断罪系悪役令嬢漢道
語部マサユキ
断罪の始まり
「マリーメア、今日より我が侯爵家に迎え入れる事になる二人。つまり今日からお前の母と妹となる二人、サリアとリリーだ」
やたらと高そうで偉そうな服を着た、見た目だけならナイスミドルと言っていいかもしれないオッサンが顔立ちの似た美人の、明らかに母娘である事が分かる女性を得意げに紹介するのを目にして『俺』は何故か“あ~これって妹がやってたゲームだな”と不思議と冷静に思っていた。
同時に夢じゃないかとも思う。
何故なら俺自身は妹のやっていたゲームでは最悪の悪役として主人公に立ちふさがる令嬢“マリーメイア”となっているのだから。
いや? なっていると言うと少し違う気がする。
どちらかと言えば俺の意識が“マリーメイア”の中に入っているような感じ。
……なのに、こんな状況なのに俺は全くと言っていい程危機感も違和感も感じていないのだ。
やっぱり夢だからなのかな?
「よろしくお願いいたします。マリーメイア様」
「よ、よろしくお願いします……」
しかし、紹介された二人がぎこちない様子で“マリーメイア”に頭を下げる姿を見ていると、俺の感情とは別に声が聞こえた。
『……なんで?』
それは弱弱しくか細い声でも女性の声。
その声に周囲の侯爵や母娘、使用人たちも反応していない事から『俺』にだけ聞こえている声なのだろう。
つまりは“マリーメイア”本人の声。
ゲームの本編は妹から何度か聞いているし、実際に(妹に強要されて)プレイした事もあるのである程度の事は覚えている。
ゲームの舞台は二人が16歳の頃に通う学園で、主人公は目の前にいる義理の妹『リリー』であり、いわゆる色々な立場のあるイケメンと恋愛を楽しむストーリーだ。
そんな物語で『王子ルート』を選ぶと恋路を邪魔しに立ちふさがるのが義理の姉であり本来王子の婚約者である“マリーメイア”なのだ。
『なんで……なんで? なんで? なんで? なんで?』
作中のマリーメイヤはまさに悪逆非道。
義理とはいえ妹であるリリーに事ある事に嫌がらせをし、取り巻きを利用していじめを繰り返し、最終的には命すら狙う、まさに悪役令嬢を地で行く鬼女として立ちふさがる。
当然彼女のそんな行いはゲームクリアと同時に発覚して、婚約破棄の上に断罪を受ける事になるのだ。
しかし……だ。
『なんで……私の事を見てくれないの?』
義妹の恋路を邪魔し、嫌がらせをし、命まで脅かす悪事を行ったマリーメイアを嫌うユーザーは実は意外と少ない。
その理由なのだが……。
“ソイツ”は紹介した後妻と次女を優し気に見つめていたのに、ようやく“マリーメイア”の望み通りこっちを見たと思えば……警戒するように、けん制するように……いや、明らかな敵愾心を込めた視線をこっちに向けてきた。
『!?』
マリーメイアは表情を崩さない。
それは彼女の長年の努力の賜物で、令嬢としての教育が感情を不用意に現す事を許さないから。
しかし、彼女の中にいる『俺』にはハッキリと分かる。
彼女が感じている嫉妬、慟哭、絶望……。
12歳そこそこの少女が表情に出さず心で泣いているのだ。
実の父に『娘』ではなく『敵』として見られている事実に……。
*
悪役令嬢マリーメイア。
彼女の実母は気位の高い典型的高慢な貴族令嬢で、結婚も御家同士の政略結婚の意味合いが強いものだった。
しかし独占欲、嫉妬心が人一倍強かった彼女は夫からの愛情を一方的に求めたのだが、政略結婚と元から冷めていた侯爵は夫人のそんな態度に益々態度を硬化させ、遂には愛人宅に入り浸り家に帰って来なくなった。
そんな折、夫人の矛先になったのはマリーメイアだった。
『夫が帰ってこないのは、自分を愛してくれないのはお前の出来が悪いからだ!』そんな理不尽な事を繰り返して虐待を繰り返す。
……マリーメイヤにとって母とは恐怖の対象でしかなく、愛情を受けた記憶など欠片すらも無かったのだ。
それでも彼女は我慢した。
母が言うように自分が頑張れば、優秀であればいつか父は戻ってきてくれる……そんな淡い期待を胸に学習も礼儀作法もダンスなどの教養なども……幼少とは思えない程必死に努力を繰り返して……。
しかし母の虐待はある日突然終わりを告げる。
やり病を患ったと思ったら、虐待を繰り返していた実母が数日でアッサリと急逝してしまったから。
ストレスのはけ口として相当飲酒や偏食をしていて、身体も精神もボロボロだったようで、抵抗力が下がっていたのが原因とされたが……。
そして実に数年ぶりに父が家に帰って来たのだ。
理由は別にしてもマリーメイアは歓喜した『ようやくお父様が戻ってきてくれる。私がしてきた努力は無駄では無かったんだ』と。
そう思っていたのに…………彼女に齎されたのは更なる絶望だった。
彼女は、ただ実の父に認めてほしいだけの、愛して欲しかっただけの……本当に普通の少女だったのに……。
……この日、義理の母娘との対面を切っ掛けに彼女は壊れてしまうのだ。
努力を否定され心を病み、努力する事を虚しくなり……後に努力して成長してくる義妹に成績でも人望でも、遂には家との繋がり目的で結ばれていた王子との婚約すら義妹に敗北してしまうのだ。
自分の努力は否定されるのに、義妹の努力は認められる…………マリーメイアは自分の最後の『役割』と思っていた婚約を破棄されてしまい、どうしようもなくなって最後の最後、短剣でリリーを殺害しようとして……取り押さえられ断罪される。
……これはクリア後のイベントで明かされる真相だ。
この後マリーメイアは幽閉されていた侯爵家の地下牢にて服毒死する事になる。
国からは王子の婚約者への殺人未遂で『侯爵家より絶縁の上、国外追放』となっていたが、侯爵家としては『我が家で始末を付けました』という体を保ちたい為の自殺教唆なのは明らかだった。
この事は被害者のはずのリリーが強固に減刑を求め、服毒を止めるのだけれど……その嘆願をキッパリとマリーメイアは拒否する。
『この毒薬は……初めてお父様が自分の意志で私に下さった品、そして罰なのです。これ以上、私から何も奪わないでください……』
手にした毒薬を手に、微笑みすら浮かべる彼女の言葉を聞いた時には……自分の愛する女性を殺されかけた王子ですら哀れみに眉を顰めたくらいだった。
それほど……彼女の最後は哀れだった。
初めてくれた物が毒薬……それを喜んでいる義姉の壮絶な姿に、最後リリーは泣き崩れる事になるのだ。
*
……さて、そんなマリーメイアが壊れたとされる日に何故か俺は『彼女の中』に入っているのだ。
相変わらずマリーメイア自身は『何で? どうして?』を繰り返して呆然と父親を見ている。
自分の中で地獄より救い出してくれる象徴、絶対的な人物と思っていた父の突然の理解不能な行動に思考が出来ていないようだ。
当然か、努力していてもまだ彼女は12歳……父親の暴挙を冷静に見れる程成長しているワケがないのだ。
んが…………俺にとっては全く違う。
俺はある程度成長しているし、何よりも全くの他人……身内の行動じゃなく他人の行動として冷静に見て考える事が出来る。
俺にとって目の前で偉そうにしているコイツは……守るべき娘を、女性を、ないがしろにし、孤立させ泣かせるというカスのような男にしか見えない。
何が侯爵だ、何が父親だ……。
「……カスが」
『え!?』
誰にも聞こえないくらいの小さな呟き……それが“マリーメイア”の口から洩れた。
それは『自分にしか分からない』くらいの微妙な呟きなのだが、自分の体であるマリーメイアには当然自分の口から出た『自分では言わないはずの言葉』に驚いたようだ。
当然それは『俺』が思わずつぶやいてしまった言葉だ。
いや、違うな。
この裏設定を知った全てのユーザーが思った事だろう。
確かに彼女は様々な嫌がらせを行い、殺人未遂まで犯した……それについては弁明する余地は無いだろう。
だが…………“真に断罪されるべきカス”が無傷なのは許せない……断じて!!
……俺の意志でもこの体は動くのか?
物は試し……手は……動くな。
足も……大丈夫そうだ……。
『!? !? !?』
俺が微妙に手の指や膝が俺の意志で動くか確認してみると、マリーメイアが微妙に勝手に動く自分の体に驚いているのが分かる。
しかし彼女の戸惑いとは裏腹に、紹介された義妹のリリーがぎこちない様子で着慣れていないドレスのスカートを摘まんでお辞儀をする。
「きょ、今日からよろしくお願いします……その、お姉さま……」
その言葉を聞いた瞬間、マリーメイアが瞬時に激高したのが分かった。
あれ程貴族として感情が表に出ないようにしていた彼女なのに、リリーの言葉は彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。
それは初対面した義理の姉に対しては至極まっとうな挨拶で、リリー自身には何も落ち度は無いのだが、この場で唯一マリーメイアにとってはタブーになりえた。
私は娘と認めて貰えないのに!!
『だれが貴女のような下民の娘を妹などと!!』
マリーメイアは生まれて初めて感情のままに暴言を吐き、右手を振りかぶってリリーの頬を叩く……………………………………………………………………………………のを俺は全力で言葉を噛み殺し、左手で右腕をガッチリと掴んで押し留めた。
『落ち着け!! ここでリリーを引っぱたいても何にもならない!!』
『え!? え!? 何!? 体が勝手に……』
マリーメイア本人はいよいよ自分の体が勝手に動いて自分の行動すら抑制し始めた事に驚愕している。
だが驚く彼女には悪いとは思うけれど、彼女の今後を知っている俺はその行動を容認する事は出来ない!
ゲームの流れではこの日、マリーメイアがリリーを頑なに拒絶する事で妹を溺愛する侯爵、つまり実父との確執が決定的なものになってしまうのだ。
そうなれば完全にマリーメイアはこの家で『敵』になってしまって孤立してしまう。
それだけは絶対に避けないと……。
『悪いようにはしない。今は俺に任せろ、マリーメイア!』
『え!? どなたですか!? 頭の中で勝手に声が!?』
マリーメイアは頭の中で勝手に聞こえる『俺』の声に戸惑い混乱していて、余裕がなくなっている。
その隙に、俺は彼女の体を動かし始める……今しか無い!
俺は“マリーメイア”として姿勢を正し、静かに口を開く。
「それはご丁寧に……初めましてサリア様、リリー様。私はアルファルド侯爵家が令嬢マリーメイア・アルファルドです。以後お見知りおきを……」
そして静かに頭を下げると、二人の母娘は魅入られたように“マリーメイア”を見つめて……慌てて自分たちも頭を下げた。
貴族の、ましてや女性の正式な作法なんて知らないが、少なくとも現状努力を繰り返していた時期の、12歳現在の彼女であれば最低限度の礼儀さえすれば立派な貴族令嬢として映るはずなのだ。
そう、たとえ俺ごときの付け焼刃であってもだ。
そして一通り挨拶を終えたところで、もう用は終わったとばかりにアルファルド侯爵、つまりマリーメイアの実父はあからさまにこっちを見ず、二人だけを視界に納めて退室しようとし始める。
……さて、ここからだな。
「お父様、少々お聞きしたいのですが……お二人は平民出身でいらっしゃるのでしょうか?」
「……だから何だ? まさかお前は平民出身だから受け入れないとでも?」
『!?』
俺がそう言うと、愛おし気に二人を見ていた侯爵は明らかに気分を害したとばかりにこっちを睨みつけてきた。
まるでそう言うのが当然の流れとでも思っていた口振りだな。
そういう風にマリーメイアが反応した方が都合が良いとでも言えそうな……。
……おそらくそうなんだろう。
マリーメイアの暴挙から迎い入れた二人を守るヒーロー、そんな配役に落ち着きたいんだろうな……このカスは。
ヤツの視線に“マリーメイア”はビクついたようだけど、俺は逆に塵虫を見る如く冷たい視線を送り返してやる。
さっき自分で『お父様』と口にして多大な鳥肌を感じた事への意趣返しも兼ねて。
それだけで、まさか12歳の娘に睨み返されるとは思っていなかったのか侯爵は一瞬怯んだ様子を見せる。
……案外根性ねぇな。
俺は再び視線をリリー嬢へと戻して彼女の瞳をまっすぐに見据える。
「リリー様、侯爵とは、貴族とは平民の世界とは全く違う生き物が住まう世界です。こう言っては何ですが、言葉一つ、態度一つで全てが決まる事もある魑魅魍魎の世界なんですよ? 最近まで平民として生きて来られた貴女方にそんな世界へ介入する覚悟はおありなのでしょうか?」
「それは……」
「マリーメイア! お前はこれから家族になる人たちに対して何という事を言うのだ!!」
俺の言葉にリリーだけでなく一緒に控えるサリアさんも不安げな表情を浮かべる。
……カスがワキでうるせぇけど。
「正直に申し上げますと……私には分かりかねます。おっしゃっていただいたように私たち母娘は数日前まで平民として生きていましたから……」
『…………』
それは実に曖昧な答えだけど、俺には好感の持てるものだった。
ここでリリーが“大丈夫です”などと軽々しく言うようなら、さすがに世の中を舐めすぎだからな。
突然の事態、環境の変化にリリーも不安を感じている。
そんな彼女の余裕のない曖昧な答えに“マリーメイア”もリリーという名の義妹を冷静に見る余裕が生まれたようだ。
さっきとは違い黙って事態を観察しているのが分かる。
……もう一押しだ。
「ではリリー様。私マリーメイアが侯爵家にふさわしいかどうか……試させていただきます!!」
「え?」
突然の言葉に戸惑いを見せるリリーだったが、俺は構わず右拳を握りしめて一直線に拳を振りかぶり…………リリーのワキを抜けて『侯爵』へ殴り掛かった。
「くらえやああああ!!」
それは余りに突然の事態。
侯爵は“マリーメイア”がリリーたちに何かしないか警戒していたようだが、自分に対して何か仕掛けるとは思っていなかったらしい。
「な!? ひい!!」
しかし振りかぶった拳はあえなく空を切る。
まあしょせんは12歳の戦闘訓練も受けていない令嬢様だからな……この結果は予想してしかるべき……ていうか予想通りだ。
「き、貴様……マリーメイア!? 一体何をする!!」
「お、お姉さま?」
「お嬢様! 一体何を!?」
『え!? ええ!!?』
突然の令嬢の凶行に侯爵は尻もちを付いた格好で怒鳴り、周囲にいた母娘も使用人たちも、沈黙していたマリーメイアも事態について行けずオロオロしている。
そんな中で、俺は思った通りの行動に内心ほくそ笑んだ。
『オーライ……“やっぱり”かわしやがったな』
「お、お、お前は何という事をするのだ! 父に向かって暴行を働くなど……やはりお前もあの前妻の娘で…………ひ!?」
尻もちを付いたまま驚愕と怒りに任せて怒鳴っていた侯爵は俺の、実の娘(マリーメイア)の親に送る事はあり得ない、凍てついた蔑みを含んだ視線に言葉を詰まらせた。
「…………がっかりですよ“アルファルド侯爵”殿」
「は……は? お前……一体何を?」
まだ立ち上がれずに呻く侯爵を尻目に、俺は事態についていけずに目を丸くしたままのサリア、リリー母娘に向き直ってお辞儀をした。
「大変申し訳ございませんサリア夫人、リリー様。どうやらアルファルド侯爵は『私』を家族として受け入れるつもりは無いようです。このような小娘の拳すら受け入れるつもりも無いようですから……」
「え? 一体何を言って?」
戸惑いを見せるリリーたちに対して俺はハッキリという。
「アルファルド侯爵には侯爵家に入るお二人を守る覚悟、そして私如き小娘の不満程度は受け止め、受け入れる度量を見せていただけるかと期待しておりましたが……残念です」
俺の、マリーメイアの言葉に侯爵を除いたこの場にいる全員が、今の行動が何かを理解した。
それはとても12歳の令嬢の発想じゃない。
どう考えても体育会系の、職業戦士などの発想……つまり『不満はこの一撃で飲み込んでやる。二人を貴族として迎い入れるならその覚悟を示せ』って事だった。
…………という事に俺はこじつけたのだ。
ゲームの頃からムカついていた『侯爵(カス)』を殴りたいって感情もあったけどね。
しかし屁理屈、こじつけとは言えこの言葉は効果てきめんだった。
何はどうあれ、コイツは元々マリーメイアの事を前妻の娘として疎ましく思っていて、最初から娘として受け入れるつもりは無かった。
その事にゲームでは“マリーメイアから2人を守る為”という、侯爵にとって都合の良い家族関係を築かれてしまうのだが……俺はどうせ娘として認める気が無いのなら、せめて“マリーメイアにとって都合の良い方向”になって欲しかったのだ。
侯爵に大義名分無く、最も格好の悪い事態に……。
気が付くと連れてきた2人も使用人たちも……情けない物を見るような目で未だに立ち上がれない侯爵を見ていた。
「ち、違う! 侯爵としての覚悟が無いワケではない!! 突然の事に驚いただけで……」
その事態の悪さ、特に後妻のサリアさんと娘のリリーに“そう”認識されては困ると慌てて弁明しようとする侯爵だが『侯爵家の男が幼女の不満の拳すら受け止めなかった』という事実は覆る事は無い。
何より侯爵がマリーメイアの事を毛嫌いしていたのは、口にしなくても誰の目にも明らかだったのだから……。
そして遂には…………
『うわ…………恰好悪い……』
俺にだけ聞こえるマリーメイアの声で、今まで自分にとって絶対の、愛される事を望み、焦がれ続けた『お父様』に幻滅する声が聞こえた……。
うん、そうそう……その言葉、気持ちを忘れちゃいかんよ?
悪役令嬢マリーメイア…………。
*
「…………んが?」
目が覚めるとそこには“見飽きた天井”…………まぎれもなく俺の部屋だな。
けだるい体をムクリと起こすと、映ったままのテレビには昨日やりっぱなしで起動しっぱなしのゲームが画面に映っていた。
「……やっぱり夢だったか」
どうやら寝落ちしたらしいな。
画面にはオプションのキャラクター紹介が流れていて、選択されたキャラは『マリーメイア・アルファルド』だった。
どうやらこれが原因で妙な夢をみたらしいな。
しかし夢ってのは不思議な物だ。
自分がまるで幽霊にでもなったような荒唐無稽な状況、まるっきりのゲーム世界の設定など突っ込み所が満載なのに、何故か違和感なく受け入れてしまうというか……。
ちらりと画面に映る『マリーメイア』の自信過剰な立ち姿を見て苦笑してしまう。
「まあ……俺的には良い夢だったかな?」
「お兄ちゃ~ん、そろそろ起きないと朝ごはんが片付かないってお母さんが怒るよ~」
ドアの向こうから妹の声が聞こえてきて俺は慌てた。
マズイ! 我が家の食の全権を担う母の逆鱗に触れると連日の『シイタケ地獄』を巡る事態になりかねん!
俺は速攻でベットから転がり出て部屋を飛び出した。
「わ、分かった! 今すぐ行く!!」
母の怒りに触れる恐怖から部屋を慌てて飛び出した俺は、ゲームの画面に注目する事なく……キャラクター紹介の文面が変化している事には全く気が付かなかった。
マリーメイア・アルファルド
ヒロインであるリリー・アルファルドの義理の姉。
容姿端麗、成績優秀な誰からも『貴族の規範』と言われる程完璧な貴族令嬢。
リリーが誰よりも尊敬する人物であり、悩み事や分からない事などを厳しくも優しくサポートし、相談に乗ってくれる人物。
幼少の頃は親の愛に恵まれず寡黙だったが、義理の母娘と対面した日に神より『天啓』を得た彼女は実の父である侯爵の頼りなさ、無能さを思い知り若くして当主である父を隠居へと追いやると自らがアルファルド家の当主として名乗りを上げる。
王国随一の女傑として名高い彼女のファンは多く、彼女の『助けなど求めない。私が私を助けるのだ』という高潔で漢らしい言葉は男女問わずに信奉を集め、最終的にはアルファルド家を公爵位にまで上げる事になる。
アルファルド侯爵
元々は後妻と次女を贔屓してマリーメイアを体よく迫害し追い出そうと画策していたらしいが、初対面時に姑息な心情が露見、迎い入れようと思っていた二人に軽蔑され『マリーメイアからお父様と再び呼ばれるまで認めない』と宣言される。
後年の歴史書では彼が娘に『頼む、父と呼んでくれえええ!』と縋りつく場面もあったらしいが、マリーメイアが『リリーとの対面』をしたあの日以来、彼の事を『侯爵』呼び以外で呼んだという歴史的証拠は一切無い。
断罪系悪役令嬢漢道 語部マサユキ @katarigatari
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