僕はあなたを諦めない!

甘川 十

僕はあなたを諦めない!


 噴水のある広場。花束を抱える男が一人。

 その目の前にはセミロングの綺麗な黒髪をたなびかせる可憐な美少女。

 ミニスカートとニーソの絶対領域が彼女の美脚を輝かせる。

 そして、男は跪き、花束を彼女に向けて、このシチュエーションならお決まりのセリフを告げる。


「花さん!付き合ってください!」

「無理よ」

「なんでだああああああ!」


 まあ、一言で一蹴されたんですが。

 どうもみなさん。たった今振られた男、三島鷹人です。

「なんでって好みじゃないの」

「ド直球!」

 さらに止めを刺してくるこの美少女は高島花さん。容姿端麗頭脳明晰聖女様である。

 くそう・・・

「それにね。三島君」

「なんでしょうか・・・」

 orzとなっている僕の目の前で仁王立ちになる花さん。あ、見え。あ、すいません、花さん。頭を下げますから、お願いだからそんなごみを見るような目で見ないでください。

 顔を上げられないまま僕は天から降り注ぐ花さんの声を待つ。

「98回も振られているのに、どうして今回はいけると思ったのよ・・・」

 そう俺は花さんに今回で99回目のアプローチを仕掛けた。

 あの日出会った時から1年間だ。ん、花さんの言う通りなんで行けると思ったのかだと?愚問ですな。それは、

「好きだからです!」

「・・・」

 ああ、花さん無言で帰ろうとしないで!

「ま、待ってください花さん!」

「・・・まだ何か用かな、三島君」

 ああ、絶対零度の視線も綺麗だ・・・じゃない!

 俺は素早く立ち上がり、敬礼だ。

「イエス、マム!」

「誰がマムよ」

 呆れた様子でも止まってくれる花さんは優しいなあ・・・

「ないなら帰るわよ」

 おっと、トリップしている場合じゃなかった。

「も、もう一度チャンスをください!」

 僕は高らかに手を上げ、花さんにそう呼びかける。

「・・・あのねえ・・・さっき振られたばっかりなのにその自信はどこから来るのよ」

「愛故です!」

「・・・いいわ、もう一度きなさい」

「よし!」

 はっはっはー花さん、そんな、もう何か来ても、大丈夫だって顔をしていられるのも、今のうちですよ。

 そう、実は今回は2つ作戦を練ってきたのだ。

 定番シチュエーション作戦は失敗したが、2つ目は違う。

 この1年間、あなたにただ告白を続けたわけではないのだ。

 あなたのことをかんさゲフンゲフン、見つめてきてあなたのことをたくさん知ることができた。

 好きな色、好きな食べ物、好きな天気、お気に入りの靴などなど・・・僕は愛を証明するために研究を重ねていったのだ。

 そして、ついにたどり着いたのだ。

「いきますよ!」

「きなさい」

「これが僕の切り札だああああああああああ!!!!」

 ぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 笛の音に反応し、ものすごい速さで来たそいつは、僕の腕にとまる。

「な・・・!」

「どうですか、花さん」

「・・・」

 驚いて声も出ないようですな、花さん。

 そう僕が呼んだのは、フクロウだ。

 なぜこいつが切り札なのか?

 それは、花さんがお友達とお話しているときにこっそり聞いたのだ。

 花さんが無類のフクロウマニアだと!

 そう、その話を聞くまで気付かなかった僕が正直悔しかった。

 確かにスマートフォンのカバーはフクロウのイラスト。ヘアピンも同じ。

 愛読書は『月刊フクロウ』。他にもフクロウ尽くしだったのだ!

 だから、僕はこの2ヵ月この僕の切り札こと相棒フクロウのクロを仲間に引き入れたのだ!

 そして、この作戦はこれで止めだ!

「クロと毎日会えるように僕と付き合ってください!!」

「・・・」

 きまったあああああああああ!!!!

「・・・」

 どうよ!花さん!あなたの必殺「無理よ」を出させませんでしたよ!!

「・・・」

 くうう!この2ヵ月クロをあなた好みにするためにどれだけ苦労したか・・・

「・・・」

 とうとう報われる日が・・・

「・・・」

「あ、あの?」

 は、花さん?あのマジどうしたんです?クロ来てから無言過ぎません?

 クロ見つめたまま固まったままなんですけど・・・

「・・・素敵」

「!!」

 きたあああああああ!ついにこの日が・・・100回目でとうとう花さんが僕の彼女に・・・

「素敵です!クロ様あああああ!!!」

 と思ったのも束の間だった。え?

「ああ!なんと素敵なお方でしょう!!!」

 ちょ、花さん?なんでクロを見てハアハアしてるんです?

「あ、あの」

「凛々しい立ち姿。最高の毛並み。ああ、素敵すぎる」

 俺の困惑なんて気にしないというか、気にもしていない花さん。

 そして、

「クロ様!結婚しましょう!!」

 ・・・。

「はあああ?!!!」

「ああ、すみません。そうですよね。こちらに高級ささみがありますのでどうぞこちらへ・・・ああ、素敵・・・」

「・・・」

 おいいいい!なんだこの展開!というか花さん!クロを抱きかかえてどこに!

 クロ!お前もささみにつられてんじゃねえええ!

「ちょ・・・花さん返事は」

「・・・ああ、まだいたのですね」

「も、もちろん」

 俺の心配をよそに花さんは僕に見せたことないような笑顔を見せ、

「・・・すみません。私この方と結婚しますのでっ」

「・・・」

「さあ、クロ様一緒に私たちの愛の巣に帰りましょうね」

 そう言い、立ち去っていく。

 そんな後姿を見つめながら、思い出していた。

 花さんの友人が言った言葉を。

『あんたのフクロウ好きはやばいわね』

 と。

 ふふふ・・・そういうことか・・・

 僕はゆらりと立ち上がる。

 ぴいいいいいい!!!!!

「え?あ!クロ様ぁ!!!・・・三島君なにするの?!」

 クロが僕の笛の音で腕に戻ってくる。

「花さん、クロだけなんて甘いですよ」

「・・・諦めなさい」

 そう言うと思ってましたよ・・・でもね!


「僕はあなたを諦めない!」


 というかクロにとられてたまるかああ!


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