第27話 雨の中の輝き

時は少し遡り、丁度アリッサ達が教会を改修工事を始めた頃である。




アリッサと別れ、オーディアスを後にした新垣達は冒険者ギルドで商人の護衛依頼を受けて現在馬車に揺られていた。


馬車旅に慣れていない高校生達は段差で揺れる馬車に据わり悪さを感じており、いかに自分たちが恵まれた環境にいたことを否応にも実感させられていた。






「ところでさ、アリッサさんの手紙はもう読んだ?」






黙っていると余計に尻の痛みを気にしてしまう新垣は、武人と麗奈に話しかけた。ちなみにリーシアはアリッサと別れた悲しみを引きずっており、ここ最近はずっと黙ったままである。


ジェニファはまぁそもそもそんなにお喋りな方ではないので、ただ目を伏せじっとしているだけだ。






「アリッサさんからの手紙だからな。当然、昨日のうちに目を通した」




「あたしも読んだ。大樹は?」




「僕も読んだよ。アリッサさんがこの世界に来て調べたことが書いてあった」




「ああ、俺も似たような感じだ。俺の場合は主に強くなるためについてだったが」




「あたしも武人と同じよ。ジョブの派生について書いてあった」




「ああ……僕は分からんって書いてあったよ。アリッサさんでも僕のジョブは分からないものらしい」




「流石勇者様ってところね」




「馬鹿にしているでしょ」






どこか皮肉めいたことを言う麗奈を少し半目で睨むが、彼女はどこ吹く風のように顔をそらす。






「強くなる……かぁ……とりあえず次の町に行くために商人の護衛依頼を受けたけど、本当に襲われるのかな」




「こういう商人の積み荷を狙うのってもっぱら盗賊とか人間よね……」






麗奈の何気ない言葉に2人は顔を伏せてしまうが、すぐに武人が顔を上げる。






「だが、やらねばならない。ここは日本じゃない」




「そ、そうだよね。僕らは帰らなくちゃならないんだ」




「ああ、悩むのは後にしよう。死んでしまっては元も子もない」




「人の死にいつか慣れる日も来るのかな」




「慣れない方がいいわよ、貴方たちは」






今まで外の景色を見て無言だったリーシアが顔を向けずに言葉を発する。






「慣れてしまったら、きっと元の世界に戻った時に苦労する羽目になるわよ」






リーシアはそれだけ言うと再び黙り込んでしまう。






「そ、そうだよね……僕たちが置かれているこの状況がおかしいんだ。これを当たり前のように思ったらダメなんだ」




「そうだな。だから、人を殺めぬよう強くなろうではないか」




「ええ、手加減できるくらいあたしたちが強くなればいいんだけの話だもんね」




「わたくしも皆様のお力になれるよう微力ながら尽くさせてもらいます」






と、最後にあまり言葉を発さないジェニファが〆て馬車は次の町を目指すのであった―――――が、






『ゴアアアアアア!!!!!』




「なに!?」






空気を劈くような凄まじい雄たけびが新垣達一行を襲う。






「ぼ、冒険者さん!!外に出てくだせえ!!!」




「行くわよ!!みんな!!」






戸惑う新垣達高校生を我に返す力強いリーシアの声に3人は遅れながらも武器を手に馬車を飛び出す。


馬車を飛び出した新垣達の目に映るのは怯えて歩けなくなってしまった馬や戦う心得を持たぬ商人たちや実戦経験もろくに知らないような新米冒険者たち。




だが、それを情けないと3人は思わなかった。なぜなら今の雄たけびは明らかにこちらを怯えさせる意思をはっきりと感じさせる恐怖の意を感じたのだから。






「だ、ダメだ!馬が怯えてしまってる!!こんなことは初めてだ!!」




「聞いたこともない声だ……俺も少しながら恐怖を感じている」




「ああ、こいつはやべえかもしれねえな」




「最悪撤退を視野に入れた方がいいかもしれない。依頼人、今の雄たけびを発したモンスターは俺たちの手に負えない奴かもしれん。大事なものだけ持っていつでも逃げられる準備をしておけ」




「わ、分かった……くそ、なんてついてないんだ……!」




「命あっての物種だぞ」




「それくらいわかってるさ!!」






ベテランの冒険者と思われる男たちも自身の状況を細かく把握しており、額にはじっとりとした汗が滲んでいる。






「り、リーシアさん……」




「ええ、流石にあんな雄たけびを聞かせれたらね、否応にも体に力が入るわ」




「リーシア様、如何しますか?」




「まずモンスターの正体を見極めるわ。まぁ碌な奴じゃないのは確定しているけど、ここから王都はまだ近い。少しでも情報を持ち帰って迎撃準備に移るわ」




「ね、ねえ!見て!!空が!!」






リーシアが新垣達に作戦を話していると、空を見ていた麗奈が声を上げて指さす。それにつられて皆が空を見上げると雲一つない青空が徐々に曇っていくではないか。






「天候操作!?これは本格的にやばい奴かもしれないわ!!ちょっと!!依頼は失敗でいいから撤退するわよ!!王都までダッシュ!!」






リーシアは目を見開き、事前に決めていたベテラン冒険者であるリーダーに進言する。






「そうだな!!天候操作ができるモンスターはそう多くない。それにあのどす黒い雲を発生させるとならばユピテルクライかそれと同等のモンスターである可能性が高い!全部隊!!王都まで全力で撤退せよ!!」






他の部隊に属す数少ない回復魔法が使える冒険者は、怯えて動けない馬に何やら魔法を唱えると馬の震えが止まり、次々とそれに人が駆け込むと馬車は来た道を引き返して走り出す。






「な、なにをしたんですか!?」




「ライオンハートよ!一時的に恐怖耐性をつける魔法!冒険者の中じゃ必須クラスの魔法なの!」






リーシアも槍を構えると動けない馬に次々とライオンハートを唱え、冒険者や商人たちを乗せた馬車は走り去っていく。無論速度に影響が出る積み荷は全て下ろし、馬車は空っぽの状況であり馬が出せる全速力でここから離脱していく。






「この馬で最後です!」




「あたし達は最後でいい!!貴方たちも逃げなさい!!」




「しかし!私はリーダーだ!」




「大丈夫!!この部隊の中で一番生存率が高いのはあたし達だから!」






そこでベテランの冒険者は彼女が何者で、その後ろにいる大盾を構えた少年を見ることですべてを理解した。






「そうか、君たちは……――――分かった!!殿は任せた!!君たちの無事を祈っている!!また王都で会おう!!」




「ええ!さあ!行って!!」






最後の馬車を見送ったリーシア達は走り出した。すでに空はどす黒く、酷い雨が降り注いでいる。






「もう!!一体何なのよ!!」




「とにかく逃げるわよ!!あたし達が逃げるまで一切襲ってこなかったことを鑑みるに敵は狙いを絞っている!」






そう、先ほどからリーシア達をじっとりと睨みつけるような視線が追ってきているのだ。






「と、とりあえず王都まで逃げればいいんですよね!?」




「ええ!流石に敵も人類最強のオーディアスまで追ってこないでしょう!」






しかし、リーシア達の願いはあっさりと砕かれた。






『逃がさぬよ』






ドン!!と新垣達の進路を塞ぐように巨大な落雷が落ちてきた。余りの眩しさに全員が顔に手をやり、光が収まるとそこには体中から稲妻を迸る巨大なドラゴンがいた。






「サンダードラゴン……!!!!」




「え!?ドラゴン!?」






サンダードラゴンはリーシアの呼びかけには応じず、その代わり巨大な腕を無造作に振るってきた。






「ッ!!!!」






呆気に取られるなか、新垣の身体は自然と前へ動き、巨大な拳を受け止めた。






『ほう?』




「う、腕がッ!!!」




「あッ!?新垣君!!」






リーシアははっと我に返り敵の拳を受け止めている新垣に回復魔法をかける。






「ああああ!!!」




「このッ!!」






そして次々と我に返り、麗奈はボウガンに矢をセットしてサンダードラゴンの目を狙い、その隙に武人が自分を鼓舞しながら拳を構えて突進する。






「武人!?―――待ちなさい!!ちッ!ジェニファお願い!!」




「お任せを!!」






ドラゴン相手に情報もないまま突っ込むのは危険だと察したリーシアは、突っ込んでいった武人を援護するため盾を持つジェニファをつける。






「麗奈!!一度態勢を整えるわ!!隙を作って!!」




「わ、分かった!!」






矢を避けると同時に新垣の盾から拳が離れ、サンダードラゴンは自身へと攻撃を仕掛けてくる武人を迎撃するため、両腕を顔の位置まで持ち上げ、まるでボクサーのような構えを取る。






「なにッ?そう来るのであれば!!」




「守りはお任せを!」




「感謝する!」




『一発殴られてやろう』




「舐めた真似を!!」






武人はサンダードラゴンへ肉薄すると高く跳躍し、硬い鱗に覆われたサンダードラゴンの顔を自身が持てる最大の威力を以て殴りつけた。






「ヘカトンスマッシュ!!!」






目にも止まらぬ8連撃を繰り出したかと思うと、武人の右拳に青白い光が集まり、光が一転に集まると雄たけびを上げながら拳を抜き放った。






山が震えるような轟音が辺りに響き、サンダードラゴンは僅かに後退するが、顔を数回振ると何事もなかったかのようにけろっとした表情で立っていた。






『くくく、なかなか良い拳を持っている』




「武人!!ジェニファ!!下がりなさい!!」






2人はリーシアの言葉に即座に反応し、後方へ一気に下がる。






「麗奈!!」




「食らっとけ!!バニラさん直伝の爆弾だ!!!」






ボウガンにセットした小さな茶袋は迷うことなくサンダードラゴンに飛んでいき、サンダードラゴンは避ける素振りを見せずに爆弾を受けた。


直撃した爆弾は凄まじい爆発を巻き起こすと同時に煙を発生させ、リーシアは踵を返して走り出す。


それを見たジェニファ、新垣の順で4人は走り出して戦うことよりも撤退を選ぶ。






「皆、大丈夫!?」




「今のところは大丈夫です!先ほど盾で受けた腕が痺れていますが、動きに問題はないです」




「俺も問題はないです」




「あたしも大丈夫!」




「わたくしも問題はありません。ですが、これからどうしましょうか」






リーシア達は豪雨で全く先が見えない森の中を走っていた。それと同時に皆は感じている。そう、自分らは遊ばれていると。






「一体なんだってサンダードラゴンが襲ってくるんだ?俺たちが何かしたのか?」




「したのならあたし達じゃなくてむしろアリッサの方よ!」




「言えてる。でも、ほんとにどうしましょうか―――ってなんか冷静な自分が怖いわ」




「とりあえずこのまま走りましょう。こんな異常事態、王都のオズマンが動かないわけがないわ」




「ええ、救援を待ちましょう。勝つならともかく新垣さんの盾でドラゴンの攻撃が防げたのです。耐えるだけならなんとかなるでしょう」




「あたしらこの世界に来てまじで碌な目に合ってないわ」




「はは、そうだね」






アドレナリンが出て恐怖を半ば無理やり押さえつけている高校生組は逸れないように必死にリーシアとジェニファについていった。












それから30分後。王都に早馬でたどり着いた一人の冒険者が泣きながら門の兵士に詰め寄っていた。






「街の外でよく分かんねえモンスターが出たんだ!!!天候操作するモンスターだ!!至急王都の騎士に援軍を!!」




「何やらのっぴきならない状況のようだが……我々は今アルベルト家で起きた事件の後始末に追われているのだ」




「そんなこと言っている場合じゃねえんだって!!!!そのアルベルト家のリーシア様がやべえモンスター相手に殿を務めてくれたんだ!!!だから早く援軍を寄越せって言ってんだよ!!!てめえ一人の意見でリーシア様が死ぬようなことがあったらどう責任を取るつもりだ!?てめえ一人の命で償えると思うなよ!!!」






ベテランの冒険者は鎧の兵士を己のステータスだけで怒りに任せて持ち上げる。






「わ、分かった!!!分かったから落ち着くんだ!!!お、おい!こいつを連れて城へ行け!」






余りの気迫に気圧された兵士はすぐさま部下に指示を出し、部下は慌てて冒険者を連れて部屋を出ていった。






そして男は初めて王城に足を踏み入れる感動もないまま走りたい気持ちを抑え、玉座の間にとんとん拍子に通される。






「我が国が誇る冒険者が一体何用か」




「は、は!街の外に天候操作するモンスターの出現を確認しました!天候は雷雨!恐らくユピテルクライに相当するモンスターかと!!至急援軍を!!」




「ほう……オズマン、先ほど確認された魔力の検知はこれか?」




「間違いないかと」




「おい、誰が残っているのだ?あの雲はこちらに来ていないようだが」




「り、リーシア・アルベット様とそのご一行がそのモンスターの足止めを買いました!!ですから、何卒ご助力を!!」




「リーシアが!?お父様!!!」






リーシアと名を聞いてラクーシャは己の父に顔を向ける。しかし、父はにやりと笑うだけである。






「リーシアか……面白い」




「面白い!?何が面白いのですか!!」




「ラクーシャには愉快な話ではないが、あのリーシアと盾の勇者がこの状況をどう切り抜けるのか気になってしまってな」




「なッ!?見損ないましたよお父様!!」






ラクーシャはあまりの父の言葉に一瞬で頭が沸騰し、小走りで玉座の間を後にする。






「よろしいのですか?」




「ああ、ラクーシャの好きにさせよ」






呆気に取られている冒険者に再びバジェスト王が目を向ける。






「ああ、報告ご苦労であった。よい、下がるがいい」




「あ、ああ……え、援軍は…」




「いらぬ」




「え?」




「必要ないと言ったのだ。二度も言わせるな、下がれ」






鬱陶しそうに言い放ったバジェスト王の言葉にベテラン冒険者は開いた口が塞がらないまま半ば強引に兵士に連れられて玉座の間を後にした。








「全くお父様ったら!!」




「どこに向かわれるのですか?」






ぷんぷんと可愛らしく怒るラクーシャに問いかけるのは護衛騎士オリヴィア。






「ユーデンスお兄様の研究所よ!」




「……ま、まさか!?」




「そのまさかよ!!」




「な、なりません!!いくらリーシアのためとは言えあの鳥を放つのは!!!」




「クーちゃんは私の言うこと聞くもの!!」




「し、しかし!」




「うるさい!!リーシアの命に比べれば!!」




「ああもう……どうなっても知りませんよ……」






怒りで回りが見えなくなってしまっているラクーシャに説得を諦めたオリヴィアはそのあとをため息をつきながらついていくのであった。








「ユーデンスお兄様!!!」




「おや、ラクーシャじゃないか。どうしたんだい?」






相も変わらず自身の研究所で何やら怪しげな実験をしている兄に物怖じせずラクーシャは話しかける。






「クーちゃんを出す!!」




「…………オリヴィア」




「ユーデンス様、実は―――――」






開口一番とんでもないことを口走った妹に兄は頭を抱えながら護衛騎士に何が起きたのか問う。






「なるほどね、こちらでも強大な魔力を感知していたが、まさか発生源にリーシアがいるとはね。しかし、あの女もつくづくついていない。この前の家の事といいあいつは呪われているんじゃないかね」




「ユーデンスお兄様とは言えリーシアの悪口は許しません!!」




「ああ、そしてリーシアの事となると全く回りが見えなくなる我が妹……――――しかし、良いのかね?お父様には止められなかったのかい?」




「オズマン様が止めに来ないことを見るに黙認されているかと」




「一つ間違えばオーディアスが消し飛ぶかもしれないというのにお父上もオズマンも楽観的過ぎる」




「兄さま!!」




「ああ、分かったよ。分かったとも」






のらりくらりと話を引き延ばそうとしている兄の言動を目ざとく見抜いたラクーシャはぷりぷりと怒る。




そしてそんな妹に時間稼ぎは無駄だと悟ったユーデンスは、何重にも鍵が施された小さな箱を手に取り、隠し持っていた鍵を手に一つ、また一つと鍵を解除していく。




そして中から出てきたのはユピテルクライを模した黄金の色の鍵。






「ほら、ラクーシャ。なくしてはいけないよ」




「ありがとうございます、ユーデンスお兄様」






鍵を受け取るなりせわしなく部屋を出ていく妹にため息をつく。






「どうしたのですか?ユーデンス様」




「いやなに、僕も父上も皆ラクーシャに甘いなと実感させられたよ」




「は、はぁ…」






助手となった高校生2人に伝わらない言葉で返すユーデンスは自身の研究に戻るのであった。










ラクーシャは立ち入り禁止の通路の中へ入り、ある1体の鳥のためだけに作られた巨大な建物に足を踏み入れる。






「………オリヴィアは待ってて」




「お気をつけて」




「ええ」






建物の中からは物音ひとつとして聞こえない。まるでここだけ空間の流れが止まってしまったかのように感じられる。


ラクーシャはオリヴィアを入り口に待機させ、ユピテルクライがいる建物の鍵を開ける。






「クーちゃん!!」






内部はジャングルを思わせる樹木が立ち並ぶ作りになっており、そのジャングルの中央には樹齢何千年と思わせる巨大な木が聳え立ってラクーシャを見下ろしている。


だが、巨大な樹木だけがラクーシャを見ているわけではなかった。






「………」






全長7mあろう巨大な鳥。黒と黄色で彩られた身体は稲妻を思わせるが如く刺々しく、静かに立ちずさむ姿は嵐の前の静けさのようだ。


そう、彼こそがラクーシャの言うことしか聞かず、すべての種族の鳥類が跪く雷神の申し子ユピテルクライなのである。






「クーちゃん!!お願い!!私の!私の大切な友達を助けて!!!」






ラクーシャの必死な言葉を受けたユピテルクライことクーちゃんは静かに彼女の瞳をしばらく見つめたかと思うと、突如巨大な翼を広げる。




それと同時に彼を閉じ込めておく天窓が開かれ、彼の上には青空が広がる。






「お兄様………行って!!クーちゃん!!!」




「キュオオオオオ!!!」






高らかに雄たけびを上げたクーちゃんは稲妻を纏いながら飛翔した。稲妻と化したクーちゃんは落雷が落ちたかのような轟音と共に黒雲が広がる方角へめがけて飛んで行った。












クーちゃんが救援に向かう10分ほど前のこと、リーシア達は生死を決める追いかけっこをさせられていた。






『くはは!!逃げろ逃げろ!!』




「ほんとになんなのよー!!!」




「くそったれが!!リーシアさん!アストラステークを抜いちゃダメ!?」




「ダメよ!!それは本当の本当の切り札なんだから!私が言うまでは抜かないで!」




「で、でもこのままじゃ!!」




「大丈夫!!!まだ僕の盾は壊れちゃいない!!」






不安になる麗奈の言葉をかき消すように新垣は、サンダードラゴンから繰り出される攻撃を紙一重で読み切って防いでいる。


が、リーシアとジェニファには分かっていた。その攻撃が新垣に反応できるギリギリのラインで繰り出されていることを。






「ちょっとあんた!!何が目的であたしらを追いかけんだよ!!いい加減うぜえって!!」




『貴様らを試している』




「は?」




『少しだけ話してやろう。どうせ数分後には死ぬ運命なのだ』






足を止めたサンダードラゴンは腕を組みながら口を開いた。






『我らが同胞……いや、今や同胞とも思いたくないが、軟弱なウィンドドラゴンが人間どもと手を取り合うと聞いてな。ここ数百年、我らドラゴン族は意図的に外界と関りを持とうとしなかった。それはなぜかわかるか?』




『………』




『まぁ、分かるわけあるまい。それは貴様ら人間が軟弱であるからだ。なぜ我ら誇り高きドラゴン族が人間などという下等生物と対等の関係であらねばならぬのだ。そこで我らがサンダードラゴンの長がここ数百年で人間族は驚異的な力を身に着けたのではないか?と推測された』






そこでサンダードラゴンは豪快に笑った。






『だが、蓋を開けて見ればこれだ!!人間は何一つ変わってなどいない!!我らドラゴン族が最強だという事実に変わりはないのだ!!軟弱なウィンドドラゴンめ!!我らドラゴン族に泥を塗るような真似をしおって!!今度会ったら皆殺しだ!!!あんな種族ドラゴン族から消してくれようぞ!!!』






激しく怒り狂うサンダードラゴンはリーシアを指さした。






『そこの女、特に貴様が気に入らぬ』




「私?」




『ああ、貴様だ。何故貴様がウィンドドラゴンの素材を加工した武器を持っている?』




「それは優秀な鍛冶師がいたからよ」




『その報告は聞いていない。そんな存在がいるとすれば由々しき事態だ。我ら誇り高きドラゴン族が俗物の手に渡るなどあってはならぬ。この情報は全種族に共有せなばならぬ情報だ。女、その鍛冶師の名を言え』




「言うものですか。むしろ私たちこそ貴方を倒さなければいけない理由ができたわ」






リーシアは初めて武器を抜いた。レベルが足りず装備できなかったアリッサ渾身の力作を。






「新垣君、麗奈、武人君、先に謝っておくわ」




「いえいえ、むしろお供させてください」




「ああ、竜退治などおとぎ話だけかと思っていましたが、まさかその身で実現させることができようとは思っていなかったです」




「ふぅ……やるしかないようね」




「ジェニファ、行くわ」




「はい、お嬢様の御心のままに」




『空気が変わったな。どうやらここを死地と認めたか』




「いいえ、それは私たちの死に場所じゃないわ」




『むッ!?』






風を纏ったリーシアが視界から一瞬で消え――――






「ここは貴方の死に場所よ!!」




『なにッ!?』






緑色の閃光がサンダードラゴンの胸に突き刺さる。






「浅いか…」




「リーシアさんが風に乗っている……」




「呆けている場合じゃありません!!武人!!!行きますよ!!」




「あ、はい!!新垣!!麗奈!!」




「うん!!」




「オーケー!行きましょう!!」






ジェニファの声に3人は反応し、土砂降りの雨の中の短くも長く長く続く死闘が始まった。


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