ファラとニアと最期の手紙

木船田ヒロマル

最期の手紙


〜親愛なるウィルへ


 困ったわ。

 書くと決めて便箋を広げてペンを取ったのに、いざとなると、何を書いていいか分からないものね。

 OK、まず、はっきりしている事から書くわね。

 私はあなたを心から愛していたし、あなたからの私への愛情を目一杯に感じていたわ。


 あなたは私の知る中で──単純に知っている、という意味よ──間違いなく最高の男性で誰よりも優しかったし、望まれない子供として、少し複雑な家庭に生まれた私の人生を豊かな、輝いたものにしてくれた。その事には本当に感謝しているわ。ありがとう。


 そしてごめんなさい。

 今の両親は、大金を掛けて私の命を繋ごうとしてくれているけれど、私には分かるの。今回の手術が上手く行ったとしても、つまり、長くは持たないだろうってこと。(手術が上手く行かなかった時のことは説明しなくていいわよね)

 私はあなたが与えてくれたところに対して、殆どなんの恩返しもしないまま、遠くに行くことになるのだと思う。それは私の本意では勿論ないのだけれど。


 最後にこうして柄にもなくペンで手紙なんて書いた理由は三つ。


 一つはあなたに感謝を伝えるため。

 一つはあなたに謝罪するため。

 そしてもう一つは、ニアのこと。


 ニアの近くに居て、彼女の支えになってあげてほしいの。


 私が──なるべくそうならないようにはするつもりだけど──いなくなったあと、ニアはきっと自分を責めて、酷く落ち込むと思うの。あの子の性格は、あなたも知っているでしょう?


 あの子も、妹もあなたのことが好きだったのよ。出会った時からずっと。

 あなたは、病弱な私に優しくて、私に繰り返し好意を示してくれて、妹はそれを理解して、私たちを応援してくれてはいたけれど、内心は辛かったと思う。出来た妹の配慮に甘えていた私は、下等な姉だったかも知れない。


 でも、私には時間が無かった。神さまが許してくれた短い時間を好きな人と過ごしたかった。事実、私はこの旅行から途中下車することになるだろうし、妹も、ニアもそのことを解っていたのだわ。


 この手紙があなたの手元にあるということは、そうなった、ということなのよね。


 最後のわがままよ、紳士のウィル。

 すぐでなくてもいい。

 必要な時間が過ぎたら、あの子の話を聞いてあげて。

 ううん、話を聞かなくてもいいわ。

 黙ってそばに居てあげて。


 それが私への、愛だと思ってほしいの。

 お願いよ、ウィル。

 愛しているわ。永遠に。


〜ファラより 最大の愛情を込めて

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