ドジっ子彼女と知恵の鳥
名取
ドジっ子彼女と知恵の鳥
僕の彼女は、人よりちょっとおっちょこちょいだ。
まあ僕としてはそんな気にするほどでもないんじゃ? と思っているのだが(かわいいし)、彼女自身は自分の落ち着きのなさをすごく気にしていて、最近では「恥ずかしいからあまり人前に出たくない……」と涙で潤む瞳で言い出すようになってしまった。これはいよいよかわいいとか言ってる場合じゃない、と事の深刻さに気付いた僕は、彼女の濃すぎるドジっ子属性を少しでも薄めるべく、サポートを始めた。友人は「周りが和むからいいじゃない?」とか言うが、そういう問題ではない。本人が悩んで辛そうにしているなら、それを助けてやるのが恋人の勤めだ。
しかし、どれも悲しくて笑うしかなくなるほどに効果がない。気を落ち着かせるために瞑想を取り入れたり、忘れ物をしないようメモやtodoリストをつけたりと真面目に習慣を変える手伝いをしたが、ダメだった。方針を変え、ツンデレ、クーデレ、デレデレなどとあえて別のキャラに染まってドジっ子属性を消すことも試してみたが、どうしても元の色が滲み出てくる。彼氏としては最後まで避けたかったが、苦肉の策でヤンデレを目指してみてと提案したところ、死にかけた。
そんなことの繰り返しで、次第に彼女は暗くなってしまい、あまり笑わなくなった。僕も無力な自分に責任と罪悪感を感じて、彼女との関係も、どこかぎこちなくなっていた。そんなときだった。自室でひとり、虚ろな顔でネットサーフィンをしていた僕の目に、とあるお店のホームページが映ったのは。
その週末、僕は彼女をデートに誘った。彼女はやはり乗り気ではなかったが、「騙されたと思って一度だけ来てほしい」と言って連れ出した。連れていった先は、フクロウカフェだった。
フクロウは「知恵の鳥」とも呼ばれている、神秘的な生き物だ。そのことは僕も知っていた。
だが、実際カフェにいるフクロウに触れてみると、羽毛はふわふわとして柔らかく、撫でられると気持ちよさそうに目を細めるなど、人懐こく愛くるしい仕草で僕たちを和ませてくれた。カフェにはいろいろな種類のフクロウがいて、丸っこくてかわいらしいものもいれば、シャープで涼しげな雰囲気のものもいた。フクロウたちを眺めながら、彼女がぽつりと呟いた。
「この子たちが羨ましい。かっこいいのに同時にかわいいなんて、ずるいよ」
すると、その言葉をまるで聞いていたかのように、枝に止まっていた一羽がスッと僕たちの方を向いた。まん丸の瞳でじぃっと真剣に見つめられ、なんだ? と思っていると、フクロウは微笑むかのように目を細め、ホー……と鳴いたかと思えばすぐそっぽを向いてしまった。あまりにも気まぐれなフクロウの行動に、僕たちは顔を見合わせて笑った。
その日以降、彼女の言動は、魔法のようにどんどん落ち着いたものとなっていった。フクロウたちとふれあったことが、アニマルセラピーのような効果を発揮し、肩の力を良い感じに抜くことができたのかもしれない。周囲には「彼女がドジをしないなんてつまらない。らしくない」などと勝手なことを言う人もいたが、僕たちは気にしなかった。周りの反応がどうあれ、彼女はまた笑うようになったし、その笑顔は前よりずっと綺麗で魅力的だ。誰だって、なりたいものになればいい。誰かが決めた設定なんて無視して、自分が好きな自分でいればいいのだ。
今でも月に1回は、二人でフクロクカフェへデートに行く。彼女の鞄には、初めてカフェに行ったときに僕がプレゼントしたフクロウのキーホルダーが、今でもきらりと光っている。
ドジっ子彼女と知恵の鳥 名取 @sweepblack3
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