スプリング・ガールズ~フクロウが人生好転の切り札!?~

明石竜 

第一話

「それでは初めに、一番左側の席にお座りになられているあなたから自己PRをお願いします」

「わっ、わたしは……その、真面目な性格でして…………あの……えっと……」

「……はい結構です。では次の方お願いします」


 俺は結局、今回も最後までほとんど何も答えられないまま、面接試験は終了した。


 翌日。


 拝啓、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。さて、あなたの就職で希望に関し、慎重

に選考申し上げました結果、誠に……


 分かってたよ。薄い封筒が来た時点で開ける前に既にな。また落ちたのか……。

 俺、高松健太、24歳。既卒1年目ももう終わりを迎える。大学3年の秋から就活し始め早2

年半。未だ内定1つもなし。受け続け落ち続けこれまでに受け取った不採用通知の数は聞いて

驚くなかれ、なんと296。どうでもいいことだがこの数値は俺が住んでいる町の東経度の実に倍以上だ。

「またかよ。筆記はいつも通過するのに面接だけはどうしてもダメだ。昨日の集団面接ではメン

バーの中で大学ネームバリューは俺が断トツ№1だったのに。農協だしコネがないと無理なのか?

いや、俺の面接内容にも問題が……」

 俺は嘆き悲しむ。俺は未だ筆記の次の関門、一次集団面接試験は通った試しがない。個人面

接のみの所ですらダメだった。公務員試験も一次面接で撃沈。

 俺が就活し始めた頃は空前の売り手市場と呼ばれ、同級生らはいとも容易く次々と内定が出

ていた。けれども俺の下にはどこ吹く風。こうしているうちに既卒となってしまい、ますます状

況が不利になる中、社会情勢は追い討ちをかけるかのように今や不況の嵐が吹き荒ぶ。

 俺はこの2年半、SEを初めとして実に様々な業界にチャレンジしてきた。結果、ネット上で

ブラック企業と呼ばれている会社や、契約社員、アルバイトですら全て悉く落とされどこにも雇

ってもらえなかった。俺はこんなにも無能で、役立たずで、社会からは全く必要とされなかった

のである。俺にとって内定通知とは、もはや伝説上の幻のアイテムと化していた。俺はRPGの冒険者かよ?

 俺は今、無職である。世間では無職=ニートだと即決め付けるやつも多いのでとりあえず言っ

ておくが、俺は一応就活はし続けているので所謂ニートではない。”ベテラン就職活動家”だ。

 かくして俺は、またハロワのパソコンで空しく求人サイトと睨めっこの日々が続く。


「新着求人来てるな。株式会社スプリング・トラベラーか」

 俺はそのサイトを開いた。

「あれ? 給与は? 事業内容は? 準備中っておい。大丈夫かこの会社。ほとんど情報載って

ねえ。つーか所在地すら書いてねえぞ。社名と、かろうじて求人広告だけか。社名からしてバネ

の製造工場かな?」

 この際贅沢は言ってられない。俺は藁をも掴むように応募ページからエントリーした。




 三日後。

 俺は新たにまた2つ、不採用通知を受け取っていた。また今日も求人サイトを物色、いや止め

だ。もうこんなことをしても無駄な気がする。俺は今日は家にいて、気晴らしのためかなんとな

く窓を開けて2階の部屋から外を眺めていた。すると突然目に飛び込んできたんだ。くりくりした目の

黒っぽい羽をしたずんぐりとした体型の鳥がーー。

 俺は無意識のうちに飛び降りて死に、天国に来たのか? そいつは梟だった。俺に向かって突進してきた。

「痛えな。何すんだよこの鳥」

 そいつは机の上に止まった。

「こんにちは健太君。私はスプリング・トラベラーの会長でススイロメンフクロウです。この度は当社求人広告にご応募

いただき誠にありがとうございます」

 あの会社からこんな形で返事が来たのだ。普通、電話かメールだろ?

「ふっ、梟が喋ったぞ! 会長っていうか怪鳥だろおまえ?」

「この姿ではダメですか? では」

 するとそいつは煙を上げ、一瞬でトロピカルな柄のパレオを纏った褐色肌な人間の若い

南国系の女の子の姿へと変化したのだ。

 ……ここは天国だな。なら奇妙に思う必要は無い。が、素性は明かしてやる。

「おまえ、どこから来たんだ?」

「日本の真南同経度のニューギニア島です。北に真っ直ぐ飛ぶだけですから迷わずに

来ることが出来ました」

「そこって確か東半分は英語圏だな。それで社名も英語なわけか」

 教養だけはそれなりに優れている俺は当然知っていた。

「で、御社の事業内容は?」

「応募者だけの秘密にしているのですが脱落者救済活動です。留鳥と呼ばれている私達ですが、

そんな固定概念を吹っ飛ばして私達も世界中を旅しよう。からの~、世界中の不遇な境遇の

人々をお助けしようという目標が出来、同じ志を持った仲間と共に我が社を創立しました。

毎年人々が新たな進路に向かって旅立つ、四季のある国々では春と呼ばれる季節になると、

夏しか体験したことのない我が社の女性社員で結成されたスプリング・ガールズ隊の皆さんで、

四季のある国々へと旅立ち、この時期になっても進路の決まってない人々をお助けするのです。

つまり健太君は即採用決定!」

 女の子はそう言った刹那再び梟の姿に戻り、俺はなんだかよく分からないままシンドバッドの

冒険に出てくる肉のように爪で挟まれ拉致された。

「ちなみに脱落者救済は私達創立メンバーのお仕事でして、新規採用された、健太君のように

救済された側の皆様のお仕事は……来れば分かります♪」

「もっ、もうちょい詳しく説明……うわあああっ!」

 

          ※


 あれから約十年後。

 俺はその島の原住民と共に楽しく幸せに暮らしていた。勇敢な狩人として村人から一人前と認

められ、崇められるようにもなっていた。これって就職と同じことなのかな?


 

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