第4話「レトロゲームファクトリー始動」
■ 打ち合わせ3回目
新潮文庫nexから出た、拙作『レトロゲームファクトリー』が誕生するまでの話を書く連載、4回目です。この原稿で、少しでも興味を持って、『レトロゲームファクトリー』を購入してくれる方がいればいいなと思い、続きを書きます。
前回から、だいぶ時間も空きましたので、時系列の一覧です。
* 2016年08月27日。文藝春秋から『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』でデビュー。
* 2016年9月29日。新潮社の編集の方からアクセス。
* 2016年11月2日。新潮社の方と初打ち合わせ。★事実上の開始。
* 2016年11月3日。企画書を6本送付。
* 2016年12月19日。2回目の打ち合わせ。
* 2016年12月27日。新しいプロットを送付。←今ここ!!
* これから書く予定。
* 2018年10月27日。新潮文庫nexから『レトロゲームファクトリー』が発売。
新しいプロットを送付して、そのレスポンスが戻ってきたのが2017年の2月2日。だんだんレスポンスの間隔が空いています。大丈夫だろうかという不安が募ってきます。
そうこうする内に、次の打ち合わせが決まりました。日取りは3月7日。ただ、このままでは、すぐに半年とか1年とか経ちそうな雰囲気だったので、3月7日の前に、もう1本プロットを送付。そして打ち合わせの当日がやって来ました。
3月7日の3回目の打ち合わせは、最初にアクセスしていただいた方、担当の方、編集長の3人が参加しました。そして編集長は、かなりアウェイ感を醸し出していました。
端的に言うと「海の物とも山の物とも知れない、部下が連れてきた新人作家がいる」という感じで、「ええ、まあ、そうですよねえ」という……。単純に体調が悪かっただけかもしれませんが。皆さん激務のようなので。
編集側からの要望としては、『裏切りのプログラム』のように「知らない世界を紹介しつつ、知っている世界と同じ葛藤があるという話にして欲しい」と。また「人情系にして欲しい」とも。
前者については、まあ当然かなと。過去のよかった点が次回も売りになるでしょうから。後者については、自分ではあまり考えていなかったので、そこら辺が評価されているのかと思いました。
こちらからは「細かなネタを編集に渡しても、それが業界の人に面白いネタかは分からないので、確認せずに任せて欲しい」という要望を出しました。「どういうネタを使うのか」という確認が多かったのですが、その業界に詳しくない人には勘所が分からないだろうと。スポーツのように編集側で分かるネタではないので。それに、そこは本質ではないですし。いわばフレーバーです。
それまでの打ち合わせややり取りでは、インディーゲーム系のプロットを中心に書いていました。しかし今回の打ち合わせでは、編集長から「レトロゲームはどうか?」という提案がありました。
ああ、それはよい落とし所だ。作家の方向性と、マーケティングが、上手くクロスするラインだと納得。
そもそも私が、同人やインディーでゲームを作っているのは、レトロゲームに強い影響を受けているからです。
ただ、最初に編集長から提案があった内容は、版権的にトラブルが発生しそうなものだったので、その場で違う内容を考えて提案。最終的な『レトロゲームファクトリー』と、ほぼ同じあらすじを口頭で述べました。ラストの仕掛けまで含めて、その場で出てきました。
そうしたものが、すらすらと出てきた背景は、自転車創業の かざみみかぜ。 さんから、「EXCEED. さんが手掛けたレトロゲームの移植話」を色々と聞いていたからです。いわば自転車創業は『レトロゲームファクトリー』の母のようなものです。
また、私自身もコミケで、ファミコンのソフトを作っているサークルの本を買って読んでいたので、ファミコンの内部仕様のイメージを持っていたことも大きいです。それ以外にも、自身で小さな会社をやっていて、過去に移植話などを振られたことがあるので、そうした経験が土台になりました。
最終的なプロットは、打ち合わせの口述の企画を整理して肉付けしたものになりました。
■ プロットやりとり
3月7日に打ち合わせをしたあと、3月10日に『レトロゲームファクトリー』のプロットを送付しました。PDF11枚ほどのプロットと企画です。文字数で言うと1万字ほどです。最終的な完成原稿が15万字ぐらいなので6~7%ほどです。業界ネタ的な部分は、プロットに入れても煩雑なので省きました。
この時点では、灰江田のキャラはほぼ固まっていましたが、白野のキャラはまだ現在のものではありませんでした。
そのまますんなり進むかと思うと、そうはいきませんでした。プロットのあらすじを見た編集から、「ただのいい話になるのでは」と疑問が。
じゃあ、違う話にしますかということで、再度違う企画を送付。『レトロゲームファクトリー』の方で進めて欲しいということで、企画が戻る。
このままでは先に進まずに頓挫しそうな気がしたために、何度か長文のメールを送りました。
編集側が気にしているのはフレーバーの話であり、コアの話ではないと。小説一本掛けて伝える情感を、プロットで一言二言で言い表せば、それは単純なものしかならない。それを読書体験を通して情感を積み上げるからこそ小説になると。
また、業界あるある的な話は撒き餌でしかなく、読書体験によってしか得られないものは業界あるある的なリストをどれだけ渡しても意味はないと。
とはいえ、新人作家で実績がないので「信用して進めて欲しい」というのも難しい話だよなあと。今振り返ると、新人なのに随分と強い態度で臨んでいたなあと思います。
そして「執筆する」というのが決まったのが、最終的に4月20日でした。
この時点で、最初の打ち合わせから半年弱が経っていました……。(続く)
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