2月6日──奥の湯

 曲がりくねった真っ暗な路地の向こうに灯りが見えた。

 木造の建物──。

 入口には「ゆ」と太筆で書かれた暖簾のれんがかかっている。

 ガラリと引き戸を開け中へ入る。

「イラッシャイ」

 番台に年寄りの婆さんが坐っている。

 ひとり四十五銭とある。

 あまりの安さに驚いていると、だから銭湯というのじゃありませんかと云われた。


 奥へ進むと広い湯船が広がっていた。

 向こう岸も天井も霞んでよく見えない。

 ずっと向こうには大きな柱の影がぼんやりとある。

 生暖かい湯船に入ると、なだらかな傾斜が続く。

 やがて胸元までお湯がきたので、平泳ぎで進んでいく。

 どこまで泳いでも対岸は見えそうにない。

 辺りを見ると大勢の裸の男女が同じように黙々と泳いでいた。

 力尽き、ぼくの眼の前で湯の底へと沈んで行く者もいた。


 と、何かが身体に触る。

 蒼い魚。

 鮮やかな色をした熱帯魚の群れにつられ、ぼくは泳ぐ速度を速めていった──。


◉2月6日は「風呂の日」

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