サウンド・オブ・ハイスクール!

岩井喬

第1話【プロローグ】

 万雷の拍手と共に、南山高校合唱部の発表は終了した。舞台袖で待機していた俺たち、すなわち光方高校にも、緊張が走る。

 県立南山高校。発表順が、よりにもよってこの強豪校の次だとは。俺はごくりと唾を飲みながら、我が校の部員たちへと視線を走らせた。


 そして、ほっと息をついた。彼らがいつも通りの、変人集団だったからだ。

 つい今しがたの緊張はどこへやら。もうすぐお呼びがかかるというのに、座禅を組んだり、ぴょこぴょこ跳ねたり、何を妄想しているのか、不敵な笑みを浮かべたりしている。


 そんな連中五人、俺も含めて六人は、いつも通りの、実に馬鹿らしい挙動を取っていた。


《プログラム三十九番、県立光方高等学校合唱部、指揮は大石綾子です》


 再び舞い上がる拍手。俺はステージの反対側から、顧問である大石先生が、俺たちに微笑みかけるのを見て取った。それも一瞬のこと。先生は照明の元へと歩み出た。


「おい、凛子」

「えっ? あ、はい!」


 小声で促し、ソプラノの女子生徒をステージへと送り込む。続いてアルト、トップテノール、セカンドテノール。俺は五番目、バリトンだ。きちんと最後尾のバスの先輩がついてくるのを確認して、俺は小さく深呼吸した。


 聴衆の拍手が耳朶を打ち、ステージを照らし出す照明が熱を帯びる。同時に、少しばかりの驚きを交えたどよめきが走る。


 六人。俺たちはたった六人で、この合唱コンクール県大会に臨んでいる。一人一パート、計六パート編成。誰一人、いかなる箇所でもミスは許されない。

 俺はゆっくりと視線を上げ、後方の車椅子専用席を見つめた。


 よく聞いていてくれよな、婆ちゃん。


 先生が聴衆に、深々と頭を下げる。勢いを増す拍手。そこに先ほどまでの困惑はない。よくぞこの少人数で参加したな、という、一種の称賛の空気さえ読み取れる。

 先生は振り返り、俺たちに向かって軽くウィンクをして見せた。そして指揮棒を構えテンポよく振り出す。一際真上に掲げられた指揮棒を見つめながら、俺たち六人は勢いよく息を吸い込んだ。

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