夜行性の会

卯野ましろ

夜行性の会

 とある森では、夜になると「フクロウ先生のお悩み相談室」が開かれている。夜に開かれている理由は二つ。単にフクロウ先生が夜行性であるということ。そして真夜中はほとんどの動物が寝静まっている時間帯なので、相談しやすい気がする、ということだ。

 今夜も相談者がフクロウ先生の元へとやって来た。


「フクロウ先生、こんばんは」

「ネコさん、こんばんは」


 今夜の最初の相談者は、ネコだった。


「フクロウ先生、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「失礼しました」


 ネコがペコリと頭を下げ、退室した。そして間もなく、次の相談者が来た。


「ネコさん、こんばんは」

「こんばんは。お待たせしました」

「いえいえ、来たばっかりですから」

「そうですか。それでは」

「はい。気を付けて」


 ネコは次の相談者に出会い、またペコリと頭を下げた。そして去っていった。そしてネコと別れた次の相談者は、フクロウ先生の部屋に入った。


「フクロウ先生、失礼します」

「こんばんは、バクくん」


 二番目の相談者はバクだった。


「ありがとうございました。また来ます」

「はい。またどうぞ」

「さようなら」


 一礼してバクは去っていった。


「……今夜は何だか、おもしろい時間だったな……」


 バクがいなくなり、フクロウ先生は呟いた。そして、あることを考え始めた。




 翌晩、ネコとバクは昨日と同じ場所で出会った。



「あら、こんばんは」

「こんばんは。昨日も同じようなこと、ありましたね」

「そうですね。何か、おもしろいですね」


 ネコとバクは笑い合った。


「こんばんは。森の掲示板を見てくれて、ありがとう」


 笑い声が聞こえて、フクロウ先生が相談者たちの目の前に現れた。


「フクロウ先生、こんばんは」


 ネコとバクは揃って挨拶した。


「君たちに来てもらったのは、私から提案があってね」

「提案……?」

「ぼくらに関係あることですか?」

「うん。『夜行性の会』を開こうかと」

「夜行性の会……」

「わたしたちの会、ってことですよね……?」

「そうだよネコさん」


 ネコの問いに、フクロウ先生は優しそうに楽しそうに答えた。


「君たちの相談の内容には、共通のキーワードがあった。それが『夜』だった」


 昨日の相談の内容は、こういうことだった。

 ネコは「夜行性だから昼間は他の動物と比べて、ペースがのんびり過ぎてしまうことがある」。

 バクは「みんなの悪夢ばかり食べているので飽きてしまう。たまには他のものを食べたい」。

 そして、


「私自身、夜には淋しさを感じることがあった。夜は決して嫌いではない。しかし昼間の明るさや楽しさが羨ましいと思っていた……」


 実はフクロウ先生にも悩みがあったのだった。


「だから夜行性の者同士で集まり、楽しい時間を過ごそうと思ったのだが……いかがかな?」

「良いですね!」

「わたし、参加します!」


 こうして「夜行性の会」が開かれることとなった。




 初めての「夜行性の会」は美しい星空の下で開かれた。空には、お月様もいた。


「きれいな夜ですね……」

「いつもよりもキラキラしている……」

「私たちのために、こんなにも美しい夜を見せてくれている気がする」


 ネコとバク、そしてフクロウ先生は素敵な夜を過ごした。みんなが眠っているのでバカ騒ぎをすることは、さすがにない。する気も起きない。

 仲間たちは輝く夜空の下、お茶を飲み、おいしいものを摘まみながら話していた。昼間のように賑やかにはならないが、それでも楽しかった。




「フクロウ先生、楽しい機会を本当にありがとうございました」

「ぼくも悪夢とは違ったものを食べられて、とても嬉しかったです。ご馳走さまでした」


 ちなみに「夜行性の会」でお腹一杯になったバクは、この日に出てきた悪夢は保存し、また違う日に食べることにしたようだ。


「私も楽しかった。『夜行性の会』、またやろう」


 フクロウ先生は喜んだ。こんなに楽しい夜は初めてだった。




 そして、その後。


「わたし、この前『夜行性の会』のことを昼間にみんなに話したら、全員が参加したいと言っていました!」

「悪夢を食べ終わった後、目を覚ました友達が『夜行性の会』が気になるって……」


 ネコとバクの話を聞いて、フクロウ先生は「夜行性の会」を「夜の会」と改めることにした。


「翌日の昼間、森は夜よりも静かになるだろうなぁ……」


 そう呟くフクロウ先生は幸せそうだった。


「でも、そんな日があっても良いよな」


 たくさんの仲間とともに、素敵な夜を。

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