第1話

彼女は生まれつき、病弱だった。

そして、それに見合わないほど、ほかの誰よりも活発だった。


ぼくらは同じ年に生まれて、家も近く、ありきたりだが、兄弟のように育った。

彼女が兄で、ぼくが弟だった。彼女は決して姉ではなかったと思う。


ぼくは彼女の事を、夏と呼んでいた。理由はシンプルで、彼女の名前に夏の字が入っているからだ。夏、と聞くとぼくは、あの暑い、人類の全てが狂ってしまう季節ではなく、彼女の事を思う。


ぼくたちの街には海があって、彼女はよく砂浜を駆け回っていた。雨の日でさえ。そしてその夜、必ずと言っていいほど熱を出し。翌日になるとまた砂浜を駆け回った。


黒い髪に焼けた肌、それとTシャツに短パン。見た目だけでいうと、彼女は一切病弱には見えなかったが、時折、夜間診察を受けることもあった。


夏は異常な提案や質問をいくつもした。でもそれは実際には命令だった。そしてそれはほぼ全てぼくによって実行された。


「水平線の向こうは何があるのかしら?」


「ヤドカリって美味しいのかしら?」


「おちんちんを蹴られると痛いって本当?」


etc...


これら全ての後には、

「試してみて」や、「試していい?」と言った文言が付け加えられる。


最初の頃、ぼくは彼女の提案を却下することも多かった。大体は却下すると、彼女は全くもって理不尽なことに、暴力によってぼくにいう事を聞かせた。


しかし、男性器を蹴っていいかというものに関してはぼくは激しく反対した。彼女はぼくを殴った。それでも、その時だけはいう事を聞かず、彼女を殴り返してしまった。彼女はひどく驚いた後に、泣き出しそうになった。そして、彼女はぼくの男性器を蹴り上げた。ぼくは泣いた。


そしてその夜、彼女は今までにない高熱を出し、彼女を乗せた救急車のサイレンが街に響いた。


ぼくは自分のせいだと思い、初めて神に祈った。


もう、彼女を殴ったり、逆らったりしません。だから夏を助けてください。


そんな事をずっと心の中で繰り返していた。


そんな願いが通じたのか、彼女は二日後にはまた浜辺を走り回っていた。


人の気も知らないでと思わなくはなかったが、とりあえずは安心した。


それから僕は二度と彼女の提案を否定しないことに決めた。神様が見ている気がした。


それに、彼女もそれ以降、以前ほどめちゃくちゃな命令はしなくなった。


思えばこの誓い。いや呪いが彼女を殺したし、僕がチャックノリスと戦うことになる第一歩であった。

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