その良さは全く分からなかった。むしろ、「妙に長い、退屈な曲」とまで思っていた。

しかし、高校一年の晩秋に「スターレス」を聴いてみたら、以前とは全く違う感想を持った。

「こんなに良い音楽があるとは知らなかった」

 私は、それ以前に七十年代ロックのコンピレーションアルバムで、イエスの「ラウンドアバウト」を聴いていた。だから、プログレッシブ・ロック(プログレ)の特徴である複雑な構成、初期の電子楽器などによる独特の音、一曲の長さなどを知っていた。そのため、以前より聴きやすく感じたのかもしれない。

 そして、クリスマスに父から「レッド」を貰った。そして、早速聴いてみた。

その時私は、天高く浮き上がり星空の中を漂うような不思議な高揚感を覚え、そして震え上がった。

アルバムは、一曲目「レッド」の緊迫感のある攻撃的なギターリフに始まる。続くのはストリートギャングの兄弟を襲う悲劇を描いたジャズ要素の強い曲「堕落天使」。更に、重厚なギターリフと神秘的な管楽器のコントラストが光る「再び赤い悪夢」が続く。そして静かなバイオリンから始まり、重量感のあるギターに至る即興曲「神の導き」を経て、叙情的で幻想的な前半部と後半部の様々な楽器の音色が複雑に混じり合うトリッキーな即興演奏からなる「スターレス」で締めくくられる。

本以外でこんな感覚を覚えたのは、それが初めてだった。

それからしばらくして、デビューアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」も買った。

ロック史の一つの金字塔に相応しい、素晴らしい作品だった。

こちらのアルバムのオープニング曲にしてバンドの代表曲「21世紀のスキッツォイド・マン」は、美しくも不吉な世界を暗示する自然音に似た三〇秒の静かなノイズ、そして後のヘヴィメタルのような不穏なリフで幕を開け、ジャズに似た複雑で激しい演奏を交えながらヒッピーへのアンチテーゼのような未来への悲観が歌われる。続くのは、「答えは風に吹かれている」と歌ったボブ・ディラン的価値観との決別、ひいては六十年代の終わりを告げるような歌詞の「風に語りて」。更に、中世を思わせる叙情的な代表曲「エピタフ」。この曲も未来への悲観が描かれており、「Confusion will be my epitaph(混乱こそ我が墓碑銘となるだろう)」という一節は、ロック史に残る名フレーズである。日本の歌手にもファンが多く、西城秀樹などがカバーした。その後アルバムは、フルート、メロトロン(鍵盤で磁気テープを再生する電子楽器)などの穏やかな音色に乗せて伝承の一場面のような情景を歌い上げる「ムーンチャイルド」を経て、中世に似た幻想世界を描く詩を乗せた壮大な曲「クリムゾン・キングの宮殿」で締めくくられる。

 その後は「KING CRIMSON’S MUSIC,HISTORY&CONNECTION キング・クリムゾンと変革の時代 A Guide Book for Progressive Rock」(角川書店)という本を買い、ピンク・フロイドなどの他のプログレバンドにも興味を示すなど、かなりプログレにのめり込んでいる。

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