Why were killed Robin?

立見

どうして駒鳥殺された?

――駒鳥が死んだ。



雀が矢で射殺し

青蝿が骸を見つけ

魚が皿にその血を取り

甲虫が骸に着せる死装束を縫い

母喰鳥が棺を埋める墓穴を掘り

烏が祈りを捧げる司祭を引き受け

雲雀がその付き人を務めて

金翅雀が灯りを持ち

鳩が喪主となり

鳶が棺を担いで

鷦鷯か棺覆いを運び

鶫が賛美歌を歌い

雄牛が鐘を鳴らした



――誰も駒鳥を殺した雀を咎めない。


――空っぽの棺は白い花で満ち、空疎な嘆きがこだました葬儀の日。


――綺麗に血を拭い、死装束を着せられた駒鳥は森の神に捧げられた。その亡骸が、この地に戻ってくることはない。


――数年前、双子として産まれた梟は、その異名通り母を殺した。ただでさえ双子は不吉だと忌み嫌われるうえ、己が母を死なせた彼らは赤子の身で罰を受けた。


「丁度いい、片割れは育てて森の神に捧げよう。」

「魂までも森の神に縛られては可哀そうだ。せめて名を変え、梟ではなく“駒鳥”として死なせてやろう」

「来たるその日、誰が駒鳥殺すのか」

「この雀が矢で射殺そう」

「誰がその亡骸を確認する?」

「死体を好む蝿に頼もう」

「誰がその血を受ける?」

「すぐに洗い流すことのできる魚が承ろう」

「誰が死装束を作ってやれる?」

「この甲虫が縫ってやるよ」

「墓を掘るのは?」

「墓場は穢れてる。そうだ、もう片方の子供は墓守にでも預けよう。そうしてそいつにやらせればいい」

「誰が司祭を務める?」

「葬式が必要か?どうせ骸は残らないのに」

「形だけでも挙げたほうがいいだろう」

「村を救う哀れな駒鳥に、この烏が祈りを捧げましょう」

「誰が付き人になる?」

「真っ暗闇の中でないのなら、この雲雀が付き人を引き受ける」

「誰が駒鳥の喪主をつとめる?」

「………」

「………」

「………」

「うちには子供もいない。この鳩が駒鳥を養子にし、死んだ後には喪主となろう」

「ありがたい。なら誰が葬儀で灯りを持つ?」

「金翅雀が灯りを運ぼう」

「誰が棺桶を担いでくれる?」

「もしも闇夜でないならば、この鳶が空の棺を担ごう」

「誰が棺覆いを運ぶ?」

「それは私たち鷦鷯の夫婦がやります」

「誰が葬儀で賛美歌を歌う?」

「薮の中からでもいいのなら、この鶫が歌ってやろう」

「誰が鐘を鳴らす?」

「鳴らせる力がある者はこの雄牛にしかおりますまい。引き受けますよ」


――片方は異名である“母喰鳥”を名乗り、墓守として生きていく。

――片方は“駒鳥”を名乗り、森の神に捧げられる贄として短い生を送る。


――母喰鳥は葬儀のあと、一人静かに駒鳥の墓前に立つ。墓に供えられているのは、母喰鳥が摘んできた野花。これしか彩るものはない。

 そっと、母喰鳥は仮面を取り外した。物心つく前から、外で素顔を晒したことはない。不気味な白いお面の下から覗くのは、死んだ“駒鳥”そっくりの顔。

 駒鳥は、鳩のもとで最期まで幸せに暮らしていた。双子の兄弟がいることも、生贄として育てられていたことも知らず。

 一度として、母喰鳥と駒鳥が会うことは叶わなかった。許されなかった。


 この時初めて、可哀そうな駒鳥のため誰かが泣いた。

 




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