食べたら食べた分だけ、おいしいよ

@grow

好物はたくさんあるほど良い


獣魔。

代々引き継がれる動物もいるが、大抵は授業の中で契約することが多い。

契約者が食事をする事で獣魔のお腹は満たされる(獣魔のお腹が満たされた後も食べ続けると自分が太ってしまう)。

これは、動物を絶滅危惧種にしないための措置から生まれたらしい。

契約者は食事を与える代わりに、獣魔の能力を使うことができる。


ムシャムシャ、ごくん。ムシャムシャ、ムシャムシャ


授業中に聞こえてくる、いつもの音。

ある生徒が早弁をしている音だ。


最初見たときは誰もが驚いた。早弁する奴なんて現実にいるのか、と。


けれど、今では誰もリアクションを取らない。

当たり前だ。同じクラスになってから毎日、毎時間見て聞いていれば、それが一般的ではないことでも日常となるものだ。


先生も何回か注意していたけど、今ではとっくに諦めて授業を進めている。


このクラスの授業中、彼の咀嚼音はBGMとなっていた。


そんなBGMが教室内を流れている中、机の下で獣魔にチーズを食べさせていると、先生から午後の課題についての連絡が伝えられた。


「さて、昼休憩の後は特別課題でフクロウを捕まえてもらいます。生死は問いませんが、生きている方が得点は高くなります。

なお、ホームルームでも伝えた通り、捕まえてくるのはあなた達ではなく、獣魔の力だけで捕まえてください」


それでは、と言いながら教室から出て行ってしまった。

先生がいなくなると、立ち所に五月蝿くなる教室内。


お弁当なんて持ってきていないので、購買部に行こうとすると、早弁が声をかけてきて。


金髪でふわふわの髪、背が高く、ユーリ・シャンデラ、というかっこいい名前のイケメンだけど、誰もが早弁と呼んでいる。


「なあ、特別課題はどうするんだ? 自分が手を出せるならともかく、獣魔だけでフクロウを捕まえないといけないんだぞ。そんなこと出来るのか? ネズミ」


イケメン(中身はブサメン)


早弁の言葉に賛同する取り巻き達。

我関せずのクラスメイト。

心配してる風な女生徒。

遠くからニヤニヤと見ている男子生徒。


この光景も、先程同様に見慣れた日常。

傍から見たらいじめに見えるかもしれない。

けれど、この場の中心となっているボクがいじめと肯定しなければいじめにはならない。


「そんなの、獣魔の使い方次第じゃない? 」


そんなことよりも、今はお腹を膨らますことが最優先だ。

人が話しかけてきたので無視するわけにもいかないので、一言言葉を返しながら購買部へ向かう。


後ろから何か言ってきているようだけど、知るもんか。

胸ポケットにいる獣魔の「ネズミ」を撫でながら歩き去る。


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購買部で主食とおやつを買った後、中庭のベンチでお昼ご飯。

主食を食べ終え、おやつを二人(一人と一匹)で食べ始めた時後ろから声がかけられた。


「また、そんなのばかり食べてるのか」

「だって好きなんだ」


おやつの次はデザート。リンゴを食べながら振り向くと幼馴染のロウがいた。

君だって今も骨つき肉を食べてるじゃないか、という目を向ける。


「俺の獣魔は肉しか食わないんだから仕方ないだろ。お前の獣魔は雑食だから何でも良いのが羨ましい」

「そこは楽だからよかったよ。けれど、沢山食べないといけないのがね」


さっき買ったたくさんのおやつを指差すとロウの目線がそちらに向かう。


「いつもそんなに食べていたか?ネズミってそんなに食っても腹一杯にならないっけ?」

「ううん。今日は特別だから。またね」


食事を終えて特別課題の集合地点に向かう。


--------------------


昼休憩が終わる頃にクラスメイトが集まった。


「集まりましたね。それでは、特別課題を始めます。それでは、獣魔を呼び出してください。全員が召喚し終えたら合図を出しますので」


獣魔は基本的に連れて歩いたりはしない。大き過ぎたり、鳴き声がうるさかったり、縄張り争いが絶えないからだ。

僕の場合は迷惑にならない程の低ランク獣魔だから連れていられるだけ。


クラスメイトがポケットから石を取り出し地面に叩きつけると、魔法陣が描かれ、そこから多種多様な獣魔が呼び出される。


3メートルや5メートル程もある馬やウサギ。

臭いがきついカエル。

色鮮やかな蛇。

そして最も目立つドラゴン。


「どうだい! 私の獣魔は相変わらずかっこいいだろう。」


早弁のだ。


彼の獣魔を取り巻きが絶賛している。

格好良いだの、羨ましいだのと。

確か早弁の家の獣魔は代々引き継がれているはずだから、彼の力ではないはずなんだけどね。

彼が早弁しているのは、それぐらい食べないとドラゴンのお腹がいっぱいにならないかららしい。

まあ、そんなこと言ったら「名家に生まれるのも、また実力だよ」とか言われるはずだ。


「みなさん呼び出したようなので、始めるとしますよ。ルールのおさらいです。あなた達は獣魔に命令してフクロウをこの檻の中に入れて下さい。殺していても加点はしますが、爪や羽等の一部だけでは点数になりませんので。それでは始め!」


先生の合図とともに獣魔がフクロウの森に向かっていった。

フクロウは夜行性だが、何種類かは日中でも動いている種類もいる。


みんなの獣魔が居なくなっても、僕の獣魔がポケットから出て行かないことに気づいたのか、クラスメイトがヒソヒソと小声で話している。

それに気づいた早弁がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら取り巻き連中と一緒にこっちに来た。


「おいおい、君の獣魔は一歩たりとも動いていないじゃないか。もしかして、この特別課題を棄権するのかな?まあ、棄権しなくても、最下位なのは分かりきったことだけどね」


話しかけられたので、仕方ない。


「別に棄権したわけではないよ。ただ、みんなより地味なだけだから目立たないだけだよ」

「ふーん。まあ、何をしても意味はないと思うけどね。私のドラゴンは特殊能力はないけど、飛べるしブレスは放つし硬い鱗で守られている。点数は低くなるけど、全滅させて持ってこさせれば、ダントツの一位だからね」


そんな攻撃力をしてフクロウ達が木っ端微塵で判別できない程になったらどうするんだろうと思う。

まあ、そんなことにはならないと思うけど。


ボクの反応が鈍いからか、舌打ちをして去っていった。

取り巻き連中も同じように舌打ちをしていた。


さて、邪魔者はいなくなったので、チーズを食べながら待ってるかな。

もちろん、獣魔にも分けてあげる。


--------------------


課題が始まってから数十分経ち、獣魔が戻ってきた。

けれど、どの獣魔もフクロウを連れてきていない。

契約者と獣魔は簡単な意思疎通が可能であり、それによるとフクロウが見つからなかったらしい。


先生もおかしいと思い、今回の課題は中止しましょうと言う直前、森の方からバサバサと羽音を響かせながら大量のフクロウが飛んできた。

そのまま檻の中に入って眠ってしまった。


その光景に誰もが唖然とした顔をしている。


先生のところまで歩いて行きこれで課題は終わりですか?と聞いてみる。


「え、えっと。終わりというか、この不可解な現象を課題の合格としても、誰の功績になるのかの判断が・・・」

「では、このフクロウ達を森に返せば良いんですね?」


え、ええ。という先生の了承の声を聞いたボクは獣魔に頼んで檻にいるフクロウ達を森に返した。


またもや皆んながぽかーんとしている。

そんな中、いち早く戻った早弁が顔を赤くしながらこっちに来た。


「おい、なんだ今のは! まさか、ネズミがやったなんて言わないよな」

「そうだよ? ボクの獣魔の能力でフクロウに指示を出して檻に入ってもらって、帰ってもらったんだよ」

「お前の獣魔はずっとそこにいたじゃないか! でまかせを言うな」

「だから、獣魔の能力を使ったんだって。ボクの獣魔の能力はネズミを食べたモノにお願いを叶えてもらう、って能力だから」


ホームルームで内容を聞いた後、獣魔に頼んでネズミをフクロウに食べさせていた。

寝ているフクロウを起こすのが大変だったらしいけど、好きなものが沢山食べれたからネズミ達が頑張ってくれたようだ。


ボクの獣魔のオリジナルネズミはこの子だけど、それ以外にもネズミなら獣魔契約は出来る。

たぶん、小さくて非力だから可能なんだと思う。

大変だったことは、数十匹分のナッツやチーズをずっと食べ続けた事かな。


フクロウを捕まえるのに一番簡単なのは、フクロウを使えば良いだけ。


切り札は最初から見せないで、時間ギリギリに出すものだよね。

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