第34話
「イグニスはお姉さんの話を聞いてどう思った?」
「ふむ……難解な質問だなマスター」
観光案内所を後にした僕たちは、次なる目的地に向け歩を進める。僕たちはまだ遺跡の現物を見ていないので、一般公開されている観光遺跡に行ってみようと言う訳だ。
魔道機械の交通機関に揺られて目当ての遺跡までは一直線。やっぱりこの街は色々と発展している。こんなものは他の街だと王侯貴族の乗り物だ。
陸上を走る船と言うか、馬が引いていない馬車と言うか、兎に角そんなものに揺られて、遺跡へ到着。観光遺跡と言うだけは在り、そこには多くの人が遊びに訪れていた。
「さて到着と、いやー流石は魔道機械、楽でいいねぇ」
これがもっと行きわたったら旅の概念自体が大きく変わってしまうだろう。楽だし早いしスムーズだ。
お目当ての遺跡は地下にあるらしく、地上部分には様々なテントや出店が所狭しと立ち並んでいた、通りは人でごった返し、その有様はまるでお祭りのようだった。
「って、何か様子が変だね、イグニス」
「そうなのか? マスター」
お祭り騒ぎと言うか、人の流れが何かおかしい、何かの催し物でもやっているのだろうか。
人の流れに押されるままに、入場ゲートまで流れていく。僕たちがゲートを潜ったその時だ。
「おめでとうございます!」
その言葉と共に、パンパンと言うクラッカーの鳴る音が響いて来た。
「ほえ?」と僕が間抜け面を晒していると、見目麗しい少女が花束を持って僕たちの元へとやってくる……ってこの少女は!
「おめでとうございます! 貴方たちは1万人目の観光客ですわ!」
パシャパシャと謎の光が煌めく中にしずしずと現れたのその少女は、ジュリエッタちゃんその人だった。
「えっ、あっ、って事は、ここはコーバインさんが経営してるのか」
「ええそうですわ、ここは我が家が預からせて頂いている遺跡です」
ジュリエッタちゃんは、はきはきとそう答える。まだ若いのにしっかりとした子だ、ロメオさんとは大違い。
「ふむ、貴様がジュリエッタか、ちょうどよい」
僕がどう扱おうかと迷ってる時だ、イグニスがいつもの調子で彼女に話しかける。
「貴様は、ロメオの事をどう思っているのだ?」
「えっ! なっなんですか突然!?」
流石にジュリエッタちゃんもこんな場所でその名前を聞くことになるとは思わなかったんだろう、声が上ずりアタフタと左右を見渡す。
「ちょっと! イグニス!」
「なんだマスター? ここでこの娘が了解すれば一切の不具合は無くなるのではないのか?」
いやー違うんだなーそれが、確かに障害の一つは無くなるだろうけど、もっと厄介なお家事情と言うのが残ってる。
「ロッ、ロメオ様の事ですか?」
ジュリエッタちゃんはそう言って顔を赤らめる。おや以外、
ここはもう一歩踏み込んでみるかと思った時だ、すごくいい笑顔をしたジュリエッタちゃんのお付の人がやってきて、彼女を後ろに隠してしまった。
「あのー」
「何でしょうかお客様」
その人はニコニコと鉄壁の笑顔を浮かべつつ、ジュリエッタちゃんとの壁となる。
「我々はその少女に用事があるのだ、少しはずしてもらおうか」
「いえ、お嬢様は予定が立て込んでおります。それでは」
伝えるべきことは伝えた、そう言わんばかりにその人はジュリエッタちゃんの背中を押してすたこらさっさと奥に消える。
「あっちょっと」とその後を追おうとしたら、今度はその隙間を埋めるように、屈強な男の人たちが壁をなした。今度の障壁はイグニスにも負けない仏頂面。ボディガードの皆さんだ。
「あー、花束ありがとうございました」
僕は壁の向うのジュリエッタちゃんにぺこりと挨拶。すごすごとその場を後にした。
さて、これからどうしようと思ったその時だ。パシャパシャと謎の光が僕たちを襲う。それだけではない。小ぶりな杖を僕に向けた人たちがぞろぞろとやってくる。
「なんだ? マスター。これは敵か?」
「あっあっ、返してくださいよ私のマイク!」
イグニスはその集団の先頭の人が持っていた杖をひょいと早業で抜き取った。それに慌てふためく取られた人、その様子ではどうやら僕たちに攻撃を仕掛けて来るようじゃないみたいだけど。
イグニスにお願いしてそのマイクとやらを彼女に返す、すると彼女は鼻息荒くマイクを僕に突き付けて来た。
「私はリンドバーグ日報の者です! 先ほどの発言について幾つかご質問があるのですが!」
「リンドバーグ日報ってことは記者さんですか、それじゃーこのマイクって奴は?」
「ああ、貴方は外からのお客人ですか、これは単なる集音装置なのでお気になさらず」
気にするなと言われても、喉元に短剣を突きつけられている様で、あまりいい気分じゃない。まぁいいや、それにしても記者さんか、波風立てるにはちょうどいいかな?
「ご質問も何も、僕が質問した立場なんですけどね。聞いた話ではなにやらエミリッヒ家のロメオさんとコーバイン家のジュリエッタちゃんはまんざらでも無い仲で、両家の和解も近いとか何とか」
僕は好き放題にじゃべりまくる。記者さん達はどよめきを上げパシャパシャと謎の光を僕に浴びせる。
「そっ、その情報はどこから!?」
「いやーだから風の噂ですよ、風の噂。だからその話は真実なのかなーって確認したかったんですけどね。ほら、両家が和解するとなったらこの街の更なる発展は約束された様なものですよね。これ程目出度い話は無いじゃないですか」
「確かにそれはそうですが、両家の対立はこの街の成立にまで遡るもの、並大抵の事では上手く行かないと思いますが?」
「だからこその御二人じゃないんですか? それを言ったら政略結婚みたいだけど、御二人が確かな愛を持って婚姻を結ぶとなれば神様も祝福して頂けるでしょう」
「おおー」とどよめきの声が上がる。僕のモットーは高度な柔軟性をもって臨機応変だ、作戦変更。2人の仲を結ぶのに遺跡なんて遠回りしなくても、こうやって外堀を埋めちゃうことの方が手っ取り早い。
「確かに古き因縁と言うのは強固なものです、ですが何時までも――」
「お客様、ちょっとこっちまで」
「おや?」
好き放題喋ってる僕の肩を掴む手があった。それは先程のジュリエッタちゃんのお付の人。こめかみに血管をぴくぴくと浮かべつつ満点笑顔で話しかけて来た。
「あー皆さん済みません、ご指名のようなので席をはずしますね」
こうして僕たちはコーバインの皆さんと仲良くなることに成功した。
「何なんですか! 先ほどの会見は!」
「あーいや、ただの個人的な意見ですよ?」
「ふざけないでください!」
僕たちは、遺跡の傍にあるコーバイン家の事務室に押し込められた。
ミランさんというジュリエッタちゃんの従者は顔を真っ赤にして大激怒。僕の顔に指を突きつけ親の仇の様に非難して来る。
「どうして非難されているのだ? マスター」
「正論って卑怯だよねって話だよ、イグニス」
イグニスの質問に、僕は肩をすくめてそう返す。
「ちょっと! ちゃんと私の話を聞いて下さい!」
「けど、間違った事は言って無かったですよね?」
ミランさんには申し訳ないが、ここは我儘な正論を通させてもらおう。僕は突きつけられたお姉さんの指に僕の指を合わせてそう笑った。
「なッ何を」
「間違った事は言ってなかったですよね、と言ったんです。何時までもこうして両家がいがみ合っていても何も生みはしません。初代から何年たってるのか知りませんけど、もうそろそろ和解してもいいんじゃないですかね? お二人の事は良い機会だと思いますけど」
「そっ、そんな事私に言われても……」
まぁ確かにこんな事をミランさんに言っても仕方がないだろう。言うならもっと上の人、具体的には――
「どこぞの小僧が好き放題言ってくれたようだな」
そう、ジュリエッタパパ当りが相応しい。
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