カクヨム3周年記念 KAC連作短編集
野森ちえこ
KAC連作短編
【KAC1】彼女とフクロウとぼくのじいちゃん
ぼくのじいちゃんは町いちばんの変わり者だ。そしてとんでもないお金持ちである。なにしろフクロウが好きすぎて、ついには自宅の敷地内にフクロウの博物館までつくってしまったくらいなのだ。
*‐*‐*‐*‐*
中学生の時、はじめて好きな女の子ができた。転校生の
だってぼくがフクロウじいさん(町の人たちからそう呼ばれている)の孫だって知って、彼女のほうから声をかけてくれたんだもの。
高嶺さんはほとんど毎日ぼくの家に遊びにくるようになった。……まあ、正確には『丘の上のフクロウ屋敷』だけど。町の人たちはじいちゃんの家をそう呼ぶのだ。
ただ、高嶺さんはもちろん、屋敷住まいのじいちゃんも『生きたフクロウ』を飼おうとはしなかった。むしろフクロウをペットにすること自体嫌悪していた。広かろうがせまかろうが人間の都合で家の中に閉じこめるなんてけしからん! というわけだ。中でも、鎖でつないだ上せまい場所に押しこめているフクロウカフェなんて虐待にひとしいと、ふたりともテレビなどで見るたび憤っていた。
もうひとつ、ふたりに共通していたことがある。それはフクロウの、縁起がいいとされる説にも、逆に縁起が悪いとされる説にも、まるで興味がなかったという点だ。人間のこじつけなど関係ない。フクロウはフクロウというだけで愛おしい。そんなフクロウに対する姿勢がそっくりだった。
いつしか高嶺さんはじいちゃんとばかり話すようになって、ぼくがいない時でもじいちゃんに会いにくるようになった。
じいちゃんも、フクロウにまったく興味がない孫より、他人だけどフクロウが大好きな高嶺さんのほうをかわいがるようになった。
正直おもしろくなかった。だけど、まったく心配はしていなかった。だって高嶺さんは中学生で、じいちゃんは七十になろうという老人なのだから。なにを心配することがあるだろう。
油断とはちがうと思う。世の中には痴漢とかでつかまる老人がいるということも知識としては知っていたけれど、ただただフクロウ大好きなだけのじいちゃんを、どうしてそんな人たちと結びつけて考えるだろう。
実際、そういうことではなかったし。そんなよこしまなことではなく、つまりなんというか……年齢さえ考えなければ、単純に『恋敵』となってしまっただけ――といえるかもしれない。
けど、怒りもかなしみもなかったような気がする。記憶に残っているのは驚きだけだ。
そうこうしているうちに中学を卒業し、高校、大学と進学していっても、じいちゃんと高嶺さんの交流はとだえることなく、むしろ年月をかさねるごとに親交を深めていった。
そして、高嶺さんが
まあ、じいちゃんが資産家であるだけに、それなりにゴタゴタもドロドロもあったのだけど、そこはそれ、なによりもフクロウ愛が強い高嶺さんだったから、もしものことがあったら、自分はフクロウ博物館だけいただければいい。その他の財産はすべて相続放棄すると確約して、うるさい親類たちをだまらせたのである。
そのころにはもう、ねたみもそねみもぼくの中になかった。とてもおだやかに、幸せそうに笑うふたりを、たぶんいちばん近くで見てきたから。純粋に「よかったね」と、「おめでとう」と思えた。そしてそんな自分を、ぼくはちょっとだけ誇らしく思っている。
*‐*‐*‐*‐*
ぼくのじいちゃんは町いちばんの変わり者だ。そしてとんでもない果報者である。なにしろ五十五歳も若いお嫁さんをもらって、丘の上のフクロウ屋敷でとびっきり幸せに暮らしているのだから。
(おしまい)
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