第31話 大会が始まる。
「いよいよ美水希ちゃんの〝白〟競泳水着デビューの日ね!」
颯希ねーちゃんが興奮した様子で声を張り上げる。
「おねーちゃん恥ずかしいから大声出さないで」
それをたしなめる芹沢さんはポテトをかりかり食べていく。
ここは近所のファストフード店。
俺、芹沢三姉妹そろって学校帰りの寄り道である。
「だいたいあの水着おかしいんだから。妙に際どいっていうか……なんだか練習中のみんなの視線が気になって、あまり着ないようにしてる」
ストローを噛んで眉間に皺を寄せる。
一体なにがみんなの視線を集めているのかに全く気付いていない様子の芹沢さん。
「それはあれだな。あーちゃんのセンスの問題だな」
夏杜希が大きいバーガーを平らげてから矛先を俺に向けてきた。
「やっぱり。きみ、最初から分かっててあれを選んだのね?」
「まあまあ、おねーちゃんはとってもいいと思うの。ゆうくんはとても素敵な水着をえらんでくれたんだよ」
「おねーちゃんが言うと益々……」
浮かない表情の芹沢さんが、むむっと力強い視線を向けてくる。
居心地の悪さについ、目をそらしてしまう。
「なにかあるんだ……」
自分だけわからなくて拗ねてしまう芹沢さん。
まあ、今さらあの時選んだ水着が実はコスプレ用の衣裳だったとは言えない。
というか、練習の時にきたのか?
タグとかにコスプレ用みたいなこと書いてなかったのかな……。
「その時の姿を撮ったお写真は、残念だけどゆうくんには見せられないわ」
颯希ねーちゃんはとても残念そうに、かつ優越感でマウントをとってくる。
一々相手にしていても仕方がない。
「また勝手に人のことを。それ盗撮だから、いつか通報する」
静かな声で言う芹沢さんからそこはかとない凄みがにじみ出ている。
それに慄く颯希ねーちゃんがあたふたと言い訳を繰り広げるが、芹沢さんは聞く耳を持たないのであった。
「家に帰ったらすべて没収」
「いやよーお願いよーそれだけは許してー」
毎度おなじみの光景に一々つっこむこともない。
夏杜希は続けて超巨大バーガーに挑んでいたが、すでにお腹一杯なのか諦めて残りを芹沢さんに渡した。
「みずねーはスタイル抜群だからなに着ても似合うんだ!」
「そういう問題じゃない」
「でも、あーちゃんが選んでくれた水着だよ? あーちゃんも喜ぶと思うんだ」
無邪気というか(最近確信犯的なものを感じるのは俺だけか?)あどけない風を装って夏杜希が颯希ねーちゃんの援護射撃を加える。
すると、上目遣いで俺を見る芹沢さん。
〝それってホントなの?〟と目が語っている。
いじらしい仕草に思わず〝ぐわー〟と感情の高ぶりを感じてしまう。
「ってー、ダメダメ。騙されないんだから!」
しかし、すぐに正気を取り戻した芹沢さんは夏杜希の言葉を跳ね返した。
「意外とみずねーは頑固だな」
きゃはは、と笑う夏杜希を胡乱な目で見る芹沢さん。
すべてがアホ発言でないところが始末に終えない。
「せっかく次の大会の日にその褐色と白との美しいコントラストが映えると思ったのに」
至極残念そうにため息を漏らす颯希ねーちゃん。
こればっかりは俺も同じ思いである。
絶対にあの水着が芹沢さんには似合う! と。
「うう~、絶対に着ないんだからね!」
芹沢さんはダメ押しにさらに拒否を宣言する。
週末は芹沢さんの水泳の大会がひかえている。
そこを勝ち進めば、県大会へと進む。
芹沢さんの熱い夏が始まろうとしていた。
それはそうと、ここでの会話がフラグだったことに気が付くのはまだ少し先のことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます