瞳に映る、煌く星の輝き
千鳥 涼介
第1話 闇賭博場の女
田上優二郎は、対峙する女の瞳を凝視していた。
田上の目の前で妖艶に微笑む女。胸元の大きく開いた、シックな赤いドレス。ハーフアップにした上品なブラウンの髪、長いまつ毛、真っ赤なルージュ。
女の持つ、9枚の手札。その中に1枚、田上の命を奪う、恐るべきカードが潜んでいる。
札幌市中央区の繁華街、すすきのの一画。その路地裏にある、目立たないバーの、さらにその地下。
そこは、命とカネを天秤にかけた遊技場。
借金が積み重なって首が回らなくなった者、自分の豪運を信じ、命をベットしに来る者、そして……一攫千金を狙う者たちが集う、闇の賭博場。
田上と相手の女の様子は、闇の支配者たちに向けて放送される。彼らは底辺を這う虫ケラ達が命を賭ける様子を、ワイン片手に楽しむのだ。
「優さん、手、震えてるわよ?」
田上の正面に座る女が、唇の端を持ち上げながら田上に告げた。
「……バカ言え、お前の目が泳ぎ過ぎてんだよ」
田上はタバコに火をつける。くわえ煙草で、カードを両手に持ち直した。
「……ねぇ、今日は敵同士なのよ」
「分かってる……」
田上は頬を伝う汗をぬぐいもせず、相手の女の目を、凝視する。
勝負の方法は『ババ抜き』。
ジョーカーを最後に手に残した者が敗者となる、究極にシンプルな心理戦。
当然、ババ抜きにはベットもなく、ドロップも無い。賭けるものは己の命、ただ一つ。勝てば数億、負ければ死が待つ、デス・ゲーム。
田上はこの賭博場で「ポーカーキング」と呼ばれ、ここに足を踏み入れたその日から、一度も負けた事がなかった。
対する女は、この賭博場のオーナーで、名前を麗華といった。当然、その名前はキャバクラ嬢時代の源氏名だ。今は暴力団幹部の愛人。
そんな2人が命を賭け、カードを手にして対峙している。
2人の間には緊張感が漂い、彼らを見守る黒服の男たちにも、その緊張が伝わっていた。
「優さん、早く引いて」
麗華はわざと、手札をやや下の方に構えた。上等なドレスの、大きく開いた胸元を見せつけるためだ。男の動揺を誘う、大きな胸。男を奈落に突き落とす、深い谷間。
だが、田上は他の男とは違う。麗華の胸元になど目もくれず、ただただ相手の瞳を見つめて待った。麗華は訝しげな顔をして、姿勢を直すフリをして胸を揺らすが、田上は一向に麗華の胸に目を落とさない。
「もう、本当に真面目な人……」
麗華は頰を膨らませた。しかしそれでも、田上は視線を動かさない。田上が見ているのはただ一点──
──未来への、希望のみ。
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