炎の魔法使い ~ 怪異譚は眼帯の巫女とたゆたう ~

佐久間零式改

第1話 殺人予告と自殺予告


「何故、私が魔法使いであると誰も信じてくれないのだろうか? これだけの魔力を持っているというのに、何故誰も私の魔法を本物だと断定してくれないだろうか?」


 喋っている男の自室なのだろうか。


 読んだ本が転がっていたり、食べ終えたお皿などが床にそのまま置いてあったり、使用している布団がそのままの六畳ほどの洋間であった。


 その部屋の中央に、黒いマントのようなコートを羽織った男が立っていて、手にしているスマホで自分を録画しているようでカメラの方をじっと見つめている。


 年齢は二十台後半だろうか。


 どこか人生を達観しているような目が浮世離れしている感を演出しており、三十代にはとても見えなかった。


 髪はボサボサで、外見などには頓着していなさそうだった。


「皆に信じてもらうために私は壮大な実験をする。そうしなければ、誰も私を魔法使いだとは信じてはくれないのだろうから……」


 嘆かわしいと言いたげに、男は頭を抱えるようにして手を添えて、何度か頭を横に振った。


「その証明は……」


 男は顔をすっと上げて、カメラ目線になった。


「私をペテン師とSNSでずっと罵り続けている男がいる。その男の名は水沼英二みずぬま えいじ。確か……栃木県に住んでいるはずだ。その男を私の魔法で焼き殺す」


 男は真剣な眼差しでこちらを見つめている。


「私の東京都の自宅から水沼英二が住んでいる場所までの距離は百キロ以上も離れている。私が自宅から魔法を飛ばして、その男を焼き殺すのだ。私が魔法を用いたという証明にならないというのならば、何が証明となるというのだろうか」


 不意に男はカメラから目を逸らして、床の方を見た。


「魔法で人を殺したとしても罪には問われないと言われている。魔法を使用して殺したという事を現代科学では証明できないからだと言われている。しかし、私が人を殺してしまったという事実だけは残ってしまう。だから……」


 愁いを帯びた瞳で、再びカメラに視線を送る。


「私の命と引き換えに、というのはどうだろうか? つまり自殺するということだ」


 憂いから自嘲へと表情を切り替えて、


「ただ自殺するのでは芸がない。自分も魔法で死ぬというのはどうだろうか? 水沼英二を焼き殺すとの同じように、自らも焼身自殺しようかと思う。俗に言う『人体自然発火』という奴だ。人を殺す代償が自らの命であれば、条件としてはいいのではないだろうか」


 男は提案するように言うも、当然の事ながら答える者はいない。


「最後に言わせてもらえば、私のは超能力ではなく魔法だ。魔力を使って、五行を操る……それが私の魔法の根源でもある」


 男はどこかに手を伸ばした。


「私は……」


 カメラというべきか、視聴者に見せつけるように赤い宝石のような結晶をかざした。


 映像はここで途切れてしまっている。


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