回答「Parting ways with love. 」
「ごめん。ボクは……ここから出られないから」
そう言って首を振った。
「うん。知ってた」
彼女はボクの手を握ったまま、向こうを向く。
その目にはきっと、雫が光っている。
――時のパズル
この施設に集められた天才少年少女に与えられた課題。
トップレベルの科学者も、研究機関も、そして最新鋭の人工知能でさえも解けなかったこの立体パズルを解く事が、ボクたちに与えられた役目だった。
彼女ならできる。ボクには確信があった。
優秀なのは分かっていた。
だってずっとそばで見てきたんだから。
そして、それは現実となった。
彼女は今後、スターの道を歩む事になる。別世界の人間になるんだ。それこそ彼女自身が求めていたもの――
そんなボクの考えは即座に否定された。
「あんなの……解かなきゃよかった……」
顔を背けたまま言った彼女の肩は、震えていた。
かけるべき言葉が、見つからない。
だけど一緒に行くわけにはいかない。
ボクは……ここに残されるみんなを救わなければならないから。
それが、人類の命運を賭けた「ボク」の運命、だから。
自分にそう言い聞かせ、彼女の手を握る指先に少しだけ力が入った瞬間、
「あなたみたいにっ! 大人になれたら良かったのにっ!」
突然ボクの胸に飛び込んで来て、彼女は泣きじゃくった。
茶番だった。
彼女はすべて理解していた。
そう。ずっと前からボクは、ここに残ることを決めていた。
君よりも先に、パズルを解いてしまったあの時から。
誰にも言わず今日まで来たけど、最後に気付かれてしまった。冷静に振る舞いすぎた。
万感の想いを込めて抱きしめる。
君と一緒にいたかったから、ボクはこれまで黙ってきた。
名誉より何より、束の間の幸せを選んだんだ。
だから君が聞きたかった言葉は痛い程分かってる。
ボクだって一緒さ。どれほど言いたかったか。
だけど、言えなかった。あのパズルの存在が意味するもの、それを知ってたから。
ボクたちの運命が決して変えられないものだという事に、気づいてしまったから。
あの立体パズルはこの世の物ではない。
今なお進化を続ける人工知能が解析できない高度な人工物、それはつまり『未来、もしくは別の次元で作られたもの』という仮説が成り立つ。
ギミックの特殊性、一見普通の金属に思える素材、そして何よりもそのネーミングからすれば、このパズルがボク達のところに届くまでにどのように分析され、どのように扱われてきたのか、そしてその謎を解明できた者が今後、どこで何に携わる事になるのか、容易に想像できた。
そこから逆説的に導かれる結論は『今のレールの先にしか、ボクたちの未来はない』ということ。
いつ核戦争が起きるともしれない不安定な世界情勢の中、歴史を変えるリスクを負って、すべてを失うことだけは避けたい。いや、避けなければならない。
それに君も気づいてくれた。ボクたち二人にしか見えない世界があるということ、そして、その世界の実現のために生きなければならないということに。
今はただ、泣くしかないんだ。
君も、ボクも。
挿入歌『とどいた想い』
https://youtube.com/watch?v=m3bDdlXaXZE
♪
この 世界の中で 一人だけ
勝てない貴方に ただ 悔しくて
だけど 喧嘩するのも楽しくて
戸惑いつつ 日は過ぎて
そんな 気持ちはいつか憧れに
大きな背中を 追いかけながら
きっと とどくと信じてた想い
照れて 交わす指、
すべては 私の過ちから
砕かれた
お互いの未熟さ
どうすれば良いのかなんて……
戻れない 二度と 輝き 満ちた日々に
今は 貸して 貴方の胸
軌跡をここに刻むから
♪♪
いつも 貴方の笑顔 まぶしくて
ほかの子に向くと イライラして
それでも 踏み込む勇気持てなくて
ぶっきらぼうに 謝った
赤く 頬染めたのが 可笑しくて
笑い合う影 二つ並べて
だけど 素直じゃないダメな私
こんなにも
バカだね 何一つ見えてなくて
一人だけじゃ 何一つできない
でも貴方に認めて 欲しい気持ちが強過ぎて
ただそれだけ だったの……
ありがとう こんな 私に 想い出を
もう 足手まといになりたくないから
だから 今は 貴方の胸
奇跡をここに刻ませて
___________________________
ゆうけんさんにファンアートを描いていただきました!
ありがとうございます😭
https://twitter.com/visLR/status/1406220263604117504/photo/1
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