生まれた意味

ペグ

第1話

 初めから、”僕”はどうでもいい存在だった。


 だから……”僕”はなんのためらいもなく消されるんだ。




 



 ”僕”という自我はさっき生まれたばかりだ。


 といってもなぜだか知識はある。


 理由は……自分のことだけどよくわからない。まぁみんなもそうなのではないか? 意外と自分のことを知らないと思う人は多いんじゃないかと思う。


 まぁ誰かから聞いたわけでもないし……もしかしたら”僕”が勝手にそう思っているだけかもしれないけど。


 ちなみに”僕”はだれかとしゃべることはできないし……ましてや動くこともできない。


 だからこれはきっと大きな独り言だ。


 誰かとしゃべれたり、出かけたりしてみたいんだけどな。


 ”僕”はそれができないんだ。




 ”僕”の正体は……わからない。


 誰かとしゃべることもできないからこうして大きな独り言を呟くしかないし。


 それに外……というよりこの空間から出てみたいんだけど……どうやらできないみたいだ。


 だからここから見える景色はさっきから同じだ。


 眼鏡をかけた男が真剣に……”僕”を描いている?


 なんだろう? ……”僕”に五感があればわかるだろうに。


 ”僕”がどうなっているかまったくわからない。


 そもそも”僕”ってなんだ?


 なんでこんなところにいるのだろう。


 いつから”僕”はここにいるんだろう。


 なんでこうなったんだろう。


 ……わからないな。


『おーし! ノート回収するぞ!』




 静かだったこの空間に大きな声が響く。


 すると眼鏡をかけた男は慌てて”僕”を描いていたペンを離した。


 そして白い物体をこすりつけるような動きをしている。




 ……なんだかその白い物体をこすられると”僕”が消えていく気がする。


 ただの感覚だけど。


 ……やめてって言ってもきっと聞こえないんだろうな。







 こうして”僕”は急に生まれて、急に消された。


 いや、消されてる。なのかな。


 ただ”僕”の自我がなくなっているのがわかる。


 ……これじゃあなんのために”僕”はうまれたんだろ…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生まれた意味 ペグ @pa-gu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ