チャックノリスとステゴロで戦う話

二面のボス

プロローグ

「私、チャックノリスをボコボコにするわ」

ぼくの従姉妹はそう言って、そして死んだ。

だからぼくは、チャックノリスを目にするたび、また、チャックノリスファクトを目にするたびに、彼女の事を思い出す。


いま、ぼくはチャックノリスの目の前にいる。だから、今までにないくらい鮮明に彼女の事を思い出す。


忘れたことなどないのだけれど。


油断している暇は無い。

チャックノリスは次々と拳や蹴りを繰り出してくる。

ぼくがいま戦っているチャックノリスは野生のチャックノリスであったが、それでも今まで戦った誰よりも、人体を壊す術を知り尽くしたように攻撃を繰り出してくる。

防戦一方。しかし、ぼくはジッと耐え、攻撃を避け続けた。無限にも思える長い時間。しかし、好機はやってきた。チャックノリスがバランスを崩したのだ。

ぼくはここぞとばかりに、チャックノリスの顔面めがけて拳を突き出した。


必勝のタイミング。


……のはずだった。


チャックノリスはそのパンチをダッキングで難なくかわし、上体を起こす勢いで、鋭いアッパーカットを繰り出してきた。


一瞬で身体から冷や汗が噴き出してくる。正確にぼくの顎を狙って放たれたアッパー。食らえば必死、ぼくはなんとか避けようと上半身ごと頭を後ろへ。


間一髪、チャックノリスのアッパーは空を切る。


はずだった。


次の瞬間、ぼくは膝から崩れ落ちていた。

チャックノリスの拳は僅かにぼくの顎先を掠めていた。


意識が薄れそうになる。立て直す時間が必要だ。


ぼくが無様に膝をついている間、チャックノリスは待つだろう。チャックノリスは"最強"なのだから。


その間に、話をしよう。


僕が何故、チャックノリスと戦っているのか、そしてそれを語るには避けて通れない、ぼくの従姉妹の話を。


壊れかけの身体に、誰よりも力強い魂を宿していた、彼女の話を……

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