第2話 キンモクセイに誘われて

 ――昨日もキツネは鼻歌を歌いながら、散歩をしていた。


 しばらくいつもの散歩道を歩いていると、どこからともなくいい香りがただよってくる。それは、甘くて優しく、なぜか心が安らぐ香り。


 キツネは、それに誘われるように進んでいく。いつのまにか散歩道をはずれていたが、香りに夢中のキツネはまったく気づかない。


 しばらく進んでいくと、いきなり視界が開けた。目の前には、平らにならされた道やブロック塀、大きな家々などがある。


 周囲に見慣れないものがたくさんあり、キツネは急に不安になって立ち止まる。しかし、この甘い香りの正体が気になるのも正直なところだ。


 少し迷ったキツネだったが、香りの正体を突き止めることにした。


 不安を追い払うように、二、三度頭を振ってからただよう香りに集中する。森にいた時よりも、それは濃度を増しているように感じられた。


 少し落ち着きを取り戻したキツネは、勇気を出して歩き出す。


 しばらく進んでいくと、小さな公園にたどり着いた。そこには、たくさんのキンモクセイの樹が植えられており、かわいらしい黄色の花を咲かせていた。


 先程よりもずっと濃い甘い香りと初めて目にした満開のキンモクセイに心を奪われたキツネは、しばらくの間その場にたたずんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る