第17話 外道の末路
「なんでだよ!」
真矢は北里の持ってきた〝餞別〟の高級ウイスキーを瓶のままあおり、叩きつける様にデスクに置いた。今日の闇賭博場は閉店。客は誰もいない。
「だから言っただろ。あの女をナメたお前が悪い」
北里は真矢を見下ろしながら言った。
北里は、自分の所属する北竜会の幹部から、この店を麗華に明け渡す様に指示された事を真矢に伝えに来ていた。
麗華の新しい所属店は北竜会の息がかかった店舗。麗華はそこで、北竜会の幹部に取り入り、愛人になっていた。
「クソ……北里さん! どうにかなんねえのか!? あと1人、あと1人〝全身清算〟を渡しゃ、正式に北竜に入れたはずだろ!? なんで麗華なんかに!」
真矢はデスクに拳を叩きつける。
「そうだなぁ。でも俺はあまり、変態野郎にゃ組に来て欲しくねえんだよなぁ」
北里はスマホを操作しながら、のんびりとした声で答えた。
「変態って……? え?」
真矢は北里の顔を見る。北里はスマホを操作し続けている。真矢の額に、脂汗が滲み始めた。
「お前、レイプされた後の女を抱くのが好きなんだろ? 犯されたのを思い出して怯える女に興奮する、ド変態なんだってな。いい趣味してるよ。そんな女をてめぇで〝作る〟なんてよ」
北里はニヤリと笑った。
コツ、コツと固い音が闇賭博場のホールから聞こえてくる。
「久しぶりね」
赤いルージュの女が、事務所に入って来た。4ヶ月ぶりに会うその女の顔は、少女が背伸びした様なメイクではなく……完成された大人のメイクに彩られていた。
「麗華……」
真矢の額の脂汗が冷や汗と混ざり、顔を伝って滴る。
「怯えたままでいいから」
麗華が呟いた。
「アンタが私を抱いてた頃に、いつも言ってた言葉よ」
麗華は仮面の様な真顔でもなく、少女の面影を残す明るい笑顔でもなく、妖艶で、残忍な笑みを浮かべて真矢を見据える。
「だ、騙されんな麗華! 北里! てめぇ麗華に妙な事吹き込みやがって! 」
真矢は北里に摑みかかるが、北里に足払いを受けて、無様に床に倒れこむ。
「自分がけしかけた男の事も、忘れたのね」
「え?」
真矢は床に伏したまま、顔を上げる。ドレスのスリットから覗く、白い脚が見えた。
「アイツが〝清算〟前に、全部吐いたそうよ。アンタを道連れにしたかったみたいね」
麗華はそう言うと、ピンヒールで真矢の頭を踏みつけた。
「ぐっ……あ、あれ……?」
真矢は抵抗しようとしたが、身体が言うことを聞かない。
「北里。ジョニー以外はクビにするわ。コイツは……あの子が〝遊んだ〟後、後始末も含めて面倒見てあげて」
麗華は真矢の頭を踏みつけ、振り返って事務所の扉へ向かう。
「……わかりました」
麗華とすれ違いに、女が入って来た。ミニ丈のスパンコールドレスに大きな胸。ラメ入りピンクのルージュに、赤いチークの女。すべて、真矢の好みの姿。その手首には、無数のためらい傷。
「真矢サマ……」
不気味な笑みを浮かべた女は、バッグからナイフを取り出した。ナイフを持つ左手の薬指の爪をカリカリと噛みながら、女は真矢に近づく。
「麗……星乃! 助けてくれ!」
真矢は起き上がろうとするが、薬が効いて、全く身動きが取れない。
「誰それ? 私は〝麗華〟よ」
麗華は振り返りもせず、事務所のドアを閉めた。
不気味な女は、真矢を仰向けにして、馬乗りになって服を脱ぎ、真矢の服をナイフで切り裂いていく。
「真矢サマ……私を見て?」
女は、ナイフを振り上げた。
闇賭博場から出た麗華はコートを羽織る。上等な毛皮も、この寒さを完全に防ぐことはできない。麗華は身震いする。
すすきのの街が、白く染まっていた。
「……もう、戻れないわね」
白い息と共に吐いた言葉には、決意がこもっていた。
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