第2話 よーし皆! 今日は二回目の更新をするぞ!!

※本日二回目の更新です。これが高PTの秘訣。


 冒険者ギルドの受付部屋。昼過ぎともなると、早くもその日の依頼クエストをこなした冒険者が帰還し始める。受付で成果たるモンスターの巨大な牙を自慢げに披露するベテラン。採取した薬草の査定額に嘆く中堅グループ。


 壁際のテーブル席を、金がかからずにいすわれる喫茶場として利用するロートルが、そんな彼らをからかって遊ぶ。


 そこへ「バン」と乱暴に開かれたドアの音が皆の注目を集める。「アッシュさん?」


「チクショウ! やけ酒だ! おい皆! 仕事が片付いた奴は付き合え、奢りだ!」


 そう叫ぶや併設された食事処兼酒場である『赤い大渦亭』に突入するアッシュ。

「やったぜ!」「助かります!」「タダ酒だああ!」

 ベテランからその日暮らしのロートル、稼ぎの悪い中堅達まで。揃って皆がアッシュの後に続いて、たちまち受付部屋が閑散とする。


 遅れて入ってきたリーアとヴァルドにギルドの受付嬢が尋ねる。

「アッシュさんどうしたんですか?」

「いや、ついに自分の叙事詩のピント外れとスタイルの古さを指摘されてな」

「ああ……」

 ははっと苦笑する受付嬢。


「これで叙事詩を私達かプロの吟遊詩人にまかせてくれるようになればいいんだけどねえ」

「ほんとですよ。もういいかげんAランクになってもらわないと、何も知らないDランクのパーティーに説明するの大変なんですからね」

「ごめんねえ、アッシュのこだわりだからさ」


 冒険者ギルドでは依頼をその難度によりAからFの6段階に区分している。その等級は冒険者にも適用され、ギルドがその実力を日頃の依頼達成率等を基準にやはり6段階で認定している。Dランクと認定された冒険者はC以上の依頼を受けることはできないのである。


 それは冒険者パーティーにも適用され、基本的にはリーダーのランクがそのままパーティー全体のランクとみなされる。


 冒険者殺しとあだ名されるA級モンスター、青銅牛カルコタウルスをも仕留めるアッシュとそのパーティー『星の白銀シルバー・スター』であれば文句なしにAランク認定であろう。

 だがこの世界ではPTという判断基準がある。

 

「普通青銅牛カルコタウルスを狩って20PTになります? 『依頼受けて指定ポイントに行きました。そこに居たから戦って勝ちました。強かったけど俺の敵じゃないです』だけで終わっても1000PTは超えますよね!?」

「だけで終わらないからなんだよねえ~」


 プレイヤーズ・テキスト、すなわち神へ捧げる叙事詩においては現実と大きく異なる口上は、神への背信でありPTの低下という結果として現れる。


 そのルールはギルドの実力判定として利用される。

 すなわち、Cランクに昇格するには依頼の達成率以外に一回の冒険の神への報告結果であるPTが999以上必要なのである。


 依頼達成という成果が正しく自身の実力であれば、PTも相応の高さであるはずなのである。


 もしも金で功績を買ったり、他者の獲物を奪ったりなどの不正があれば、叙事詩で謳い上げる成果に対してのPTの低さでそれが判明する。


「まさか力はあるのに叙事詩がクドくて、長くて、堅苦しくて気取った言葉ばかり使って、無駄に長くて、何言いたいのか分かんなくてPTが低いせいでDランクから上がれない人がいるなんて想定してないですよ、こっちは!


 青銅牛カルコタウルスの出現地に昔栄えてた都市に思いを馳せるとか、その情報いりますかってんですよ!


 そりゃ叙事詩に興味のない、下手な冒険者はいくらでもいますけど、そういう人は素直に吟遊詩人に任せますもんねえ!?


 もうこっちは特例でPT無視して昇格させて下さいって言ってるのに、不正は嫌だ実力で取るとかかたくなに……」


「すまん……」

 ヴァルドは横目で壁を見る。

 依頼書が貼られた掲示板が7

 

 この街にAランクの認定を受けるパーティーは少ない。高難度の依頼が山積みである現状からすれば、実質Aランク相当の『星の白銀』を指定ランク以下だからと遊ばせる余裕はないのである。


 そこで本来のDランク向けの掲示板の横にもう一枚Dランク向けが用意された。そこに貼られるのはA・Bランク向けの依頼書と同じもの、もしくは実質アッシュへの指定依頼書である。


「もう他の街から来た冒険者や、調子こいた若手がDってあるんだから受注させろってしょっちゅうトラブルになるのに……くうっ」


「あっ……はははっ……えっとじゃあ私達も酒場に行くから、ギルドの皆も仕事終わったら合流してねえ」

 ギルドの看板受付嬢がその美しい顔にシワを寄せるのを見て、リーアとヴァルドの二人も慌てて退散するのであった。


     ◇◇◇◇◇


 二人が酒場に合流すると、すでにアッシュは酒をあおり始めている。そんな彼を三人組のドワーフが囲んでいた。

 

「おうアッシュ! 聞いたぜ、奢りたあ嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。この街一番の酒飲みと名高い『屈強なスリー・ドワーフワイリー・三兄弟ドワーヴス』の俺たちに酒を振る舞おうなんざ、お前の太っ腹には恐れ入るぜ」

「んあぁ? なんだ、お前ら。遠征から帰ってたのかよ」


 彼らはこの街に数少ないAランク冒険者パーティー『屈強なドワーフ三兄弟』である。わずか三人の、それも全員が斧をメインに扱うパワーファイターという、役割分担など考えない偏ったメンバー構成。だが実の兄弟である彼らはその絆の固さと、ドワーフの中のドワーフとあだ名される全身にまとう筋肉の力のみでトップパーティーに上り詰めた強者である。


「はいはい、もうウワバミ大酒飲みドワーフなんてお呼びじゃないよ。あっちいって、あっち、ほら」

「なんでえエルフの娘っ子が。うっすいワインをありがたがってるような娘っ子こそ、引っ込んでな。おう、ヴァルド。こないだの飲み比べの続きというこぜ」

 一番ヒゲを伸ばした長兄グレゴがさっそく女将に酒を注文。


「へへっ、あんちゃんは底なしだぜ。アッシュ、後で勘定のときに泣くんじゃねえぞ」

「キー! 女将さん! こいつらの分は水混ぜとけばいいからね!」


     ◇◇◇◇◇


 噂を聞きつけて合流する者もいて、アッシュの宣言から20分もすれば、酒場内は満席に近い賑わいとなる。


「よっしゃあ! このグレゴ、景気づけに一発歌わせてもらうぜ!」

「うわー!」

「待ってましたあ!」


 椅子に立ち上がったドワーフのグレゴが、酒場内にこぶしのきいた力強い声を響かせる。


「斧を一振り~、いとしいあの娘が振り返る~」

「あっそれ!」

「斧を二振り~、不埒なトロール、真っ二つ~」

「よいっと!」

「斧を三振り~、酒場でエールが今日もうまい~」

「はいよ!」


 たちまち沸き立つ店内。

「斧を……えっと、今何振りだったか? まあいいや、とにかく斧は最高ってこったあ!」

 実際に背中に背負っていた斧を外して高く掲げると、すでに赤ら顔も混じりだした周囲の面々から拍手と歓声がわく。


 その光景をいじけたように見つめるアッシュ。

「ほら、アッシュ。元気出して。そうだ、あそこの皆がアッシュのうたうの聞きたいっていってるよ」

 リーアに指さされたグループがぎょっと目を見開く。


「ちょ、リーアちゃん。せめて料理が来るまで待って……」

「いいから早くこっち来て。そんなバカスカ飲むんならちゃんとノルマ果たしてよね」


「そ、そうか。…………そうだな。俺自身に詩の才能がなかったとしても、この身に焼き付けた詩聖達の詩の素晴らしさまで損なわれたわけじゃねえもんな。よーし、ここは王道にして原点オリジン、『英雄叙事詩イロハス』の中から、俺の十八番の第5巻、『ワイバーンとの戦い』まずは序章プロローグその1からじっくりいくぜ!」


「序章なのにその1ですかあ!?」

「俺知ってるよ、これ何時間もかかるやつだ。前にアッシュさんに毒蜥蜴ポイズンリザードの大群から助けてもらって看病されてる時に気力が湧いてくるからって、一晩中聞かされて……ああああぁ……」


「まずはその1はな、山深いワイバーンの生息地から始まるんだが、それをあえて虫の視点で描写するのよ。匂い立つように生い茂る草木の間をぬうように飛んでって、山の景色を情景豊かに描きだすんだ。これがその1の魅力よ」

「その1……」


「そんでその2では突然、その虫がカエルに食べられるんだ。と思ったらそのカエルもヘビに丸呑みされて、ってどんどんデカイ生きもんに視点が移ってってな、最期に岩熊バサルトベアが出てくるわけよ。咆哮をあげて辺りを震え上がらせて山の主と呼ばれる所を示してラスト」

「ワイバーンまだですかね」


「そしてその3で満を持してワイバーンが登場するんだ。あれほど強者として描いた岩熊、そいつを一口に平らげて真の山の主が誰かを知らしめるっていう構成よ。シビレルぜ」

「その3でようやく出てきたよ……」


「ちなみに前に青銅牛カルコタウルス倒した時の俺の叙事詩にも、この視点切り替えのテクニックを盛り込んだんだが、それはこのイロハス5巻へのオマージュだったわけだ。さて、そういった構成の巧みさにも注目して聞いてくれ。では詠おう――――」


「そ、そうだ! アッシュさんはワイバーンを倒したことはあるんですか?」

「いや、ねえな」

「じゃあ、じゃあ。俺たちとしてはそのイロハ……ニ? も興味あるんですが、冒険者としてはアッシュさんならどうやって倒すかとか、そういうまだタメになりそうな話の方が聞きたいなあって」


「なに、その辺は本編第13話を聞けばバッチリよ。よし、いくぜ!」

 

「うわああ」

「待ってええええ」


「それは、深い霧が辺りに立ち込――――んっ?」


 その時、バンと酒場のドアが乱暴に開かれた。

 息せき切って飛び込んできたのはギルドの受付嬢。

 酒場中の視線が集まる中、彼女は叫んだ。 


「アッシュさん大変です! 街にワイバーンが襲ってきました!」



※個人ではヴァルドがAランク、リーアがBランク認定を受けています。


※作中で初級~上級、アルファベット順、一級~三級と様々な等級が入り混じってますが、そこは各組織が別個に定めたためであるということでご納得下さい。

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