第11話 嘘
アリアはイヴに言われた通り1人悲しく前を歩いていた。5人は仲良く話し合っているようだった。できれば混ざりたい、しかしイヴに後で追いつくから先に行っといてほしいと念を押されたので仕方なく歩く。
(何の話をしてるんだろ。 気になる……)
前を見るとあんなに居た新兵達が豆粒程の大きさに見える。
(ついつい助けちゃったけど、この後怒られるんだよね……)
確かに自分の善意でやったことだが、今になって後悔してくる。
(いや、大丈夫。 怒られるならみんな一緒のはずだから。 でも、怖いな……。 ううん、大丈夫。 今になって考えても仕方ない。 嫌なことは後で考えよう)
現実逃避を済ましたところで後ろから足音が聞こえてくる。その音は大きくまるですぐ後ろにいるようだった。振り向くと10m程先にイヴが早歩きで近づいてきた。
「すまねぇなアリア。 1人にしちまって」
「別に構わないです」
「もしかして怒ってるのか?」
「はい、怒ってます」
(これは、まずいな……)
イヴはどれから話そうか考えるが、とりあえずはアリアの機嫌を直すこと方向にシフトする。後ろを見るとフォンティル達がそこまで来ていた。
「アリア、本当にすまなかった。 次からはもうこういうことしないからさ」
機嫌を悪くしてそっぽを向いていたアリアはその言葉でチラッとイヴを見る。
「ふふっ、嘘ですよ」
「え?」
イヴは呆気に取られるが、すぐに状況を整理し、アリアが無邪気に可愛く笑っているのが聞こえたのでようやく状況を飲み込む。
「これは仕返しです。 次からは私も入れてください」
「はあ〜 そういうことか。 びっくりしたぜ」
イヴは安堵する。それと同時にフォンティル達に質問をし、答えた時の反応が楽しみで仕方なくなった。
(あいつらに配慮してアリアを先に行かせていたが、怒ると少し怖いな……。 次からはやめるようにしないとな)
イヴはアリアを怒らしてはいけないと、胸に刻む。
フォンティル達が追いつくように速度を落としてゆっくりと歩く。しばらくすると追いついてきた。
「はぁ…… はぁ…… やっと追いついた。 ローランさん少し早いよ。 俺達怪我してるんだからさ」
「そうか? 悪りぃな。 次からは気をつけるからさ」
イヴがそう答えると3人の男達は礼を言う。
「それにしてもさっきまで見えていた私達の同期達が見えなくなりましたな」
「 俺達やっぱ本当に見捨てられたんだな……。 まだ期待していたんだ。 俺達を、仲間を助けてくれる奴がいるって。 でも、このメンバーしかいないんだな」
「私は怪我をしなければ同じように見捨ててました」
「実は私もそうですぞ」
「俺達は仲間だ。 共に乗り越えた仲間として絶対に裏切らないことを誓う」
ゲルネルツとエリアはそれに頷く。
「僕もみんなと一緒だよ。 自分がどうしようもない時に助け合おう」
「あたし達は仲間なんだ。 もう何も怖くないよ。 まずは、45部隊第1の試練の長距離移動を脱落者を出さずにクリアしなきゃな」
「そうですよ、皆さん頑張りましょう」
「ああ、そうだな」
ここにいる仲間は大切な存在だ。例え何があろうとも助け合おう。そう思った。しばらくして、イヴが思い出したかのように口を開く。
「そういや、お前らあたし達が兵士になった理由を聞きたいんだろ?」
3人の男達は体がビクついたように見えた。実際には鎧を着ているので見えないが……。イヴは楽しそうにしている。きっと顔を保護する鎧の下は悪い笑顔だろう。しかし、王国の鎧は取らないと顔すら出すことができず、基本的にどの部分であっても脱ぐことは禁止されているのは非常に不便だと感じる。
そんな考え事をしていると、イヴは更に追い討ちをかけるように口を開く。
「おいおい、まさか聞かねぇってことないよな?」
(やはりダメだったか……)
(万事休すですぞ)
(ですね)
フォンティルを除く男達は顔を動かし意思を伝えるようにする。ここに来るまでナイラルク達は簡単な作戦である別の話題を振って忘れさせる作戦を実行していた。途中まではうまくいったと思ったが、それも先程のイヴの言葉で儚く散る。
「大丈夫だ、聞こう」
ナイラルクは他の2人の意思を読み取り代表して答える。
「答えてくれて安心したぜ。 まあ、無理と言われても聞くと言うまで追い詰めるつもりだったがな」
その言葉を聞き震え上がる。一体あの時否定的な言葉を言えばどんな仕打ちが待っていたのだろうか……。男達はその考えを振り払い覚悟を決める。
「それじゃあ聞かせてくれるか?」
「ああ、いいぜ。 アリアも大丈夫か?」
「はい、構いません」
「それじゃあ、あたしから行かしてもらうが、1つだけ聞く上で忠告がある」
それを聞きアリアを含むイヴ意外の兵士達に緊張が走る。しばらく間を取りイヴは口を開く。
「あたしが何を言おうと誰にも言うんじゃねぇ、それだけだ」
それに無言で全員が頷く。イヴはそれを確認して再び話し出す。
「よし、それじゃあ話してやろう。 あたしが兵士になった理由は帝国を倒すためだ。 それと、今の王国を変えたいと思ったからだ」
あれだけ渋って言ったことは大抵の兵士が思っていることで、それを自信満々に言われて少し困惑する。
「なんだ、誰にも言うなとか言うから、どんなことを言うと思ったら……。 別にそこまで警戒する必要はなかったな」
「そうですね」
男達は全員息があったように頷く。アリアはオロオロしている。
「あんたらがどう思ってるかは知らないけど、あたしにしちゃ…… は、恥ずかしいんだよ」
その反応を見て、ナイラルクは鎧で見えないが、ニヤリと笑う。
「そうかそうか、ローランさんも言葉はアレだが、立派な女性ということか」
「うるせぇ!」
「ギスターヴ下兵、あまりそういうことはよろしくない。 ここはきっぱりと可愛いとこあるじゃんと言うべきですぞ」
「可愛いとこあるじゃん」
フォンティル以外の3人の兵士が笑いながら煽りまくる。それを側から見ていたフォンティルはイヴが無言になっているのに気づき、口を開く。
「そ、それ以上はやめた方が……」
「何言ってるのですかエルドナフ下兵。 先程からローラン下兵は歓喜に震えてるではありませんか」
「「え?」」
ナイラルクとエリアはその言葉で気づく。鎧が揺れているのだ。ありえない、普通では。そして、後悔する。やり過ぎてしまったと。騒ぐゲルネルツを黙らせ、反省する素振りを見せる。
(これは、不味いんじゃないか? 先程まであんなに話していたのに……)
しばらく沈黙が続き、ようやくイヴが口を開く。
「どうしたんだ? そんなに黙って。 早く続けろよ」
今の言葉で生物的本能が叫んでいる。イヴはキレている。
「すまなかった!」
ナイラルクが渾身のの謝罪を披露する。
「別に謝らなくていいさ。 ただ、この後どうなるかわかってるよな」
終わりだ、そう思った。この後どんなことしようと無理だと。そして、もう絶対あんなことしないようにしないと心に誓うのであった。
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