18
刺すように鋭い声で、ライラを呼び止めたのは村長のアンダンだった。
「使徒様、どうやって私の書斎の前を通らずに、こんなところへ?」
アンダンの右拳は、怒りでふるえている。なぜ怒るのかは、スカイにはすぐには理解できなかった。ウイルナの森という場所が、この村の秘跡なのだろうか。
「……あんたが寝てたんじゃないか?」
とりあえず惚けてみたが、それはアンダンの機嫌をこよなく損ねることには成功したようだ。アンダンは半分怒号にも近いような声で、握ったこぶしをようやくおろしながら言った。
「いや、わしはずっと起きておったよ。起きて、王都に本当にスカイなんて名前の使徒が居るのか問い合わせとった」
怒った人間から情報を引き出すのは容易い。身の危険と引き換えだが、それはこの際どうでも良かった。スカイは、自分を殺せる人間は一人しかいないと自負していた。
「結果は聞かずもがなだな。いないって言われたときにゃ、ウイルナの森だかバグの森だかに放り込まれてたんだろうが……」
スカイの挑発に乗ったアンダンの目が、かっと見開かれた。
「おまえはあの森のなにを知ってる!ライラ、なにを話した! 」
(ビンゴ、かな)
半ば当てずっぽう……というか当てこすりで発した「バグの森」という言葉は、ただでさえ悪かったアンダンの機嫌をこの上なく損ねまくるということには成功したようだ。
ライラに向けられてる目線に割り込むように半身をずらして、スカイは更に挑発を重ねた。
「あんたが知っていることよりは多く知っているさ。ライラに聞かなくてもな。」
これははったりだ。何の情報もない以上、一番知っていそうなやつにはったりをかけて情報を引き出すしかない。
「やっぱりおまえはあの森の奇跡を目当てに来たんだな、この村のものだ、王都の連中に渡しはしない!おい!」
スカイとライラの背後から、数人の男が現れた。一人はライラを自分の家へ追い返している。
(森でなんらかの奇跡が起きる。それを王都から隠匿してる、か。あとは森を調べればよさそうだな。)
アンダンの合図に応じて、男たちはスカイを取り囲んだ。
「最初から牢に入れておくべきだった。今までの奴らと同じように」
スカイが村人に危害を加えることはできない。許可が下りていないし、現状は命の危険が迫っているうちに入らない。
「猿ぐつわをしておけ、魔術師は呪文を使う」
(森を調べる……か。脱出できれば、だな)
胸中で付け足して、スカイはおとなしく後ろ手に縛られて地下牢に放り込まれることになった。
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