第7話 よーし皆! 今日はステータスチェックをするぞ!! ②
「いよいよだな、マーク」
「ああ、こんどこそ俺たちの冒険が始まるんだ」
ワイバーン騒動でできなかった冒険者登録を改めて行うためにやって来たのだ。本当はもっと早くに済ませたかったが、彼らがこの街で頼ったマークの遠縁、それが大工ギルドの人間であった。
騒動の最中に街のあちこちが破壊されたために大工ギルドは大忙しで、寝床の世話にもなっていた彼らは手伝いに駆り出されていたのだ。
ようやく解放されたのがこの日。親戚は三人の筋がよいからこのままギ大工ギルドで見習いになってはと誘ってくれた。中々の条件であったが、彼らは即座に断り冒険者ギルドへと向かった。三人はこれから伝説を打ち立てるのだ。寄り道をする余裕はないのである。
期待と高揚感を抱きながらギルドのドアを開いた三人であったが、
「あれ?」
中に入るなり、彼らは五人の屈強な男達に囲まれてしまった。
「おめえら新人だよなあ」
そう言って不敵な笑みを浮かべる男達。
「ひいいぃ」
マークの仲間達は彼らの凶悪な外観に震え上がっている。
「や、やばいよマーク。これあれだよ、ベテランが登録にきた新人を実力を図ってやるっていってボコボコにする…………新人の洗礼ってやつだよ!」
「いや、もしかしてギルドのサービスかも……負けたフリしてPTを稼がせてくれるって聞いたことがある……きっとそれだよ……きっと」
「おいおい、そういうのは引退した冒険者が小銭稼ぎにやる奴だろ。どちらにしろ大丈夫だって」
マークは知っている。この人達はワイバーンを倒したこの街のトップパーティなのだ。そんなつまらない仕事を引き受けるはずがないし、リーダーのアッシュがそんな非道をするようには思えなかったのだ。
(いや、もしかしたら俺達をサブパーティーとかに勧誘にきたのかも!? ワイバーンの時の働きぶりをみてくれてたとか!?)
そう考えてマークは胸を張ってアッシュに向かった。
「いい面構えじゃねえか。こいつは期待できるぜ」
(やった! この流れ……)
だがアッシュは両手をバシンと打ち合わせて舌なめずり。
「なあに、そう心配するんじゃねえよ。ちょいとお前達に俺等の実力をはかってほしくってなあ!」
「ひゃああ!」「やっぱりぃ!」「ええっ!」
◇◇◇◇◇
ギルドに併設された鍛錬場。普段はベテランがコンディションを整え、新人達が基礎を鍛え、先輩達の技を盗み見て己の未熟を補う糧とする。切磋琢磨の美しき汗が流れる神聖な場である。
その鍛錬場で、今は新人達の悲鳴と肉を打つ音が響いていた。
「もう許してくださーい!」
「おらどうしたぁ! そんなんじゃあゴブリンも倒せやしねえぞ!」
「もっと腰を入れろやあ!」
「ひいいぃぃ!」
新人達が泣きながら必死に拳を振るう。……アッシュ達の腹を目掛けて。
「よし、30……31、よーし、キツくてもフォームを崩すんじゃねえ」
「もう……もう限界ですぅ」
「32、限界と思ってからがスタートよ。冒険じゃあ最後にものをいうのがこれよ」
アッシュが曲げた右腕の力コブをパンと叩く。
「おい、アッシュよお。一番弱え新人冒険者のワンパンチをHPの1の基準にするってのはいい考えに思えたけどよお、こうショボいと日が暮れちまうぞ……30っと」
「たしかになあ。……31、よし、そんじゃもう何人か捕まえてきて一度に5ずつカウントしようぜ」
ヴァルドが自分の名案にポンと手を打つ。
「おう、そいつはいいぜ。……さん……あれ、今俺のHPって幾つだっけ」
「えっと……さん……さ、じゅう……じゅうさん!、あんちゃん、前のが13だったから次のが14だよ!」
「えっ、14!? 嘘だろ、俺のHP低すぎ! オラ、もっとペース上げてけやあ!」
「ひいいぃ」
「助けてええ!」
「許してくださーい!」
その時、助けを求める声に応えるように受付嬢エルザが鍛錬場の入り口に顔を出した。
「早く、こっちです!」
「あっちゃあ~、相変わらず、バカなことやってるねえ」
エルザと共に入ってきたのはリーア。
「悪いな遅くなっちまって」
さらに続けて入ってきたのはギルドマスターであった。だが意外やその顔には嬉しさを隠しきれない笑みが浮かんでいる。
むしろいかつさを強調しているでしかない笑顔で近づいてくるギルドマスターは、現役時代の戦闘服に身を包んでいた。
両の拳を打ち合わせるとガキィンと金属が重なったような音が発せられた。
「あれは……かつてギルマスをAランク足らしめた金剛術!」
それは己の肉体に魔力を通し内部から変成させる秘技。堅甲さの代名詞である
「ようバカ共。聞いたぜ、ヒットポイントってのをはかりたいんだってなあ。俺も協力するぜ。俺の腕は新人の5倍くらい太いからよ。一発でHPが5ってことでいいよなあ」
「おいおい、相変わらず計算が雑だよな。日頃から計算仕事は全部エルザちゃんに丸投げしてる脳筋が計測なんてできるのかよ」
「へっ、舐めんじゃねえよ。まずはよそ見してるコイツから――――」
ギルマスが巨体に見合わぬスピードで駆ける。
「おらどうした新人! このままじゃあ俺のHPが最下位になっちまうじゃねえか! オラ立て! もっと激しいのを俺に食らわせやが……何だ、邪魔すんな―――おガッ、あっ、しまった膝ついちまったあ!」
一人HP測定に夢中になっていたグレゴにギルマスの最強の右フックが決まッタァア! とエルザは叫んだ。
「おいおい、ロートルのワンパンで沈むなんてグレゴのHP低すぎだろ」
「まったくだな」
「うるせえアッシュ! ヴァルド! ステゴロならまだまだテメエらにも負けねえんだよ俺は!」
「やってみろやオラー!」
瞬時に距離をつめたギルマスが両腕をアッシュ、ヴァルド両名の顔面に突き出す。だが星の白銀相手に二兎を追うなどそれは悪手。メイン武器が剣と弓とはいえ、Aランクともなれば体術にも長けてるというもの。
事実アッシュとヴァルドは難なく大ぶりなストレートをかわすと、逆に息を合わせて拳をギルマスの顔面に叩き込む。
だが、その一撃はギルマスの顔面で大きな音を立てて止められた。ギルマスの金剛術は顔面をも覆えるほどに熟練していたのだ。
―――と、この瞬間的な攻防を一息に解説せしめたエルザの有能さは恐るべきものである。この時彼女は、同時に皆に巻き込まれないように手で距離をおくように促してさえいたのだ!
拳を引いて構えを取るアッシュとヴァルド。ギルマスが何らダメージを負っていないことを示すかのように舌なめずり。その3者に同時に笑みが浮かぶのは存分に力をふるえる相手と有能な解説者を得た喜びである。
「おう、皆! 今我がギルドの脳筋トップ達が大暴れしてるぞ、誰が残るか賭けようぜ!」
「おいてめえ! いまオレもこのバカ共と一緒くたにしだろ!」
「ヴァルドー! よそ見してんならお前からいくぜ!」
「あんちゃんのかたきー!」
マークがあっけにとられる眼前で屈強な男達六人の殴り合いが始まった。
「なに……これ?」
彼らの前にすっとしゃがみこんだのはリーア。
「はーい、君たち大丈夫だった? ポーションかけるよー。はい手を出してー」
惜しげなく振りかけられる
「ああ、ありがとうございまーす」「ふあああっ」「女神様やあ」
彼らの回復を確認するとリーアは観客席へいそいそと移動。
「あっ、私アッシュに1000マトル張るよー!」
「やっちまえギルマスー!」
「狼人の意地見せたれやー!」
「意外やヴァルドさんがドワーフ兄弟に苦戦していますね。優位性と思われる高身長ですが、一度懐に入られるとそう単純にはいかないようです。ではここで自分より大きな相手との戦いに定評のあるハーフリングの冒険者に見解を聞いてみましょう――――」
「ええ、私が見るところ、彼ら兄弟はリーチの短さを自覚しているのが大きい――――」
やがて。勝敗が確定。
「うおー! アッシュさんがカウンター決めたー!」
アッシュが折り重なった男たちの頂点に立ち、ガッツポーズを取る。皆の歓声、それを受けながらアッシュの膝が崩れて五人のしかばねの上に大の字に横たわる。
「やっぱアッシュさんかあ」
「本命勝利なら胴元の一番儲けでしょ、酒場で打ち上げだね」
「ええっ、リーアちゃん、そりゃないっすよ」
観客たちは高ぶった心をさらにぶつけるべく、赤い大渦亭へ移動を始める。
「じゃあ皆さん、ちゃんとここ片付けといてくださいね」
アフターフォローもこなす有能職員エルザが掃除道具をひとまとめにセット。
「君たちも行くよー、好きなの頼んでいいからね」
リーアにそう誘われたが、マーク達はまだあっけにとられたままで動くことができなかった。
目の前で繰り広げられた大バトル。そして何よりもその後のあまりに平常運転な周囲の者たち。こんな騒ぎはよくあることだというように。
マーク達は顔を見合わせてつぶやくのだった。
「俺達、冒険者になれるかな……」
※君達に最新ステータスを公開しよう!
グレゴ HP 18(13+5) MP 0 MND 10
ヴァルド HP 85(35+5×10) MP 600 MND 8
アッシュ HP 鑑定拒否 MP 2158 MND 1
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