第23話 芹沢 美水希とパフェ
いろいろ見て回って疲れた足を休めよう、ということでおしゃれなカフェに入った俺たち。
「なんか、二人っつーかカップル多いな……」
流石はおしゃれなカフェといったところか。
ドアウェイの場違い感はんぱなくって落ち着かない。
「私たちもカップルに見えるのかな?」
「そ、それは……」
うう、ここで素直に「そうだね」って返せるわけないだろ!
「ふふ、冗談だよ」
朗らかに笑っているけど、どこか不満気な芹沢さん。
もしかして、カップルに見られたいの?
「ていうか、やっぱ憧れるじゃない?」
そんな澄んだ目で答えられると照れている自分に恥ずかしさを感じてしまう。
「あは、はは、そうだよね。恋人と二人でっていうのは憧れるよね」
と言ったはいいが、なにこれ? 場の空気に呑まれてる!?
俺と芹沢さんの間に妙な空気が流れて……その、気まずい。
ちょっとうつむき加減で「うん」と頷く彼女の横顔が大人っぽくって、どきりと胸の鼓動が高鳴る。
頬がほんのり赤くなってるのは彼女にも照れがあって。そう思うとより意識しちゃって……どどど、どうしたらいいの?
と、テンパってる間に店員さんに案内された席についていた。
向かい合った芹沢さんと目が合って、慌てて視線をそらす。
「ぷ、あはは。こういうのって気にしたら負けなんだよ」
「あはははは、そうかもしれないね」
二人してあたふたしてるものだから可笑しくなって笑ってしまった。
そのおかげで少し気持ちが落ち着く。
さっそくメニューを取り出した芹沢さんは悩ましげな声を上げる。
「んー、この苺パフェ……いやチョコにするべきか……でも抹茶も捨てがたいかな……」
すっかりメニューに気を惹かれた芹沢さんが真剣な眼差しでどれを注文するか迷っている。
俺は極彩色のメニュー表に
こう……きらきらした感じ? のメニューって苦手なんだよな。
なんちゃらかんちゃらフラペチーノ的な。
「きみはなにが食べたい?」
「ん~そうだな~」
するとそこに店員さんがやってきて、
「こちらのカップル限定『ゴールデン
「はっ?」
一瞬なにを言っているのか分からなくなってぽかんと口を開けてしまう。
あまりに仰々しいネーミングにそれがパフェであることがすぐには理解できなかった。
おまけに店員さんは「ほら、かかって来いよ。遊んでやる」みたいな顔をしている。
コレは乗っちゃいかんやつ、と直感が囁いている。
「ぜひ、ぜひ! それをお願いします!」
「ってぇ~? ほんきで芹沢さん!?」
「本気本気、大マジだよ!」
そんなキラッキラの笑顔で答えられても……。
なんともデンジャラス(完全にカップルを殺しにきてるとしか思えないネーミングの)注文を出した芹沢さんは早くもそわそわしだす。
一体どうなものが出てくるのか戦々恐々な俺とは対照的だ。
つーか、カップル限定なんだよね? まあ、男女二人でお店に入ればそういう風に見られて当然なのかな。
食い気の方が大きい芹沢さんはそこのところは無頓着なようだ。
それはそれでちょっと寂しかったり。
「お待たせしました。こちら『ゴールデン
にこにこした店員さんが運んできたのは、それはそれは名前のインパクトに負けず劣らずのとんでもないパフェだった。
大要塞。
他にどう形容していいのか俺にはわからない。
峻険な山脈の如く乱立する生クリームにアイスにコーンにフルーツ。
彩り豊というより最早カオスである。
しかし、芹沢さんにとってはとても素晴らしく美しいものに見えるのだろう。
「わあー! すごいすごい! さあ、食べよ」
「う、うん」
渡されたスプーンを握り締めて、どこから手をつけていいのか……。
まさに難攻不落の大要塞といったところか。
「どうしたの? おいしいよ?」
はぐはぐ、もきゅもきゅ。
そんな擬音が良く似合う食べっぷりの芹沢さん。
無邪気にはしゃいで超巨大パフェを楽しんでいる。
30分以内に食べないと法外な金額を請求されるわけだから、俺も負けて入られない。
いざ尋常に勝負。
φ
いやいや、むりむり。なにこれ? パフェ? どんなに食べ進んでもそこが見えないよ?
食べ始めて5分も経たないうちに俺はギブアップである。
「もう、情けないんだから」
「うう、面目ない……」
初めこそ、芹沢さんと同じ容器でパフェ! とか甘酸っぱいこと考えてたけど、そんな余裕はあっという間に蹴散らされた。
甘い甘い! もう甘さだけならその辺のカップルにだって負けません!
量も普通じゃない。
ラーメンの全増しを遥かにしのぐ物量。
デザートでこれはヤバイ。
しかし、そこは芹沢さん。流石と言うべきか……。
ぱくぱく、もぐもぐ、もっきゅもっきゅ、はぐはぐ。
小さな口をめいっぱい広げて、アイスを口に運んでいく。
パフェをすくってニコニコとしたの上に広がる甘味に舌鼓打つ芹沢さん。
一口の量は多くはないけど、スプーンを運ぶスピードが桁違いである。
一体このスリムな身体のどこにこれだけの量のパフェが消えていくのだろうか。
美味しさに表情を蕩けさせて微笑むほどの余裕すら見せる。
「まさかこれほどの胃袋をもつ譲ちゃんがいたとは」
お店のパティシエの人だろうか、超巨大パフェを食べる芹沢さんの姿を見て
そして、残り時間一分。
「あーん。ふう、おいしかった~」
芹沢さんはほとんど一人で、この大要塞パフェを食べきってしまった。
「全然手伝えなくってごめん」
「いいんだよ。すっごくおいしかったし」
心から満足しているのだろう芹沢さんは笑顔で言う。
「お、おめでとうございます。完食された方はお二人が初めてです」
店員さんがやってきてパフェ完食を称えて拍手を送ってくれる。
そして、記念として写真撮影をお願いされた。
「完食したカップル様の記録としてお店に飾らせて頂きたいと思います」
「そういうの恥ずかしいよ」
と芹沢さんは言うけど、水泳の大会なんかでこういうことはなれているのか快く受けていた。
微力ながら一緒にパフェを食べた俺も写真に加わり二人で完食したパフェの器を掲げて笑顔を向けた。
「ああ、ちょっと口にクリームがついてるよ~」
「あはは、可愛くっていいじゃん」
「むう、そういう問題じゃなくって」
超巨大パフェ完食を称賛する声に囲まれながら俺と芹沢さんはお店を後にしたのだった。
余談だが、これが後に『
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