隣の席の同級生
紫斬武
隣の席の同級生
「フクロウ貸してくれね?」
「…………は?え?」
入学して初めての日直、日誌というものに奮闘してる中で、隣の席の同級生である男の子が私に問い掛けた。
ちょっと待って、今、フクロウ貸してくれね?っとか言われなかった?新手のギャグか何か?
彼の言葉に日誌に向けていた目線を彼に向ける。彼は隣の席だが、改めて顔を見詰めるのは初めてかも知れない。前の席とか後ろの席とかでは振り向く事はあるけれど、隣の席は教科書忘れた貸して、とか、仲が良くなかったりしないと先ずは見ない。隣の席は誰かな?のチラッくらいしか見ない。
初めてに近いくらい真っ直ぐに彼へと視線を傾ける、何処にでもいる、男子とはしゃぐやんちゃ系な男子っぽい。そんな彼がいきなり、フクロウを貸してくれって言う?聞き間違えか何かかな?
彼と一緒の日直係りではあるが、高校に入って一ヶ月、話した事もなければまともに見た覚えもない。軽口で、フクロウ貸してくれって何よー、もうっ、とか言える仲では断じてない。
男子と話すのが苦手な訳じゃないけど、積極的に話す柄でもない。
それでも、何か話さないと気まずくなり、取り敢えず会話を続けてみる事にした。
「袋…貸してくれって?」
「いや、フクロウ貸してくれって言った」
「フクロウ…フォー、フォーとか鳴く、夜行性の?」
「そうそう、そのフクロウ」
「…私、フクロウ飼ってるとか思われてるの?」
聞き返したが、彼はフクロウを、あの動物のフクロウを貸してくれって私にやっぱり言っていた。聞き間違えじゃなかった。最期に私が問い掛けた、フクロウ飼ってると思われてる?の返答に彼は首を振った。
「いやいや、思うわけないって。え?フクロウ飼ってんの?」
「飼ってない、飼ってない。だって、フクロウ貸してくれって私に言うから、そう思われてるのかなって」
「フクロウ飼ってないなら、何飼ってんの?俺は犬」
「あ、私も犬。種類は?」
「柴犬、そっちは?」
「うちも柴犬!一緒だね、名前は?」
「在り来たりな太郎、そっちの名前は」
「うちは桃太郎って名前だよ」
そこから、色々と脱線し、彼とペットの話や、好きな食べ物とかテレビは何を見た?の話と発展していった。
そうして行くうちに、時間が大分経っちゃって、慌てた私は日誌を急いで書き始めた。勿論、彼も日直だから一緒に書いたりしたけれど。
日誌を書き終え、職員室に提出し終える頃はまだ少し明るいけれど時間は17時くらい。先生に余り遅くならないようにって注意を受けて、素直にごめんなさいって二人で一緒に謝った。
帰りは彼が同じ方向だからって理由で一緒に帰る事になった。
「ね、そー言えば何で私にフクロウ貸してくれって聞いたの?」
夕暮れの帰り道、隣を歩く彼に問い掛けた。
「……印象、残るだろ?いきなり、フクロウ貸してくれって言ったら」
「うん、確かに。何を言ってるの?とか思った。最初は言えなかったけど、今ならちゃんと言えるかな」
犬を飼ってるとか、最近みたテレビの話をしたり出来たし、最初よりは同級生っぽくなったかなって私が思っていると彼は視線を私に向けて、何処か照れ臭い表情で告げる。
「お前と、話したかったから。会話の切っ掛け作り。上手くいって良かったかな」
そう言って歩き出した彼の顔は、夕焼けだから赤いだけじゃないと感じた、そんな私の顔も赤かったかも、知れない。
隣の席の同級生 紫斬武 @kanazashi
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